Italian Progressive Rock 2


管理人自身イタリア語がわからないので,邦題のあるものはすべて邦題を併記しています.

2.Locanda delle fate

  イタリア・プログレのNO.1,いやクリムゾン以外ではすべてのジャンルで1,2位を争います.7人編成という大所帯だった彼らですが,’77〜78年にアルバム1枚,シングル1枚出しただけで解散の憂き目にあいました.プログレが衰退していく末期に登場したため,「遅れてきた大物」とか「イタリア・プログレ最後の煌き」などの形容詞がついて回りました.
 クラシックを巧みに取り込んだスケールの大きさと美しい旋律が魅力ですが,同じく壮大なクラシカル・ロックを聴かせるルネサンスなどとはやはり違いが感じられます.ルネサンスは,美しさの中にブリティッシュ特有の深みや暗さを感じさせますが,ロカンダ・デレ・ファッテは華やかさ/情感が前面に出ています.また翳りを感じさせる部分もブリティッシュ系のモノトーンな陰鬱さとは違って,淡い色彩感の哀愁という表現が当てはまるように思います.

 時代の流れに飲み込まれて行ったロカンダですが,近年のプログレCD再発・音源発掘ムーブメントにのって,’93年(たぶん)ラジオorテレビ番組出演時の音源を元にした擬似ライブ盤が発売され, ’99年ついに再結成による新作が発表されました.新作は全体に小粒になった感じで,’70年代のイメージそのままではありませんが,さすがと思わせる部分もあり佳作と言えます.

(1)「FORSE LE LUCCIOLE NON SI AMANO PIU/妖精」
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1. A VOLTE UN ISTANTE DI QUIETE/ひとときの静寂 
2. FORSE LE LUCCIOLE NON SI AMANO PIU/蛍が消える時
3. PROFUMO DI COLLA BIANCA/白色の香  
4. CERCANDO UN NUOVO CONFINE/新しい世界を求めて  
5. SOGNO DI ESTUNNO/憧れ 
6. NON CHIUERE A CHIAVE LE STELLE/星に鍵をかけないで 
7. VENDESI SAGGEZZA/誤ち 
(ボーナス曲)
8. NEW YORK/ニューヨーク  9. NOVE LUNE/9番目の月


 文句のつけようもない傑作.即興性や個性のぶつかり合いを期待すると裏切られますが,確かな技術に裏付けられた様式美が華麗に展開します.全編を通して見事な色彩感をもった旋律がぎっしりです.その楽曲,アンサンブル,演奏技術,どれをとっても期待を裏切りはしません.このアルバムについては,書きたいこと,伝えたいことはそれこそ無限にありますが,冷静な文章は書けそうにありません.したがって,ここではその雰囲気を伝えることに専念したいと思います.
 
 「1.ひとときの静寂」はクラシカルなピアノから始まり,小気味いいリズム隊,少し哀愁を帯びたギターの旋律へとつづきます.甘美なメロディー・ラインに耳を奪われがちですが,ドラムに代表されるリズム隊もお見事.1曲目があまりにも有名ですが,それだけが突出しているのではありません.2曲目以降も華麗で美しいメロディーがこれでもかと続きます.が,1曲目と違い男臭いボーカル(Vol. Loonard Sasso)が加わります.華やかな印象の強いメロディーに反し,非常に男っぽい野性味あふれる声は最初違和感を感じるかもしれませんが,よく聴くとしっかりと馴染み,楽曲の魅力を削ぐものではありません.

 とくに1曲目に勝るとも劣らない甘美かつ華麗な「2.蛍が消える時」のイントロに続き,男臭いヴォーカルが入ってくると戸惑うかもしれません.しかし,ぜひこの曲を最後まで聴いてください.ある種女性的な華やかさをもった旋律にふさわしいのはこの声質だと,納得してもらえるはずです. 
 最後の「7.誤ち」まで中弛みすることなく一気に聴かせ,7曲目の最後に1曲目の特徴的なメロディーがくり返されてアルバムが終わります.

 ポリドールからでているCDには,’78に出たシングルの2曲がボーナスとして収められています.オリジナル・アルバム収録曲に比べればやや劣りますが,ファンにはうれしいボーナスです.

