アルコス
Alkoth
冥界と流血の都
City of Underworld and Bloodshed



この文書はEnclosure誌の記事を著者たち及び編集者の許可を得て掲載したものです。いかなる意味でも、剽窃、商業目的の転用、その他法における権利の侵害は許可なしに認められていません。翻訳の責任はすべて訳者にあります。


アルコス観光客情報
Pam Carlson & Martin Laurie
アルコスを訪問すべきでない理由
・君は菜食主義者だ。
・君は蚊にアレルギーがある。
・君は赤緑色盲だ。
・君のカルトには生命のルーンがある。
・君はダージーン生まれだ。
・君は竪琴で甘い曲を弾くのがうまい。
・君は神経質な泣き言に悩まされている。(訳注:そしてそれから逃れたい)

 アルコスを訪問する理由
・君は陽気な仲間を欲しがっているあぶないキチガイだ。
・君は原始的な編物細工の収集家だ。
・君はドラムの音が大好きだ。
・人生が退屈になった。
・君は頭蓋骨と灰は素晴らしい装飾だと思っている。
・君は「忘れてしまうために」「十一者」団に入りたがっている。
・彼らは宗教儀式の敵役の志願者には払いがいい。(訳注:ごめんこうむる)
・君はシャーガーシュ神が超越的な者であるという話を聞いて、しばらく彼とともに瞑想したいと考えていた。
・アルコスの市壁はヒスイでできている。君はそれからかなづちとのみでごまかしてうまくやることも可能だ。

 



アルコス人の家
Pam Carlson



 ビューゼリアン神殿の大図書館は、あきらかにアルコスの訪問客にとって最も人気のある場所の一つである。図書館は小さく見えるけれども、その地下の書物庫は広大である。最近の葦の蔦製の巻物やベラム革(訳注:牛・羊などの皮)の書物が、古代の粘土や銅や骨や、はては鉄でできた板と書物庫を共有している。しかし図書館の聖なる空洞には、戦争物語や略奪品の記録以上のものを秘めている。この場所で皇帝イェルムガーサYelmgathaは長く失われていた「イェルムの栄光の再昇天Glorious ReAscent of Yelm」を探索したのだった。

 古代の書物を回収する仕事は容易なことではない。アルコス市の地上が地界の一部であるとみなすことができるのなら、その図書館はさらに地獄の深部を占めていることになる。図書館の最深部は、恐るべき妖魔たちや死んだ小神たちの群れの住処であり、シャーガーシュによってここに配され、シャーガーシュ・ビューゼル(訳注:Shargash-Buseri)の信徒たちによって支配されている。地底の区域に立ち入るには大胆不敵な図書館員の助けが必要な一方で、最深部を訪問するには極めて不快な儀式が必要であるため、それに必要とされる「死」が文字通り象徴的なものであるのか惑うほどである。この図書館から小さい驚異が根絶やしになることはないだろう。

「アルコス市訪問客ガイド、エンヘドゥ・アトラス=ロウEnhedu Atlas-Roh、エティーリーズ信者の道案内これを記す。」



赤の王の宮殿(Enclosure #1、 40ページ、バビロニア風の建築スケッチ)

 この宮殿はアルコスの市壁の中にありながら完全な城塞である。赤の丘の中腹に立っていて見渡すかぎりのこの都と周辺地域を支配している。この宮殿は「赤の王」の戦士のための兵器庫や訓練場としても使われる。

 この建物は「破壊者の赤き道Path」の大寺院High Templeでもある。


アルコス市居住区の動物たち
Pam Carlson

 犬、猫、そして鳥はもっとも貧しいアルコス人を除けば全ての者に飼われている。犬は見張りの動物として価値を置かれている。大衆的な伝承によると、彼らは歓迎しない精霊を見ることができる。猫は害獣を殺すのに飼われていて、有益な精霊を招き寄せると信じられている。鳥は美しい歌のために飼われている。

 アルコス人の宗教はこれらの動物が春の「シャーガシュが全ての生命とともに帰還した」日に放し飼いされることを必要とする。この日はアルコスの陽気な祝祭であり、筆者が非常に参加をお勧めする日である!

「アルコス市訪問客ガイド、エンヘドゥ・アトラス=ロウEnhedu Atlas-Roh、エティーリーズ信者の道案内これを記す。」


 ・戦闘儀式
 赤の道の戦士、ヴランサス・ウラッシュマレクの日記より


 ・破壊神の入信式、ウルダンサスの妻、ジェルヴェラ記


 アルコス人の家
Pam Carlson


 ダラ・ハッパ人の多くと同じく、アルコス人は家族を大きくした単位で生活していて、基本的には最年長の兄、彼の年老いた両親、そして彼のより年若い弟達を囲んでいる。裕福な家族は中央に中庭と庭園を備えた大きくてたくさん部屋のある家に住んでいる。(彼らの恐ろしい宗教にも関わらず、多くのアルコス人は自然界に敬意を払う。)その家や庭園はがんじょうな壁に囲まれ、家族にゆかりをもつ戦士たちに守られている。このようなあからさまな腕力は必要とされているが、それはアルコス人は自分達の不和を隠そうとしないからである。彼らは帝国の大貴族達が関与する裏切りに満ちた「ダート戦争」を忌み嫌っている。その代わり、彼らは敵の家の門まで行進し、公然と彼に挑戦する。彼らはこのように正々堂々としないのは、シャーガーシュ神を冒涜することだと考えているのである。

 中流の順調な人々、芸術家や小規模な商店などは部屋数のある集合住宅に住んでいる。貧乏人は煙突や水道設備のない小さな居住区画に住んでいて、しばしば十人以上の人数が一部屋に住んでいる。このような人々は公衆浴場を使わなければならないし、いかなる都市にも数多くある小さな食堂で食事するのにわずかな手持ちの銅貨を使う。


