彼の軍勢は「狼の民」(概して言えば実際的に人狼であるテルモリ族というより、狼の血を引くと主張する支配者達か、それとも狼と呼ばれている山賊達として姿を現している)に何度も衝突した。彼等は「千人の十倍」がロスカルムを離れてから数日か数週間しか腰を落ち着けることが出来なかった主な理由の一つに数えられる。彼等が自分の運命を賭けようとした時はいつでも、その地方の支配者である「狼」達が揉め事を引き起こして、その場を離れざるを得ないようにした。(原註2)
詩的な描写の上ではサイランティールに対して「西方の妖術師」達に「放たれた者」達に多くの場面が裂かれている:サイランティールを追跡し、殺すために彼を裏切った妻と兄弟達が送ってよこした彼の殺された子供達の精霊である。鉄の刃で自分自身を過去から切断して訣別することによってのみ、サイランティールは彼等の攻撃を撃退することが出来た。しかしこの事で彼は根無し草になり、戻ることが出来ないようになった。(原註3)
ある冬の「氷上の戦い」で「一万人」は危うく溺死する所を脱出した。サイランティールの伝令達の英雄的努力がなければ、ポルロースPorlos沼沢地で「歌う蛇」達が彼等全員を死へと誘惑することに成功していただろう。狼の公子がスラドヴァンSladvan高地の森で彼の軍隊を不意打ちした時にもっとも有名なテルモリ族の手になる攻撃があった。「狼の公子」のこの襲撃で後詰めの軍勢は三分の一しか生き残らなかった。
この逃避行の後、彼等は「淡水海」の海岸にあったベーダという港に到着した。この地で彼等は歩く熊達Bearwalkersと小競り合いを起こして、勇敢な功業を森の中に進み、「熊の王」の子供を盗むことで達成した。そして彼等は船に乗り、「淡水海」を横断して東のペローリアにたどり着いた。(原註4)
「一万人」はオローニン湖でペーランダの最後の自由都市が「薄闇の帝国」に包囲している時に丁度来合わせた。サイランティールは配下の「百人の将官」達をあつめて自分たちが包囲されている側としている側のいずれに加担するかについて尋ねた。彼の直感はもし自分たちが傍観するだけならば、包囲する側が勝利するだろうと告げていた。したがって彼等に「一万人」が加勢するのなら、包囲する側が得るものは何もないわけである。しかし自分たちの介入によって守り手の側に味方して形勢を変えることが出来るし、そうすることで防御する陣営は自分たちに借りを作ることになり、自分たちが望むいかなるものも提供する気になるだろう。この形の直感による統率力は、今日のカルマニア人の子供達に模範として示されている。この種の伝説はこのように作られたのだ!
スポル帝国を相手取ったサイランティールの戦いは少なくとも二種類の次元で捉えることが出来る。額面どおりの意味で軍事的な歴史の一幕であり、神秘的なヒーロークエストでもあって、この場合は解放された都市は魔術的な城に変えられ、ペーランダの民に喜んで提供され、謎めいた女神カーマインCharmain、「青の城」の貴婦人の姿で顕在化した。(原註5)
全ての昔の物語はサイランティールがペーランダの敵に殺害されたのであれ、聖者もしくは神性として神聖化されたのであれ、自分の愛人を探しに「青の城」に戻ったのであれ、異なる形の物語が結末において一致することはないが、いずれにせよ彼が謎めいた失踪を遂げたことを認めている。