 最後に,音楽性とは関係ないですがオーディオ話を.1曲目の冒頭,ピアノからドラムへとつながっていきますが,どちらも音像が(向かって)左に偏ってます.その後登場するギターやフルートも中央かやや左.しばらく聴いていると,途中で加わるギターやホーンなどは右側に振ってあるので,意図してやってると思うんですが,ドラムやピアノが終始左に偏ってるのでどうもアンバランスな印象があります.リマスターCDが出てこのへん改善されないかなあ.

(2)「LIVE/ニンフの戯れ」
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1. PROFUMO DI COLLA BIANCA/白色の香  
2. NON CHIUERE A CHIAVE LE STELLE/星に鍵をかけないで 
3. FORSE LE LUCCIOLE NON SI AMANO PIU/蛍が消える時 
4. LA GIOSTRA/回転木馬 
5. CERCANDO UN NUOVO CONFINE/新しい世界を求めて  
6. SOGNO DI ESTUNNO/憧れ  7. VENDESI SAGGEZZA/誤ち
 

 テレビorラジオ放送用の音源に拍手などの効果音をかぶせた擬似ライブ.音質もそんなに良くないですが,1stアルバム未収録の「4.回転木馬」が収録されていること,現在唯一のライブ盤であること(わたしはBootlegの存在も知りません.どなたかご存知の方がおられたら教えてください)などを考えると,1stが気に入った方は「買い」でしょう.

 アルバムの印象からも想像できるように,ライブだからといってアドリブはほとんどありません.ではライブ盤の意味がないかというと,けっしてそうではなく,ライブでもきちんとスタジオ録音を精緻に再現していることに聴き所を感じます.クリムゾンを聞くスタンスとは180度逆ですが,これはこれで良いものです.もちろん微妙なアレンジの違いを楽しむという手もあります.

(3)「HOMO HOMINI  LUPUS/妖精の帰還」
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1. HOMO HOMINI LUPUS/妖精の帰還 
2. IL LATO SPORCO DI NOI/我々の汚れた側面 
3. GIRO TONDO/回転する円  4. BANDANDO/バンダンド 
5. PLOVI BARKO/プロヴィ・バルコ 
6. STANNOTE DIO CHE COSA FA?/スタノッテ・ディオ・ケ・コザ・ファ? 
7. LA FINE/終わり  8. CERTE COSE/確実なこと 
9.OJKITAWE/オイキタウェ 
10. I GIARDINI DI HIROSHIMA/ヒロシマの庭  11.FUMO/煙


 まさかまさかの再結成によるニューアルバム.(まあ最近の’70年代バンドの再結成ブームを考えるとまさかでもないかもしれませんが) アルバムの邦題が原語のタイトルと全然関係なくて,むりやり妖精という単語を使ってるあたりに,商売っ気がちらついて気に入らないんですが,内容が悪くないので良しとしましょう.正式メンバーは3(or4?)名で当時のメンバー7名のうち何人かは,ゲスト参加という形をとっています. 全体的に小粒になり,複雑に音を折り重ねるような華麗な旋律も影を潜めていますが,随所に素晴らしいアンサンブルを聴かせてくれます.また壮大というわけではありませんが,叙情性たっぷりの見事な構成力も健在です.

 1,2,7曲目などは往年の叙情性たっぷりの様式美を感じさせる佳作ですが,わたしのお気に入りは8,9曲目です.このアルバムと「妖精」の比較で,一聴してわかる違いは,やや軽く小粒になっていることとあの男臭いボーカルがなくなって,もっとあっさりとした声になっていることです.けっして下手なボーカルに交代した訳ではないので,評価に関しては純粋に好みの問題だと思います.

 「8.確実なこと」は美しいスローバラードでやや影を帯びたボーカルとよく調和していて,今回のボーカリストAlberto Gaviglioに一番よく合っていると思います.そして,このアルバムの最大の目玉は,華麗なピアノで始まり,フルートとギターが美しい旋律を奏でる「9.OJKITAWE」.このピアノを弾いているのが,「妖精」の「1.ひとときの静寂」でピアノを弾いていたMichele Contaです.彼はこの曲のみのゲスト参加で,欲をいえば彼が正式加入したニューアルバムを期待したいですね.

 軽くなった点を強調したかもしれませんが,歌詞はシリアス,アルバム自体もコンセプト・アルバムになっています.’70年代のプログレに抵抗を感じている人はこのCDから聴いてみるのもいいでしょう.
 

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