アルコスの市門
Dennis Hoover & Martin Laurie
四つの市の門が緑の壁の下に道を通している。これらの門の全てが人間と精霊の両方に防備されている。この門をくぐるいかなる者も門の存在感と力を感じ取る。それぞれの門が特定の商業的、あるいは儀式的な目的を持っている。
はらわた抜きEviscerationの門 打ち負かされた敵の軍隊はこの門を通されて、「貪り食らう者」のために内臓抜きの刑に処される。魚売り市場はこの門の中に設置される。
断頭Decapitationの門 ここでこの都市に入る外国人たちは葦でできた斧で儀式的に首を刎ねられる。この儀式は神話的に、(しばしば驚きで呆然としている)訪問客を「死者の都市」へと招き入れる。この儀式の後で彼らは市内で仕事に向かう許しが得られる。「大市場Great Market」はこの門の中にある。
鞭打ちFlayingの門  「十一者」団の兵舎と「鞭打ちの広場」はこの門のすぐ内側にある。ここで「十一者」たちは儀式的にその罪と不浄さのかどで鞭打ちの刑を施される。穀物と毛皮、そして奴隷の市場がここにある。歴史的に、敗北したアルコス軍はこの門をくぐって帰還し、シャーガーシュ神の化身にふさわしくなかったことで鞭打ちに処される。
串刺しImpalingの門   この門は打ち負かされた敵の頭蓋骨で飾られている。戦勝の知らせをもって帰還したアルコスの軍隊はここで歓迎される。アルコスの肉市場はこの門の内側で開かれている。
「第五の門」
 火葬Immolationの門
「完全な破壊の門Gate of Utter Destruction」としても知られる。これらの門は全ての封殺の囲いEnclosure(訳注:シャーガーシュの寺院)に存在する。これらは地界のシャーガーシュの領域に通ずる門で、灰の司祭たちや、妖魔や、「黒の道」の修道僧(訳注:aesthetic、シャーガーシュ・ビジーフの神秘主義者?)、死者たち、そして死者につきそう生者が出入りするところである。これらは聖域であり、ここに入る者はシャーガーシュの輪廻の輪に入り込むことになる。


 


住居における社
Pam Carlson
 
 アルコス人は精霊たちがたむろしているところに住んでいる。この都市が地界に存在しているがゆえに、精霊たちと幽霊が絶え間なく通りを歩き回り、建物にとりついている。大部分の者が曙と夕暮れの時分を除いて透明である。(その時間はアルコスは非常に恐ろしい場所である!)住宅のいちいちが自前の住みついた精霊を抱えている。それらのいくらかは祖霊であり、いくつかは家族の年配の者と長く友情を結んだ動物霊や都市精霊たちである。

 精霊の家Homeはこれらの身体のない家族の構成員たちに応じて作られていて、しばしば小さな像や織物細工や仮面の形をしている。材料は葦から始まって骨や、果ては絹や黄金まで使われている。このような仮面が大部分のアルコスの家の主だった装飾であり、しばしば極めて精巧に作られている。


「アルコス市訪問客ガイド、エンヘドゥ・アトラス=ロウEnhedu Atlas-Roh、エティーリーズ信者の道案内これを記す。」


 


競馬場Horse Field
Pam Carlson

競馬場はこの都市の東北の、低く沼に近い場所に設けられている。夏の間、地面は固まって、農民たちが自分たちの畑をきよめるために掘り返してできた、小さくて泥だらけの水たまりに蛙は引っ込んでしまう。アルコスの裕福な若い男達はポロ(訳注:馬に乗る球技)で競いにやってくる。

 彼らのゲームがシェン・セレリスの太守たちの遊んでいた競技と似ていると述べることは最悪の非礼である。(彼が永遠に地獄で苦しまんことを!)もしそのように非難されたときには、若者達はこのような放言をした者に、点を入れるゴールがない状態で一隊のポロチームと戦わせる。この忌まわしい儀式にはうわさによれば、ぬるぬるした蛙と大きなバケツに一杯分くらいの数、出場中の非常に短いトーガを着ている間に出くわすことになるということだ。

「アルコス市訪問客ガイド、エンヘドゥ・アトラス=ロウEnhedu Atlas-Roh、エティーリーズ信者の道案内これを記す。」



 




 ・アルコスの包囲、獅子の将軍、モルケンドールの回想録
 




 木の雄牛

クルガントゥス、孤立の日々のアルコスの「緑の王」の日誌より



アルコスの星の塔
Dave Pearton
 アルコスの「星の物語の塔」(訳注:ユスッパ風の伝統で、それぞれの星とその神話に応じて塔を建てて祭る習慣。GROYを見ること)は「いかにシャーガーシュ神が世界を救ったか」という言葉で知られている。この塔は別に驚くべきことでもないが、多くの意味で古典的なユスッパの星の塔群と異なっている。最初に、この塔は「赤の王の丘」の上にある「封殺の神殿Enclosure」の下を走っているトンネルで連絡している。第二に、そしてもっとも雄弁に物語ることは、大部分のユスッパ風の塔は、このように決定的な重要性を持つ(訳注:fatal)ものであることはないからである。

 この塔が解放されるのは真冬の「最も暗い日」(訳注:Darkest Day。冬至?)であり、シャーガーシュが「破壊を用いた救世主」として祭られる日である。

 この儀式はイェルムの分解を嘆く儀式で日没より始まる。シャーガーシュ信者の儀式の日常と同じく、交響楽のように演奏されるドラムと多量の流血を伴う。儀式参加の行列は次にトンネルの中へと進んでいく。星々はシャーガーシュが空に昇るに従い、一つずつ薄くなり弱まっていく。完全な真っ暗闇となる前の儀式参加者の最後に見る視界は、世界を自分の「封殺の地」に呼びこもうとするシャーガーシュの不吉な赤い輝きである。

 行列は次に完全な暗闇の中を進み、絶え間なく亡霊や妖魔に襲撃される。この時期がカツクルトゥムの時代である。危険な時間である。死は当然のごとく見られる。人々は地界の底まで運ばれるか、四肢を一本ずつ引き千切られる。主観的に見て永劫の時間の後に、距離を置いて不確かで明滅し続けるかすかな輝きが現れる。このカルグザント神の出現が「大暗黒」の終わりを告げる。トンネルから塔へと進み、不確かなカルグザントの光がシャーガーシュの強い輝きによって圧倒され、調伏される。参加者達の目がより明るい光に慣れてくるに従い、新たな天空が目にされることになり、シャーガシュの偉大なる「封殺の地」から現れ、新生した星や惑星に空は満たされている。儀式は生まれ変わった太陽が破壊されて甦った世界へと昇天することによって完遂される。

