アーサーの死
これから語るのは、何故ベイリンの両手の剣が前の主人と同じく、兄弟で争う運命となったかである。私の兄弟達がこの話では悪役として登場する。中でも私は悪役の中でも頭を張ると言って良い。

ロトの一族は其の役柄上、南ブリテインでは常に嫌われ者だったし、私は常に噂が正しいものであるかの如く、振る舞っていた。我々は実際、「高潔な」アーサーの一族の者で、王の手で保護されていなければ、とうの昔に民衆達の手で死に追いやられていただろう。確かに私は自分の境遇について不満を口に出す事は無かったが弟達は違った。私の弟達について以下に説明する。

暗い瞳のアグラウェインはロトの家名につけられた汚辱から、旨い汁ばかり吸っている(様に見える)ランスロットを憎んでいた。異父兄弟で大ドルイドのモードレッドは死んだ母から吹き込まれた敵意から、伝統を踏み躙る実の父、アーサーを憎んでいた。彼等は北ブリテインのブリトン人にサクソン人とそれに融和的なペンドラゴンの旗に対する怒りを煽り立て、アーサーの政権の転覆を密かに狙った。

優しい「白い手の」ガレスについて思い出すと、私は今でも春の草の匂いをかぐような気分になる。リネットの姉、ライオネスとの婚礼には、彼がアーサーの宮廷に料理人として雇われていた時からの友人であったランスが媒酌人となって殆ど全ての円卓の騎士が招かれた。ガヘリスはランスロットの手で騎士にして貰っていた。

しかしランスは彼等を過失で殺してしまった。

聖杯探索の失敗がアーサーをひどく老け込ませていた。そして聖杯でもって達成しようとしていた国家の安定化を、ドルイドの魔力と集大成された法で補おうとして、自分の息子を「ログレス・ローマ帝国」の大法官の地位に就けた。其の後起こった事はマロリーの記述とほぼ同じである。

真実と異なる事は登場人物の動機と感情である。ギネヴィアが夫と私の警告に最後まで従わなかったのはそれが最初で最後であった。ランスは探索から帰った後修道院に篭もる回数が更に重くなり、死んだエレインの思い出に心をさまよわせる様になった。

ギネヴィアは恋敵が生きている時よりも激しい疑惑と不安に苛まれるようになり、宮廷の動きに鈍感になった。痛々しくも、あの誇り高い王妃がランスから離れる事が出来なくなり、溺れかけている者のようにランスを掴んでいる姿が見られたものだった。アーサー自身それと知れない弱点を敵達に付け入られ、長の年月信頼して良い同盟者だった王妃がモードレッドに反逆罪を問われる結果になった。

アーサーのギネヴィアに対する感情、それにも増してランスロットへの感情は複雑なものであった。彼は理性的な半身では最後まで自分の王国の護持に勤めたが、残りの半身は長年の犠牲でひどく疲れ果てていた。私が驚いたのはこの点だった。私にとって見れば、アーサーに疲れるなどと言う事は有り得ないのだった。

王妃の所からランスロットがモードレッド配下の騎士達と愚かなアグラウェインを殺して逃走した時、アーサーは迷っていた。迷うのはアーサーらしくない事であった。その時に私は彼が、何が王国について最善か迷っていると思っていた。しかし今ではそうでなかったと分かる。彼は自分が何を求めているかについて迷っていた。そして其の疑問自体アーサーらしくないものであった。私の残った兄弟達はアーサーに対して怒りを見せた。犠牲を払ってきたのは王だけではないのに、ここにおいて何を迷っているのか?

私はランスを助けてモードレッドを殺し、代わりの大法官を求める事を勧めた。それが王国にとって最善の事であると思ったし、ランスを殺したくなかった。しかし私がアーサーの代わりを務める力量は無かったし、モードレッドは意志するものは兎も角、才能においては父親の能力を受け継いでいた。

モードレッドはアーサーが迷っている内に職権を履行し、ガレスとガヘリスは王への抗議のため武装せずに王妃の火刑台を守ると言い、大法官は異父兄弟達のこの愚行を冷笑でもって受け入れた。私はせめて防具をつけろと勧めたが、彼等は、死ぬ時ぐらい騎士道を守っていたいと言って拒否した。

ランスはやってきて、王妃を攫い、北の「喜びの城」に向かい、私は三人の兄弟の墓を掘らせた。

私は、アーサーが怒っている所を見た。これも私が初めて見たものだった。それ以前のアーサーは怒りを見せる事はなかった。しかし、アーサーは昔に戻ったように果断に行動し、私に先陣を務める様に言った。私は昔のようにアーサーの命令する通りに動く自動人形に戻っていた。

私が過ちに気づいたのは、城を包囲した時、アーサーが自分のやっている事に笑いを見せた時で、彼は生涯で初めて望む事と行う事を一致させているように見えた。私がアーサーに私の死を望んでいるかと聞くと、信じられないことにアーサーは真顔になって私に詫びた!彼はこれまで私にどんな酷いことをさせても決して謝らなかった!

そして私の自由にさせてやると言った。私は初めてアーサーに対して怒りを見せ、「王者アーサー」の命じる通り見事に戦ってみせる、私は知っている。ランスは私がどんなに侮辱しようとも私を決して殺さないだろうと。そして、私は王国を立て直し、モードレッドを倒すと言った。アーサーはお前には無理だと言い、私はランスに八つ当たりをしに行った。何度も何度も、教皇の調停の使者が来てギネヴィアがアーサーの元に返され、戦の場所がフランスのベンウィックに移っても、彼と戦いに行き、アーサーは私の愚かな意地に付き合った。私は何としてもランスを殺し、今までの自分自身を消してしまいたかった。

私の願いはかなえられず、ブリテインの名目的な摂政であったモードレッドが、先に仕掛け、私の付けた監視役や刺客を殺し、アーサーが死んだと言いふらした。傷による病床の中私は太陽の血に秘められた狂気が膨れ上がるのを感じた。伯母のモルガンが使い魔の鴉を私に送っていて、耳障りな声で刻限を告げた。ギネヴィアはロンドン塔に篭り、夫の救援を求めていた。カムロドゥヌムのキリストの大司祭は、モードレッドの結婚を認めず、彼に破門状を送って、逃亡した。

私がブリテインに戻った時、ランスに与えられた傷を再び撃たれて私は死んだ。彼は私の手で殺されたほうが良かったのに、アーサーがモードレッドと相打ちになって死んだ後、ランスとギネヴィアは修道院に入って生きながらの死を選んだ。ギネヴィアは思い出のため、ランスは愚かにも友人を裏切ったことのために。しかしそれは勘違いで、彼は友人を決して裏切らなかったのだ。

グラストンバリーにある贋の墓で、十字架に書かれた「未来の王」について考えるなら、アーサーがアヴァロンから角笛を吹き、妖精の軍勢を率いて戻ることをも考えなければならない。アーサーは新たな王国の救い主に成り得るだろうか。私は肯定する。しかしニミュエに再会した彼がそれを喜ぶかどうかについては、古の民が言う「時の円環が一巡りした時」でない限り、否と答えざるを得ない。

”これにて「ガーウェインの独白」の物語は終わる。”

「ガーウェイン卿の物語」に戻る