ギャラハッド
ベイランは兄の「両手剣の」ベイリンと並んで最初の円卓の筆頭騎士で、ランスロットやトリストラムが武勇を顕かにする迄は最強の騎士であった。彼等は互いに知らずに殺し合い、死んだ。

彼は死に際に(以前在った物の如く)岩に自分の愛剣を突き刺した。アーサーは彼を記念して、その剣の刺さった岩を宮廷に運んで来させていた。運んできた後、理解された事実は、その剣は誰にも抜けず過去と未来に渡って最高の騎士が抜くまで動かないと言う事であった。試みる勇気のあった騎士は、私が知る限り、ペリノア、ランスロット、ラモラック、ユーウェイン、トリストラムがいる。いずれも最強と謳われた騎士ばかりであった。アーサーは自分の状況に似ている者として不安を味わい、私に向かって自分の事を聖書の「未来の王を恐れる」ヘロデに喩えた。王は岩を元の場所に戻すように命じたのだが、何時の間にか岩は重みを増し、城の敷石の間にはまり込んで、外れなくなっていた。

ランスロットはエレインを失った後、随分の間悔恨に満ちた生活を修道院で送っていた。ギャラハッドは父親に騎士にして貰った後、祖父のペレスと共に十字架の描かれた旗を持ってアーサーの宮廷にやって来た。彼の名が円卓の「危難の席」に現れた時、全ての騎士が戦慄した。そして彼が微笑みながらアーサーと同じようにた易くベイランの剣を引き抜いた時、アーサーは冷や汗を浮かべていた。彼はアーサーが催したトーナメントで赤子の手をひねるように優勝した。

王はギャラハッドを説得しようとして、全ての「表の」騎士は連れて行かないように哀願すらしたが、撥ね付けられていた。ギネヴィアの涙すら息子についていこうとするランスの意志を翻す事は出来なかった。彼が修道院でヨセフの盾を手に入れたと聞いた時、アーサーは全ての「裏の」騎士に、いかなる手段を使ってもギャラハッドを阻止せよと命じた。

私は最初にギャラハッドの提議に従うと見せた。何故なら彼の前に何としてもパーシヴァルに聖杯を獲得させねばならなかったからだ。アーサーは言っていた。

騎士の中でも見込みのある者は五人いる。ランスロット、パーシヴァル、ボーズ、ギャラハッド、そしてガーウェイン。お前の罪は私が引き受けている。パーシヴァルかお前が聖杯を手に入れるべきだ。ランスロットは五分五分で信頼出来ない。ギャラハッドかボーズが聖杯を手に入れたら、アーサーの仕事は夜が来る。

私は決して感激した訳ではなかった。そして人間観察では最高の権威と言って良いアーサーが私を神に愛される善人だと言った時には、さすがに心臓の辺りに冷たいものを感じた。あの時感じたものは何だったのだろうか。
私が一行の中で最初に「杯」を見つけた者だった。

私は戦慄を覚えた。ギャラハッドをいささかなりとも留めるために彼に打ち掛かった時には。(聞いたところでは)ギャラハッドはその時、父親にベイランの剣を折られていたらしい。それは全く植物的な恐怖で、人間に打ち掛かる感じはしなかった。彼は素早く、腰から彼の持ち得る最大の武器、ダヴィデの青光りする宝剣を抜いて、私を袈裟懸けに斬り、馬の上から葦の生えた泥沼の中に放り込んだ。

目を覚ました時、その時は人生の中でラモラックを後ろから刺した時の次くらい些か惨めな時期だった。月の出る夜で、傷で右腕は辛うじて繋がっているだけ。泥に埋まっていてじわじわと沈んでいた。私の同行の者は皆逃げ散ってしまっていた。(後で聞くと、私はギャラハッドの持つ稲妻で頭から吹き飛んだように見えたらしい。)

私は暫く泥をどうやって呼吸しようかと混濁した意識で考えていたが、左手が硬くて冷たい物に当たり、それを握り締めた。

暖かい光が周囲を満たし、「聖杯」は宙に舞い上がって、暫く光り輝いた後消え去った。私は癒された右腕で何とか木の根を掴み、這い上がった。聖杯を二度目に見たのは(色々な足止めの工作の後)パーシヴァルと「槍」を手にしたランスに再会してからであり、聖杯城まで付き添って一緒に行った。ギャラハッドの聖杯の「強奪」も見届けた。

ランスと一緒の船に乗って私はキャメロットに戻った。ランスはひどく混乱していた。彼は自分が確かに神の声を聞いたと信じており、私もそれを信じた。彼はおそらく声を聞いたときに死んだほうが良かったのだろう。どちらにせよ、私達は二人とも船酔いとアーサーへの報告について悩んでいた。清められた気分ではなかった。

ギャラハッドはペルシア支配下のバビロニアのサラスに入り反乱を起こして、王を名乗った。そして一年後に生きたまま身を聖杯に捧げたと言う。ボーズとパーシヴァルはその様を見届けたと思われるが、パーシヴァルはブリテインには戻らず、ボーズの言う事は冒険前と変わらず、非現実的で教訓に満ち満ちている。

私はこの旅で、自分が更に懐疑的になった事を感じていた。そして終わりが来る。

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