 ノート:
 この塔が最初に建てられたときには、北西に開いた窓(訳注:opening)にはいかなる星も惑星も見られなかった。最初のうちはこの入口は間違って開けられたか、あるいはシャーガーシュによって破壊されたセデンヤSedenya、月がかつて照らしていた場所であると考えられていた.「赤の女神」の昇天以来、この窓は赤の月の光景で満たされている。
「アルコス市訪問客ガイド、エンヘドゥ・アトラス=ロウEnhedu Atlas-Roh、エティーリーズ信者の道案内これを記す。」




 雑草を刈る者たちWeeders
 ・ウェンダリア時代にオスリル川を旅し、進んだ(Travel and Journey:ヴァラーレ・アッディの英雄探索カルト)者の報告

 ・帝国の国勢調査

大闘技場
The Great Arena
アルコスの大闘技場はこの都の中心部にあり、ふたつの丘(訳注:おそらく「緑の王」の丘と「赤の王」の丘)の間の鞍部にある。この円形競技場では、ありとあらゆるかたちのシャーガーシュ神の好戦的な崇拝の形が見られる。儀式的な慣習上の戦いはほとんど毎日行われている。週ごとの儀式での呼び物はシャーガーシュ神を喜ばせるために、男たちや、奴隷たちや、獣たちの間で行われる戦いである。季節ごとの儀式と、例年の「聖祝期」の再生の儀式では神自らの恐るべき存在を招き寄せてしまう。

この闘技場の外周を囲む巨大な岩の塊には、アルコスのもっとも著名な戦争の情景をあらわした彫刻が施されている。エレンプール市(訳注:古代ダラ・ハッパの七大都市のひとつ)の「蛮族たちの壊滅」や、「天蓋帝の報復」のために行った「ダージーンの地の大劫掠」や、「エウシブス皇帝の大長征」や、「グバージとの決戦」や、「龍に貪り食われるアルコス軍」や、将軍シャニソールムShannisorumのグラマーの都の襲撃(訳注:おそらく、ジャニソールの乱)や、「俊敏将軍」カストクゥムKastokumの「ペントの懲罰」などなど。しかし最も好奇心をそそるのは最後の彫刻であり、この彫刻のある壁はこれまでの全ての金槌やたがねの打撃に耐え抜いてきた。この壁は真珠のような光沢を持つ滑らかさを持ち、この戦いについての物語の描写の痕跡はあまりにも素晴らしいので、この彫刻に対して、鉄よりも鋭い金属によってエッチングがさらに施されるのである。

「アルコス市訪問客ガイド、エンヘドゥ・アトラス=ロウEnhedu Atlas-Roh、エティーリーズ信者の道案内これを記す。」


道路清掃人の種族
Pam Carlson
 アルコスの訪問客はすぐに他のダラ・ハッパの都市とは異なる重要なところを発見することになる。それは、この都市のいかなる重要な決定も、役職への任命もある種の競技や決闘で決着がつくということである。「通りの監督Master of Streets」のような低い地位の役職すら、毎年行われる「道路清掃人レース」で勝つチームに出資した家か組合に任命される。このような競技はシャーガーシュ神を喜ばせるものと思われているのだ。

 このガイドの著者は夏の盛りに、アルコスで行われる、「炎のダウジング(訳注:dousing? 火、水などを浴びせるという意味と、棒を持って水を探す占いというような意味とがある)の監督」を選ぶレースのときに訪問することはお勧めできない。

「アルコス市訪問客ガイド、エンヘドゥ・アトラス=ロウEnhedu Atlas-Roh、エティーリーズ信者の道案内これを記す。」



「十一者団」の歴史
Martin Laurie


ある日のこと、ドーム(天蓋)を叩く音が響きわたった。ヴァニオラメト皇帝と家臣の者たちはなにごとかと見にいった。騒音は激しくなり、苦痛を伴うものになった。アンヴェソスの女たちは倒れ伏して泣き叫んだ。「これこそアンティリウス神が前より我々に警告なさっていたこと。」ヴァニオラメトは言った。「「十一者」たちを召集せよ。」
…「イェルムの光輝の再昇天Glorious ReAscent of Yelm」

「十一者団」はヴァニオラメトVanyoramet帝(訳注:アナクシアル朝)がイェルム暦109,460年に、天蓋(訳注:小暗黒の神代にダラ・ハッパを外界から遮断していたドーム)防衛のために創設した。彼らは「犯罪者や、閉鎖された居住区で生活することが不可能なはぐれ者、またいくたりかの狂信者や幻視者からなっていた。彼らは協力して働くことができない者たちと皇帝に定義され、それゆえに完全性から除外されていた。それゆえにヴァニオラメトは彼らのことを「十一者」(訳注:ダラハッパでは象徴的に十が完全な数である。)と呼んだ(天寵ある継承Fortunate Succession:9ページ)」者たちから徴募されていた。

 十は完全な数であり、十一がそうなることは決してなかった。彼らは厳しい訓練を課され、彼らに加わっているシャーガーシュ信者の鼓舞する誇りと熱狂で統率されていた。彼らは長年マナルレイヴァス皇帝Manarlavus(訳注:ヴァニオラメトの先代、天蓋の建設者)の天蓋を防衛したが、そのことで痛ましい損失を蒙った。ヴァニオラメトが死ぬと生き残った「十一者団」は権力を握ろうと試みてライバンスを襲った。

「十一者団」は長い間歴史から姿を消していた。コルダフKhordavu帝(訳注:コルダフ王朝創始者)が即位するまで誰も彼らのことを信用しなかった。コルダフは彼らを精鋭の軍事力として復活させた。コルダフは長い間ムルハルツァームMurharzarm帝(訳注:イェルムの息子、初代ダラ・ハッパ皇帝?)の帝国を再建設するために戦った。彼は自分たちの主君の不興を除けばなにものをも恐れない男たちを欲しがった。「十一者団」にアルコスとシャーガーシュ神への責任を負わせることで、彼は彼らの忠誠心を確立した。彼は皇帝が「十の試練」(訳注:ダラ・ハッパ皇帝の魔術的即位儀式)に合格するかぎり、アルコスは皇帝に忠実であることを検めた。シャーガーシュ神が忠誠を誓う限り、「十一者団」もそうしたのである。

