アルコス戦記: Alkothiad
大いなるアルコス攻囲戦の物語

マーティン・ローリー筆、原文はこちら

この物語は、ダラ・ハッパ三大都市(トライポリス)でも「力の都」として威名を轟かせる軍神シャーガーシュの都が、カルマニア後期帝国絶頂時の雄牛を崇める騎士団に包囲された時の物語であり、いわばグローランサでの「トロイア戦争」として白眉である。
(ちなみに、マーティン・ローリー氏はルナー帝国関係の情報を管理している人で、シェン・セレリスの物語の原案を書いたのは彼である。ゆえに、この小説もダラ・ハッパ=アルコス中心の視点で書かれており、カルマニア側は敵役となっている。)

なお、狂戦士シャーガーシュのカルトについては、マリオン氏のライトアップに詳しく載せられている。

一度目の攻撃
この都を最初に攻撃したのは、夏のさなかの、地面が乾燥し、包囲線が滞りなくほとんど整っていた時であった。大きな投石器とトリブチェットが燃え上がる資材を都の中に投げ入れる一方で、マギ達は市壁にかけられていた防御魔術のいくつかを無効化しようと試みていた。それらは束の間、成功を収めたように見えたので、五台の攻城櫓が唸りを上げて前進した。

偉大なカルマニアの英雄達はダージーンの同盟者とコルグーズ遊牧民の弓兵の援護を受けながら攻撃をかけた。

五つの連隊がそれぞれの櫓から攻略した。櫓は二十五メートルの高さを備え、頂上にはバリスタ兵を配備し、投擲兵器に耐えられるように皮で覆われ、詰め物が施されていた。

「雄牛の心臓」カダッシュ、バイセカールの親衛隊における精鋭が、自分の兵隊を率いて五百頭の大地の雄牛の剛力に牽引され前進する強力な攻城櫓から市壁へととりついた。

他の櫓からはハランショルドの「ダージーンの息子達」が前進した。攻撃軍の四連隊をかの虐殺に報復するため編成し、全軍が血に渇いていた。

彼らが見出したものは血であった。バイセカールの近衛達は「緑の壁」に自らの道を切り開き、その一方彼らの魔術は防御を打ち消し、彼らのもつ闇の性質は彼らがシャーガーシュの存在による恐るべきドラムのビートで縮み上がるのを防いだ。

ダージーン人はこれほど運に恵まれなかった。彼らは城壁の上に歩を占め、百人ずつ死んでいった。

百人が執念深く自らの壁を護る「緑の王」のたくらみで送られた波によりエメラルド色の炎で燃え上がった。

百人以上が「灰の王」の意志により呪縛された、彼らが自ら生け贄にした亡霊達に引き裂かれた。

百人以上が川から来たダージーンの戦闘精霊、グンドハレシュの出現に打ち砕かれた。彼は「黒の王」に妖魔として呪縛され、巨大な二本足で歩くアリゲーターの姿をとった。グンドハレシュは噛み付き、自らの同胞の集まりの内に食い込んで道を作り、裏切りの苦悶による痛みから唸りを上げる一方で、服従させる力にグンドハレシュは応じていた。

百人以上が「我ダージーンの簒奪者どもを憎む」のドラムのビートで進軍する古来の敵の鎚矛の元に倒れて行った。彼らは自らの敵を素手で引き裂き、大いなる憤怒の狂乱の一口で彼らの血塗れの肉を飲みこんだ。

イェルムの旅のわずかな合間に、ダージーン人は城壁から悲鳴を上げて逃げ去り、いかなる勧告も彼等を引き留められなかった。ドーカス市の「槍の英雄」、勇敢なるデロンドゥムが燃え上がる槍とイェルムの輝く力でグンドハレシュを殺そうとした時には、彼は「暗き道の王」がもつ暗がりに包み込まれ、「喰らう者」の飢えに貪り食われた。彼の魂は二度とイェルムの光の元に見出されなかった。

「雄牛の親衛隊」達のみが退却しつつ、力の半分を失いつつも持ちこたえた。市壁の数ある恐怖に生き残った者達は雄牛の皮で覆われた自分たちの魔法の盾に誓った。それはこの都に住む敵の恐るべき魔術が味方のマギによって飼い慣らされるまで、もはやこの緑の壁の上に踏み込むことはないだろうというものであった。

「雄牛の心臓」カダッシュはカルマニア軍の列にあってこの日大きな名誉を得た。彼はヴングハレシュ、アルコスの「赤の王」と対決し、槍とメイスを撃ち合わせた。盾と盾をぶつけ合い、「赤の王」の完全なる憤怒の元に生き残った。カダッシュが骨の折れた四肢だけを負傷にして生還したのは大いなる豪胆の賜物であった。カダッシュが彼の敵を傷つけることができたのは大いに技がものをいい、手助けや援軍抜きに彼が城壁を離れることができたことでカルマニア英雄の誉れの力を見せ付けたのであった。

