ランスロット
彼が私を殺したのだが、この友人に私は現在も過去も一度も悪意を持った事が無いと思う。何しろ彼と私はベイリンの二振りの遺剣を分け合ったのだ。(ちなみに、彼の剣の名はアロンダイトと言い、私の剣の名は真エクスカリバー、或はカラドボルグと言った。)彼に嫉妬するのは事情を知らない者だけだ。彼と私は同じくアーサーの、というよりアーサーの王国の犠牲者であった。但し役割は彼が偶像とて利用され、私が汚れ役を勤める事だったが。いずれにせよ私達は自分にとても合っているとは思えない役割を本当に長い間こなした。

太古の女神達!その血を引く王女達はいずれも人間以上の美しさを持っていた。私は二人の実例を知っており、一人がアルビオンのギネヴィアであり、もう一人がエリンのイゾルデである。

そして彼等を権力者達は政略の道具として、あるいは配下の者への生餌として利用したのだ。キリストの婚礼の誓いが君主と女神の末裔を鉄の鎖で縛りつけた。これを知らないうちに発見したのはティンタジェルのマルクだったが、この気弱だが優しい王は消極的にしか利用せず、狡猾なアーサーはマルクをリオネスとコーンウォールの一部に逼塞させる事に成功した。

アーサーは私に尋ねたものだった。マーリンやマルクのように(或いはランスロットやトリストラムのように)悲惨な愛の虜になるか、それとも自分のように愛と絆を侮辱し、腐敗させる者のどちらが不幸かと。私はどちらも御免だと言った。アーサーは笑い、その場は終わった。

アーサーの宮廷がどのようなものであったのか説明するのは難しく、今日の言葉では不十分である事が多い。とにかく「中世を」含めた作家達の描いたものとは「異なっている。」としか言い様が無い。ギネヴィアは女主人としての役割に割り切っており、アーサーとは無言の取り決めが為されていた。彼等の立場に変化が起こったのは、王が王国だけで良かったのに、王妃は王国だけでは満足できなくなったからである。

アーサーはどちらかと言うと陰気な主人であり、ギネヴィアが祝宴やパーティーやらを催す事においては主役を張っていた。王は、この方面における自分の性質を欠点とみなしており、ギネヴィアの浪費には眉をひそめても文句をつける事はなかった。アーサーは事実、我々ロト一族をギネヴィアの派閥に対抗するものとして利用しようとしていた節がある。それは戦いとは言えず、競争の範囲に留まっていた。だから、随分後にペリノア家の分家の者が私を毒殺しようとした時、誤って王妃の仕業だと言われたのだ。しかし宮廷は、既にその争いから卒業していた。

ギネヴィアはアーサーの妃だった。そして可哀相なランスは彼の騎士だった。私のように古代ゲールの文化に親しみを感じる者にはトリストラムとイゾルデの関係の方がより繊細で無私な感じがするのだが、他の人にはそうでもないらしい。

私は漁夫王ペレスの娘のエレイン姫、彼の許婚であり、本来なら彼の妻であるはずの人を良く知っていた。ギネヴィアが女神の末裔なら、ギャラハッドの母である彼女は(敬虔なキリスト教徒であったが)才知に溢れ、美貌は清らかな光のようであった。私には誇り高く残酷なギネヴィアよりも新しい白い神の愛娘の方が生真面目なランスには合っていると思ったのだが。

ランスは光よりも熱情を選び、アーサーは彼の闇を見て取って微笑んだのだ。アーサーは決して寝取られ男ではなかった。この事で妻と騎士双方の首に意のままに絞首台の縄を巻きつける事が出来るとでも考えていたのだろうし、事実その通りだった。三人の間に確かに葛藤はあったが、それでも中世の人間達が想像するようなものではなかった。

ランスロットはギャラハッドを除けば最高の騎士であり、アーサーは彼の名声を存分に利用し、彼の功績を水増しするために努力を惜しまなかった。しかし、彼がアーサーの宣伝を必要としなかった事は確かである。ランスはブリテインの者ではなく、私と異なり、アーサーの王国にはそれほど関心がなかった。ランスは最後まで恋人に対して出来る限り誠実でいようとした。しかし、彼がエレインに向けた感情の閃きがギネヴィアを不信と状況判断の誤りに導き、結果、王国を瓦解させたのだ。

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