 年とともに、「十一者団」は地位を持たない外国人やその他の者が「帝国」に参加する手段になっていった。そのことに必要な儀式の性質上、実際にその機会を受け入れる者は滅多にいなかったのにもかかわらず、アルコス人に囚われた奴隷の全てが「十一者団」に参加する機会を与えられた。それでも、「十一者団」は次第に勢力を増していった。「征服帝」エライダフErraidavuと「壮麗帝Magnificent」コルツァネルムKhorzanelmの治世に(訳注:第二評議会および壊れた評議会の時代)は定員は倍になったが、それでも一万人に満たなかった。

「邪悪なる者」(訳注:トロウル王アーカット)の襲来の最終段階で、「戦争の君主Lord of War」アニレストゥAnirestyu帝(訳注:ルナー的でないダラ・ハッパ人には「愚帝Stupid」と呼ばれる)は「十一者」団と帝国の英雄たちを、ドラストールの「輝ける者」のところに派遣し、自前の軍勢を決定的なまでに弱体化させた。そばに「十一者」たちの全技芸と憤怒を味方にしても、「輝ける者」は「邪悪なる者」の率いるディジジェルムの軍勢の怒りに満ちた攻撃の前に倒れた。「十一者」の全てが倒れ、「帝国」は暗闇へと堕ちていった。
 
「十一者」団はヘレムシャールHelemshal帝(訳注:エルツァネストゥErzanestyu朝最盛期)の時代に復活した。この時、カストクゥムKastokum(訳注:カストック将軍とも呼ばれる)はペントへと大軍を擁して攻め入り、遊牧民の群れに戦争を挑んだ。彼と共に多くの「十一者」たちが騎兵として行った。彼らはその真価を幾度も発揮したのだった。

 次の二、三十年間は、「十一者団」は帝国のあらゆる場所で、いまや「帝国軍」の一部として用いられた。EWFがダラ・ハッパ帝国を征服すると、彼らは「十一者」団を帝国軍から除籍した。彼らはアルコスでのみ存続した。この残党すら彼らと多くのほかのアルコス人が参加を志願したドラゴンを攻撃する「英雄たちの召集」で一掃されてしまった。(訳注:「真正黄金部隊」)

 カルマニア人によるダラ・ハッパ北部の征服の後、アルコス市とヘンジャール地方のみが独立を保った。「十一者」団は絶え間のない戦争と、長く不毛な包囲の間のアルコス防衛のために再興された。この苦闘はアルコシアードAlkothiad―カルマニアの悲劇的な物語として不朽のものとなった。

「赤の女神」の昇天とともに、「十一者団」の力は非常に制限された。処罰としての兵役をはたす彼らの役割はダンファイヴ・ザーロンカルトに大きく奪われた。「十一者団」はアルコスに一連隊サイズの軍として存続した。彼らの組織は今では「緑の王」に厳しく管理されている。しかし、彼らの激しい戦いぶりや凶暴さ、狂信性は評判のまとである。

「英雄戦争」は彼らを前面に押し出すことになるだろうし、シャーガーシュは破壊と再生の次の循環を始めるために、枷を壊して自由になるであろう。 


「十一者」の構成組織
Martin Laurie

 ダラ・ハッパの部隊は十名で構成される。「十一者Eleven」の11人は以下のように組織されている:

  10人の兵士と一人の下士官:「十一隊Eleventh」(十一名)
  11個の「十一隊Eleventh」=「十一者団Eleven」(百二十一名)

「十一者団」の個数は「帝国」の戦時状態によって9個から12個へと変わる。1621年時点で、10個の「十一者団」があり、1210名の「十一者」が兵役についている。

 その軍事力の小さな人数単位から始まり、(訳注:百二十一名から成立する)「十一者団」は最大の戦術単位として存在する。典型的な配置態勢としては、二個か三個の「十一者」が用いられ、たいていは「十一者」でない指揮官にゆだねられる。

 武器訓練は槌矛(メイス)、盾と短剣(ダガー)による近接戦闘にたよる白兵戦術に集中している。「十一者」は近接戦闘でもっとも威力を発揮する。彼らは消耗的戦力で恐れを知らないがゆえに、しばしばこのような局面で用いられる。彼らの凶暴性はヤーナファル・ターニルズ神の指揮軍団や極星や弓神サジトゥスのようなより潔癖なダラ・ハッパの軍事カルトには不評なのである。

 時々、彼らは「貪り食らうもの」の大きな儀式で敵を虐殺し、肉を食べる。「貪り食らう者」は彼らの信仰心に応じて力を授ける。
 






 戦時のアルコス
Martin Laurie筆


  「力は全ての問題を解決する」―シャーガーシュ



 アルコス軍事学院The Alkoth College of War
 
 ダラ・ハッパ帝国
 シャーガシュの都市の創立以来、あらゆる形態の戦争に関する研究がアルコス人の関心の最優先となっている。この学院はエウシブスEusibus(訳注:コルダフを支持して譲位したジェナロング朝時代のアルコス皇帝)によってダラ・ハッパ、そして異邦の軍隊の過去の軍事活動から学ぶ手段を提供するために創立された。平時の士官達に戦時の活動と、より高度な軍事の指揮に備えるための訓練も、この学院創立の基本的目的である。

 この学院は古い。ここを略奪した軍隊はない。この学院を解体した帝国も存在しない。ここにはジェナーテラ大陸中で知られる限り最大量の軍事的な文献を所蔵している。この可能な限りの知識の総体の助けをもって、ダラ・ハッパ帝国は数世紀連勝した。実際の経験のみがこの学院の膨大な図書室と巻物の蔵に加えられることを全ての者が知っている。この主義はいかなる皇帝や将軍達の戦役に関する書物にも課される大学の信条である。過去を覗ける窓と同じく、このような仕事には計り知れない価値がある。


 ルナー帝国
 最近ではルナー帝国の士官訓練理事会Directiorateはこの学院を、文書照合と教育のために重要な場所として用いている。アルコスの学院は最近グラマー戦略戦術大学や、ミリンズ・クロス属領地軍事大学の前に人気を失っている。皇帝のヤーナファル・ターニルズカルトやグラマー総合大学への公式的な援助が始まって以来、トライポリスの学院は威信をかなりのところ喪ってきた―アルコス軍事学院も例外ではない。

 教育を受けた人々やダラ・ハッパの血を濃く受け継ぐ者は今でもアルコスの学院を参考文献の場として価値を置いている。不幸なことに、アルコスの外からきた多くの学徒は、この都市は「貪り食らう者」の圧倒的な存在感により、学ぶには難しい場所だと考えるのだ。


