湖の淑女
トリストラムの父、メリオダスの居城が在った小ブリテイン、或はブルターニュ半島には魔法の森、ブロシリアンドが在り、ドルイドの聖地であった。この地域の精霊である湖の淑女達は北方の魔女達と比べ、より十字架の力を意識し、その力が自分達に向けられない様気を遣っていた。逸早く救世主の出現を察知し、ヨセフをエルサレムに遣ったのも彼等である。この二つの勢力の間を巧みに泳いで利用していたドルイド達が居て、その長であるマーリンは半ば人間ではなく、ドルイドとしては最強の力を誇っていた。アーサーは彼を封じる事によって彼の魔力を思うが侭に乱用したのである。

ニミュエはマーリンの愛人であり、アーサーに対して、この夢魔の息子と共に保護者の役を担った。彼女はキムリック一の宝剣であるエクスカリバーをこの養い子に与えすらした。彼女が自分の愛人を封じ込めた経緯については推察する他は無いが、アーサーは子供の時から、悪を善に変え得る能力をもって周囲の人間達を変化させていたと当事者である私は信じている。彼はペリノアに石から引き抜いた王家伝来の「赤龍の剣」を折られて以来、剣で戦う事を出来る限り避けるようになった。エクスカリバーは新たな王家の象徴であり、王の身を守る魔法の護符であった。この剣の鞘がモードレッドの企みによって失われるまで、アーサーの肉体は私とランスが護らなくとも決して傷つかなかった。

私は知っている。アーサーは優しいニミュエを非常に愛しており、彼女と約束を交わした。「王国に平和を齎す」約束を。彼はニミュエ以外おそらく誰も信じなかった。そしてその約束を果たすために一生涯努めたのである。(蛇足だが、私はブロシリアンドの洞窟の中に居るマーリンとニミュエに会いに行った事がある。予想に反して二人ともすこぶる元気かつ愉快そうで羨ましくなってしまった。)

ヴィヴィアンはヨセフ一族のギャラハッド家の保護者で、フランスはベンウィックのバン王からランスロットを引き取り側で養育した。(故に彼は後に「湖水の騎士」と呼ばれるようになった。)ヨセフとキリストの血により忠実な従姉妹のエレインが彼を導くまで、彼はあくまでキリストよりも旧来の「愛の誓約」に対して好意を示していた。それでもヴィヴィアンは聖遺物に関わり過ぎたのか「凶運の騎士」ベイリンに首を刎ねられてしまった。

他にもトリストラムを助けたという湖の姫がいたが、彼女の名は知られていない。教育の後成人したトリストラムは「全ての技能を持つ者」とさえ呼ばれていた事を銘記しておく事。

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