しかしスポル人の母親の狡猾さが彼の中にもあり、それが顕在化したのは彼が集結した軍勢と彼が仕える大王を前にした時であった。彼の槍の穂先にはサンティトードの毒が残っていたのである。鋭く白い一閃の笑みで彼はヴングハレシュの人生を終わらせる一突きにものを言わせた。それはこの強力な戦士には引っ掻き傷以上のものではない浅手であったが毒があり、ヴングハレシュのような人間にも致命的なものとなったのだ。しばらくの間、この事はカルマニア軍の宿営地に喜びをもたらし、カダッシュの手管に気前の良い贈り物と賞賛が加えられた。

アルコス人の返報は独特なものですぐに恐怖を巻き起こした。夜の帳が落ちると、千人の戦士を率いてヴングハレシュは前進した。全ての者がこの都市の市民か、その生身の体を諦めた上のことであったが、地界でシャーガーシュと共に生きる機会を与えられた奴隷であった。

彼等の全てがセンデレシュの力を見たことがあり、「汝を殺す」連隊に加わっていた。全ての者が黒服を着て赤い頭蓋骨のような仮面をつけていた。彼等は両手に鎚矛を持ち、防御や死の恐怖に対して一顧も加えなかった。彼等の敵を粉砕することのみを考えていたのである。彼等の衣装は袋と布だけであったが、最良の板金よろいのように武器を跳ね返した。ヴングハレシュが彼等を率いており、体の中の毒による死で顔は蒼褪めていたが、それでも弱まらない熱狂で、彼は戦の雄叫びを張り上げた。「死こそ我ら!」彼は怒号し、この叫びの終わりは千人の口によって木霊した。

彼等は「鞭打ち」の門から出た。都の外で彼等は激発し、ペルタスト兵達とコルグーズの弓兵達が飛び道具を雨のように浴びせかけたのにも関わらず、その突撃は「汝を殺す」戦士達がダージーン人の分遣隊に突入するまで弱まらなかった。彼等はその日は低い丘陵の上で野営して、城壁の上の虐殺で負った傷を舐めていた。しかしその夕方には彼等に休息はなかった。一人また一人と「汝を殺す」決死隊の戦士達は死んで行ったが、それぞれが敵の一人が倒れてから戦死し、千人のアルコス人のために千人以上の彼等の敵が死んでいた。

ヴングハレシュのみが燃え上がる野営と敵の包囲線の前に立ちふさがっていた。百本の矢が彼の体と鎧に刺さっており、傷が一ダースもの口を開けていたが、ヴングハレシュは体がカダッシュの毒によって死んでからシャーガーシュの元に魂を送っていたために、一つの傷も血を流さなかった。彼の体は怒りの記憶と「暗き道」の力に満たされており、「死」の壁の向こう側からの彼の意志で動かされていた。

ヴングハレシュは実在の中の真紅の裂け目のように、敵の野営地で彼に毒を当てた臆病者を探し回った。カダッシュは勇敢だったが愚かではなく、この葬列から来た亡霊から身を躱しており、敵に止めをさすためにジョナーテラから来た「真実の死のフマクト信徒」団員からなる無情な兵士達を送った。

フマクティ達は剣と魔術でこの死骸のような「赤の王」を撃ち、彼等の神を呼び出してヴングハレシュの肉体に休息を与えようとした。ヴングハレシュが彼等の半数を殺した後でやっと、巨人のジョナーテラ戦士、「黒き刃」のレイナールがこのリッチの首を、持っていた魔力ある鉄の大剣で刎ね落とした。

それでも、ヴングハレシュの首のない死体は獰猛に武器を振り回し、更に多くのフマクト信者を叩きのめした。最後に彼等は死体を打ち砕き、ロープと革帯で縛り上げた。それはその後肉片に斬り刻まれて、その一片も更に切られて、細片は犬の餌にされた。この犬達が腹一杯食べてヴングハレシュの一切がなくなると、この犬達も肉片にまで切り刻まれた。彼等の肉片は焼かれ、灰は一箇所に集められて土地や川や大気の全てに撒き散らされて、死んでいるヴングハレシュが二度と立ち上がって虐殺をしないようにされた。彼が敵と、彼に卑怯にも毒を盛ったカダッシュの胆力に叩き込んだ恐怖はこれほどまでに大きかったのである。しかしヴングハレシュは彼の民と、彼の戦士のメイスの元に明るく燃え上がる復讐の精霊と共に戻って来るであろう。


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