 軍事学院精選軍事格言(訳注:以下の事例は多く「孫子」から採用したものと考えられる)

 ・「征服帝」エライブダフErraibdavu、「征服の道」より(訳注:コルダフ朝、簒奪者マハツァネルムMahzanelmに位を奪われる)

「汝の敵の真実が明らかになるとき、汝の勝利の正義が、勝利の黄金の光のもとに明らかになる。」(第三章―汝の敵を知れ。)


 ・エウシブスEusibus、「シャーガーシュのやり方」より(訳注:前述)

「汝がもっとも頼りにする場所と人々に気をつけよ、なぜならそこが「悪の息子」達が攻撃するところだからである。」(第十五章―虚偽と不正に関する対話)


 ・「征服帝」ウルヴァイリヌスUrvairinus、「全ての地の征服者にして軍の君主であるウルヴァイリヌスの戦役」より(訳注:アナクシアル(小暗黒)王朝)

「不純なる者は果し合いのやり方を誉める。公正な者は兵站を理解する。」(第三章―民を賄うこと)補遺16にある236項を参照のこと。単純な指示の遺漏が敗北をもたらした事例の表がある。


 ・エルツァネストゥErzanestyu、「エルツァネストゥの巻物」より(訳注:グバージ戦争後、ダラ・ハッパ再興、オルダネストゥOrdanestyuの執政)

「いかなる戦時の皇帝も決定的な瞬間に持つ以上に持っている事を望む。イェルムの光で輝く者は、それが必要となるずっと以前に、そこにいるときに必要な物資を準備しているものである。」(第一章―軍隊の召集)記録された軍の召集および、その兵站の困難さについては、補遺の12より46までを参照のこと。


 ・「戦の君主」ラダイダフRadaidavu、「勝利の星」より(訳注:コルダフ朝、アニレストゥの父)

「私はしばしば戦争で進軍するとき、最もなにの意見を尊重するかしばしば質問される。私はいつも将軍達を、「ロカーノウスと極星」と答えることで驚かせてしまう。訝しげなしかめ面に答えて、私は言う。「幌馬車は男達の腹を満たし、極星はその組織を調べる。それらなしには私はいかなる軍隊も持っていることにならない、野蛮人の群れだけだ!」(第十二章―ある皇帝の逸話)勢力に優る敵の移動に対抗して、補給線を防衛することについてのラダイダフ帝の講話も参照のこと。兵站面での失敗の例として、「愚帝」アニレストゥや「貧帝」エルメシオドElmesiod(訳注:デネシオドDenesiod朝二代目、スポル帝国の脅威)、デシクセルムDesikselm帝(訳注:エルツァネストゥ朝、内乱によって弱体化)のおこした全ての戦争について書いている「離反Disaffectionの書」を参照すれば、より深い読解がのぞめる。


 ・エウシブスEusibus、「シャーガーシュのやり方」より(訳注:前述)

「倒した敵に心を煩わせるな。常に次の倒すべき敵があるのだから。」(第十二章、戦の流儀)


 ・コルダフKhordavu、「怪物たちの調伏」より(訳注:コルダフ朝創始者、GROYの作者、プレントニウスのパトロン)

「戦争は「帝国」にとって最大の事業であり、生命と死を司るものであり、生存か絶滅かがかかっていることである。戦争については徹底的に考え尽くし、吟味されなければならない。」(第六章―「生きるために殺すKills for Life」皇帝(訳注:ジェナロング朝最後の皇帝、別名ハルカツテイムHarkaztem)の最期)


 ・「征服帝」エルメクスドロスElmexdros、「勝利の年月」より(訳注:デネシオドDenesiod王朝、スポル帝国とEWFの外圧時代)

「戦いとは欺くことである。したがって汝が有能であっても無能であるふりをせよ。兵力を配備するときには、動いてないがごとく装え。汝の目的が近くにあるときは、それが遠く離れているように見せよ。遠くにいるときは、近くにいるがごとく幻想をつちかえ。」(第九章―将軍達への教訓)第十二章のダラ・ハッパの戦略に関する、「仮面」マグニフィクス(訳注:赤の皇帝)の書いた軍事風刺劇に、この論題について一層の発展が見られる。


 ・「戦の君主」アニレストゥAnirestyu、「グバージに対する戦役」より(訳注:前述、コルダフ朝最後の皇帝、場合によって「愚帝」とも呼ばれる)

「蛮族どもの住む丘陵地帯―汝は勝利へと敵を圧伏せねばならない。カルグザント遊牧民の群れに包囲されたとき―汝は戦略に工夫を凝らさなければならない。汝の背中に「封殺の地Enclosure」の門があるときは(訳注:要するに「死地」)、「十一者」のごとく戦わなければならない。」(第四章―セアード戦役および敗北の悲劇)



 ・「騎馬の君主」カストクゥスKastokus、「カルグザントに対する戦役」より(訳注:KastokumもしくはCastok、前述、エルツァネストゥ朝最盛期の騎馬将軍)
 
「軍隊の力は、水の力のごとく、兵力を急速に散開する速度をもってはからなければならない。迅速な進軍は軍の士気を増大させ、イェルムの光のもとに全ての勝利の機会を増やすことになる。」(第二章―戦役における作戦行動の利用法、第三章―戦闘における戦術的機会のつかみ方。シェン・セレリスに対抗する「赤の皇帝」マグニフィクスについてさらに読むこと。




 包囲下の都市
 アルコスは何度も軍事活動と攻撃の拠点として活動してきた。この都は何度も包囲され襲撃され、兵糧攻めにされたが、決して軍事力の前に陥落することなく、政治的な圧力によってのみ都を開いていた。この都の軍事力にはいくつかの理由が存在する。

 オスリル川
 アルコス市はオスリル川とエリンフラース川の合流の地を支配している。そして常に「帝国」に入る入口のひとつとして存在してきた。多くの市民と富裕な家門が漁業と交易のために小船からなる小規模な船隊を抱えている。戦時にはこのような小船は軍隊を輸送したり、アルコスに名高い河賊となって利用されたりする。このような河賊はダラ・ハッパ内乱のイェルム暦112,270年から112,285年に封鎖を突破する船隊として働き、ルナー軍によって包囲されている間、ライバンスへと物資を運び込んでいた。このような船はカルマニア人の長い包囲の間にもアルコスに補給をもたらしてきたのである。

 沼沢地
 古代には、アルコスは広大な沼沢地の中央にあった。気紛れな土壌と敵対的な精霊たちが敵軍の勢力に消耗を与えた。オスリラ女神が都の豊穣の神としてビセルレンスリーブ女神に置き換えられた時、沼地は米を植える水田に変わった。隆起した土手道と橋が今日では水田地帯にじぐざぐに道を通している。しかしこのような場所はすぐに沼地に隠れている防衛軍によって水浸しのどろまみれに変えられてしまう。ビセルエンスリーブへの定期的な供犠は、アルコスの住民と水草の民weederを住んでいる病気の精霊から保護する。

 包囲軍は敵対的な「水草の民」の悪意から身を守るのに困難さを覚える。これらの沼地土着の民は、自分たちに自然な要素の中に溶け込んでしまう達人だからである。よくあるジャランJaran族(訳注:水草の民)の戦術は底無し沼や柔らかい泥の上を通って逃げることで、一時的にそれらを固い地面にする自分たちの魔術を使い、彼らを追う者が通るときに呪文の効き目を消すのである。

 市壁
 アルコスは強い魔術を起源とする古代の城壁に囲まれている。この壁は固い緑色の石一枚でできていて、地面の上20mに達し、地下3メートルまで潜り込んでいる。この壁には入口は存在しないので、門は壁の下をくぐるトンネルの中にある。これらの門は簡単に水浸しにできるし、オスリラ信者の魔術が普通の状況下ではトンネルが水で満ちないように必要とされている。壁の下を掘りぬこうという試みは例外なく水の襲来と都の水の精霊の攻撃によって迎え撃たれる。

 この壁は凄まじい力で魔術的に見張りがされている。見張りの力と魔術がいく層にもなって、シャーガシュ神の統治時代までさかのぼるほどであり、いくつかの魔術はあまりにも強力なので、シャーガシュ自身がそれらを仕込んだといわれているが、城壁に埋めこまれており、アルコスの住民の信仰によって維持されている。アルコス人にとって、この壁自体が最大の「封殺の寺院Enclosure」を体現しているが、それは彼らがみな、この地界の「シャーガーシュの家」の中にいるからである。この偉大な緑の壁を飛んで越えようとする工夫に富んだ攻撃者はいかなる者もすぐに自分が地獄に向かうのを強いられていたことを見出す。

 都市
 アルコスはあまりにも古いので、つもった岩くずと灰で、外側の地面より都の内側が数メートル高くなっている。このことは都を川の水面より上に十分上げていることになる。そしてこの都を古代からのトンネルや、地下室や、下水道でわかりにくくしている。これらのトンネルの多くにより、都の中で秘密の移動が可能になっている。もしある侵入者がアルコスの壁の上に道を通さなければならないとしたら、彼らが敵を排除した区画を長く維持できるものではないということに気付くだろう。(訳注:この部分、訳いいかげん。)

 アルコスの建物はエリンフラースやオスリル上流の石切り場から輸入してきた石で大半作られている。この石が使われている場所は都の中の多くの防御された地域で、「赤の王」や「緑の王」の丘の上の宮殿や、多くの豊かな屋敷や、全ての「封殺の地」などである。市壁の中の70%を建物が覆っている。残りの都市の部分は、市場や、パレードの広場や、ポロの遊技場や、聖なる動物たちのためのわずかな牧草地となっている。今にも崩れそうな住居がこのような開けたところにちらほら存在するが、都が敵に包囲のおそれがあるとき、これらの家は燃やされてしまう。

 住民達
「緑の壁」の中の都は、文字通り「地界」にある。多くの異国の魔術はここでは単に効かないか、予想通りに働かない。精霊の軍隊や妖魔たちが「封殺の地」にある井戸から召喚できるし、彼らはこのような井戸に降りてくるような無謀な敵を大喜びで貪り食らう。

 ほぼ全ての男性のアルコス人が個人的な学問の師匠たちや、組合や、家族からいくばくかの戦闘訓練を受けている。戦のドラムが響くとき、数千もの平民がシャーガーシュの霊に満たされる。彼らは彼が提供する魔術を、しばしば将来の彼らの人生にすることになる供儀を元手にして受け入れる。「軍神」シャーガシュの全ての「道」の司祭たちに戦いに不慣れな者はいない。特に恐るべき暗き道(訳注:おそらく「黒の王」とその弟子達?)の修験者たちは生死に及ぼす心を麻痺させるほどの力を保持している。

 結論
 これらのアルコスの防衛の特質を考えて、「力の都」が劫掠されることなしに長い年月存続してきたのは不思議なことではないということが明らかになる。全ての成功した征服者は無理じいの征服よりもむしろ政治的な解決を示してきたのであった。


シャーガーシュと戦争の知識
Greg Stafford
 
「シャーガーシュは軍神である。最初の騒乱が起こった時に、彼は「帝国」でそれを解決する力をもっていた者だった。彼は騒乱であり、彼はこの地に暴力をもたらした敵に、自らの暴力を向ける用意ができていた。いつも、そして長いこと、彼は皇帝たち(訳注:アナクシアル朝)に力をふるうのを延期させられた。しかし彼らの知恵は「永続の地」が自己防衛のために「うつろいの地」のやり方を用いる時がくるのだということを予見していた。しかしそれが逃れられない運命であることを予見できなかったがゆえに、準備のないことから砕け散った。

「シャーガーシュは準備を整えていた。彼はドラゴンと、蛇と、「赤の女神」セデンヤと、「鳥の民」と、ドラゴニュート族と、「氷の神々」と、はたまた「黒喰らい」と、それとも「数にまさる者たち」と、戦うことを望んだたびごとに拒絶された。しかし彼の技が常に否定されても、皇帝の命に彼は常に忠実にしたがって姿を消した。それでも彼は落胆することなく、そのたびごとに彼は知識を増やし、前起こったことから学び、そのために彼は常に戦いと破壊の全ての知識に鋭敏であったのである。」

―「イェルムの光輝に満ちた再昇天Glorious ReAscent of Yelm」101ページ



 



 アルコスの歴史:ダラ・ハッパの間の食い違いについて
                      マーティン・ローリー筆

 アルコスは大部分のダラ・ハッパよりも「暗い」毛色の異なる歴史を持っている。プレントニウスですら他のダラ・ハッパの民と相対的にみたアルコスの独特さを把握することに失敗した。アルコスは「暗黒」の間も存続し、アルコスはそれを通じて生き残った。他の神々が死んだりうすれていく中で、シャーガーシュ神は生き延びたし、絶え間なくやってくる名前のない敵や他の者に名を知られていない敵と戦った。彼の民と軍は彼とともにあり、緑の壁の中で護られていた。

 したがって、「イェルムの光輝の再昇天Glorious ReAscent of Yelm」に書かれているプレントニウス的な歴史はその孤高の感覚や、全てのアルコス人が自分たちの「万物の神」の神話を繰り返すたびに感じる自信を伝えることに失敗している。

「曙」の後の歴史の中ですら、アルコス人はしばしば孤立していて、昔ながらのヘンジャール地方の覇権を保ち、「帝国」の他の地域を従属させた征服者たちに反抗を行っていた。アルコスはトライポリスのなかでは異質である。この都市は戦争とその神話的な役目のために必要とされているが、そばにいて居心地のよい三人目の仲間ではない。



アルコスのできごとの記録
Harald Smith筆


 
 アルコスの詩形
 アルコス人は伝統において古風だが、だからといって歴史の記録をするのに長けているわけではない。彼らにとって、時間や空間や敵は意味を持たない―彼らは何度も何度も同じ出来事にかかずらう。しかし、彼らの過去の出来事をほのめかす情報の断片は存在する。(訳注:ヒンドゥー教徒とシヴァ信仰との類似については言及するまでもない)
 
 この緑の都の大いなる壁の内側では、途切れることのない浅浮き彫りとモザイクが通りや横丁や奥まった通廊を縁取っている。これらの浮き彫りやモザイクはシャーガーシュ神の征服と力を示している。絶え間のないシャーガーシュに向かって進軍していく軍隊の列があるが、それらは皆この「赤の神」に倒される。敵の見た目はしばしばみな同じようである。ときどきウーマトゥムUmatumや「河の大蛇River Serpent」のように特定の敵が認識されることがある。しかしこれらのはっきりとした敵すら多くの戦に何度も姿を現していることが多い。大部分の敵は着ているものや武器からわずかばかりの特徴を持つ小さな姿に過ぎない。斧を持っている者たちはシリーラ人だろうか、ヴァンチ人だろうか、それともヒョルト人だろうか?スリングを持っている者達はザルコスの民だろうか、それともヴァンチ人だろうか?騎馬の民はハイアロールの民か、それともベレネス部族(訳注:ヴィングコット人の一部族)の者だろうか?訪問者には区別できるかもしれないし、このような質問をするかも知れない。しかしアルコス人の質問に対する答えはさまざまだ。ある日には同じアルコス人が特定の壁画がある所に向かって、「我々がヴィングコット人を打ち負かした所」だと言えば、次の日にそのまったく同じ絵を指さして、「我々がダージーン人を負かした所だ。」と言うのである。

 アルコスに住んでいる異なるグループごとに、様々な葬送歌や詩歌のレパートリーが儀式で用いられている。これらの詩歌には歴史的な連続した流れはないが、アルコスの日々の暮らしで重要な役割を果たしている。ほとんど毎日、グループのいくつかが儀式を行っている。これらの儀式の中にはしばしば特定の壁画に向かって行進する行事が含まれる。「鞭打ちの門」の「屠殺人」たちや、「道路掃除夫」たちは年ごとの日によって同じ壁画に対して異なる詩を用いる。

 「鞭打ちの門」の「屠殺人」たちには「長き影の日」(訳注:シャーガーシュ神の大聖日(冬至?))にある詩が歌われる。この儀式の最中に、屠殺者たちは「最初の粉砕」の壁にあるいくつもの壁画のイメージの前を通り抜けて、指導者がそれぞれの場面を示していく間、詠唱する。

「「鞭打ちの年」にガヴァシャール殿が血の王冠(「赤の王」の位)を獲得した時に、「裏の風」(ヴィングコットの民)どもが「封殺の地」の門を訪れた。「裏の風」どもはシャーガーシュ神を真似てドラムを打ち鳴らした。「裏の風」どもはシャーガーシュ神を真似て槍を投げた。「裏の風」どもはシャーガーシュ神を真似て呪いをかけた。しかし彼らにはシャーガーシュ神がわからなかった。「赤の王」ガヴァシャール殿はウルヴァール達(戦の従者たち)に「ナデックのドラム」で武装され、「赤の王」ガヴァシャール殿はウルヴァール達に「ペラカストゥスの槍」で武装され、「赤の王」ガヴァシャール殿はウルヴァール達に「長き影の妖魔どもの破滅」で武装された。「赤の王」ガヴァシャール殿は「鞭打ちの門」から戦士たちを率いていった。「ナデックのドラム」は「裏の風」のドラムの音を鎮め、敵どもを跪かせた。「ペラカストゥスの槍」は「裏の風」の槍を折り、空から払い落とした。「長き影の妖魔どもの破滅」は「裏の風」の呪いを呑みこんでしまった。そして「赤の王」ガヴァシャール殿の腕が伸びて、彼がシャーガーシュ神の力でもって触った「裏の風」ども全てを引き裂いた。「裏の風」どもは「赤の王」ガヴァシャール殿が呼び起こしたシャーガーシュ神の力から逃げ出し、ただ一つの松明のみ逃れた。」

 このような詩文の翻訳者はしばしば巧妙で、アルコス人が(典型的に弱いオーランス人を指して)「裏の風」やら「ガスの袋」やら呼ぶとか、より通称として「食物」とか「愚か者」どもなどと呼ぶ時に、「ヴィングコット族」のような名称を訳すときにあてはめる。

 このような詩の全てが戦争にまつわるものなわけではない。いくつかの詩はよりありふれたものごとを扱っている、たとえば以下の油絞り屋たちの詩のように:

「緑油のベリー(1)は緑の王オレタノック殿に発見された。「根無しの山」の方向に土地が持ち上がっている所だった。「配偶者」(2)が浅薄で不精に横たわり、亜麻の種が枯れた時に、オレタナック殿は新しい油をもとめて「封殺の地」を離れた。彼は自分の油絞り器を持っていって、全ての方向を訪れたが、東に行ったときだけ、彼は絞った時に汁でなく油が出るベリーを見つけることができた。彼は緑油のベリーの種を十個集めて、アルコスに持ち帰った。彼は三個を葦の生えた川岸に植えたが、葦は根を伸ばして絡みつき、芽を曲げてしまった。彼は水の流れから離れた土手に沿って四個植えたが、イェルム神の目がそれらを見つけて枯らしてしまった。イェルムはその酸味を好まなかったからである。彼は二個を「配偶者」の水中に植えたが、「配偶者」の子供達がそれらを見つけて食べてしまった。結局オレタノック殿は最後の種を彼の宮殿の影、緑の丘そのものに植えた。非常な注意と育成を通じて、この種は育ってついには樹になり、さらに種を生み出した。しかし緑の丘の上で、また緑の宮殿の影のもとでのみ、それ以来、緑油のベリーは育てられることになった。」

 (1)アルコスで油を取るために使われる特別な漿果(ベリ−)。
 (2)オスリラ(女神)。



 知事の記録
 アルコス人にふさわしくなく、皇帝に任命されたダラ・ハッパ帝国の知事たちは伝統的に在任中の出来事の記録をつける書記たちを抱えている。時々これらが皇帝の宮廷への報告書の一部となる。時々これらは知事の事績を礼賛する個人的な記録として用いられる。ひとつの事例は、「第七の丘の頂上」の領主、ヘミマムの統治時代である。

「111,284年、「第七の丘の頂上」のヘミマム殿がヘンジャール地方の知事に任命された。彼の就任時に「ダージーン人の簒奪者」に対する大きな不満が持ちあがった。一人の反逆者が「力の腰帯」を手にしたが、ヘミマム殿は「夜の目」からヴェールを取り除けて腰帯を取り戻した。「灰の風」がやってきて都を清めた。」

「111,285年、ヘミマム殿は彼の統治を記録させるためにひとりの書記を呼び寄せた。「赤の王」イシャンタール殿が競技会を催した。「黒き得物の広場」(1)で「鵞筆使い」のヴァラシュが「利鞘の」バネルティムを、「究極の一撃」で打ち倒した。」

「111,286年、ヘミマム殿は新しい「封殺の地」(訳注:シャーガーシュの神殿)の建立をもとめた。ウルボール・ハンプール(2)が二十九番目の扉を開いて「戦を追う者」を公開した。「軍旗の旗手」たちは「戦を追う者」のしるしを手にとって北門のてっぺんにそれを挙げた。」そして「黄金の頭飾り」が北門に現れて、新しい「封殺の地」に埋められることになる「十四の武器」を持ってきた。(3)「赤の王」ゾルヴァスティン殿は新しい「封殺の地」の周りに赤い玉髄を埋めてユルダム(4)を生け贄にし、シャーガーシュ神が新しい「封殺の地」を知り、その中に入ることができるようにした。ウルボール・ハンプールは「戦を追う者」を手に取って、新しい「封殺の地」の中に運んだ。それはウルボール・ハンプール自身のものを含めて二百四十四個の目を潰した。シャーガーシュ神と「戦を追う者」に祝福されて、ウルボール・ハンプールは新たな「封殺の地」から出てイルバギッツの家門に向かう「盲目の通り道」に印をつけた。ここでウルボール・ハンプールはガーゴーキ(5)を破壊して「十四の武器」の印をつけた。このようにしてウルボール・ハンプールは「戦の神殿」を建立し、イルバギッツ家は戦士たちの食物になった。」

「111,287年、ヘミマム殿は通りの馬糞を掃除するように命じた。バンサヒムが六百本の固い毛を引き抜いてジョルカリムの鬚を切り取るまで、バンサヒムとジョルカリムが「箒の法廷」で戦った。バンサヒムは通りの浄化を監督して、「跳躍者」(6)の鞍を清掃した。ヴラニス(7)達は掃除夫たちの命令に従うように強いられた。「赤の王」ヴルハギット殿はヴラニス達の長子を神に捧げ、若者の喜びが全ての者に共有されることで祝った。」

「111,292年、ヘミマム殿は「タラシュの鰐(クロコダイル)」(8)を調伏するようにアルコス市に命じた。「赤の王」ルダルシャム殿はヴァルナガ女神(訳注:ダラ・ハッパの「神々の壁」に刻まれている「鰐の女神」)を従えるシャーガーシュ神の儀式を行ったが、「タラシュの鰐」にはこの儀式は効かず、「赤の王」を呑みこんでしまった。「緑の王」ヤマストゥス殿は「タラシュの鰐」がアルコスの底に潜り込んで市内に入っている間、二つの丘(訳注:「赤の丘」と「緑の丘」?)の間に留まっていた。「タラシュの鰐」は「緑の王」を呑みこむ前に五百もの人々を奪った。それで市内の全ての樹木の緑が消え去った。「タラシュの鰐」は「封殺の地」(訳注:この場合、アルコスそのもの?)の中に留まり、食べたものを消化したが、それは人々が鰐の皮が剥げ落ち、その下に緑色の蔓やつたがあることに気づくまでのことだった。「鰐」の頭が転げ落ちた時に、「緑の王」が姿を再び現した。」

 (1)ここで言及されているアルコスの一画の広場は書記達のような役人達が、たいていの場合言葉でのみ争うところである。しかし時たまに武器が用いられることがある。競争者は、アルコスでのみとれるイカの足から出るインクでいつも自分の武器を黒く塗りつぶしている。
(2)これは称号かもしれないし、知られていない個人名かもしれない。
(3)「新しい封殺の地」は単に一番新しく作られた「封殺」を意味しているにすぎない。「封殺の地」の数が数えられるわけではないが、後で特別な役割や名称が与えられることはありうる。
(4)セアード地方の捕虜。
(5)ある種の妖魔に守られている、館への特殊な門。
(6)「美しき騎手」ヴラノストゥム皇帝の騎馬像。ジェナロング皇朝の皇帝。
(7)馬飼い。
(8)化物じみた河の妖魔。


さらにアルコス(と近隣諸国との関係)を知りたい者は以下のサイトに進むこと
(いずれもまりおん氏のサイトの記事です。)
父が教えてくれたこと
http://www.glorantha.to/~tome/lib/wmftm.htm
シャーガーシュのカルト
http://www.glorantha.to/~tome/lib/shargash.htm


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