この文書はグレッグ・スタフォードが四方世界のコンセプトを打ち出す前、ルナー帝国と啓発、メトゥサイラとラーショランの関係など東方の神秘主義との漠然とした関係をほのめかしていた時代に書かれた。より新しく書かれた形のサラーズニーの神話と比較対照してみるのも面白い。See Here for New Version (English) of Ancient Emperor Thalurzuni
空の世界
神話と歴史
クラロレラの人々が言うには、「神代の証拠は全ての物に明白に現れている。」しかし続いて「空の道」の僕たる者は付け加える。「すなわち、全ての物は、神代のエネルギーであり、また幻影である。」


クラロレラにおいては、帝国の年代記書記官が、神代の「太陽の時代」から連綿と続く記録を保持していると主張している。「時」以前の正確な年代記と言うのは、クラロレラ以外の地には存在しない。、シャン・シャ帝の「新龍輪」の歴史家達は、全ての事件が共時的に行われた他の地域に対する例外として、クラロレラの戦乱に満ちた神代の伝説を見ている。彼等が言うには、「魔術的な環境が、クラロレラでは、「時」以前から、「時」の擬似的な形を持って現れている。」と。

しかし、「天上戦争」の後、「新龍輪」の思想の保持者は全て殺害され、その記録は可能な限り、年代記から抹消された。この事故に、かえって神代以前の年代記が統べて、封印され、その中に含まれている並べての善きものすら禁忌とされる状態に陥った。ゴトゥーニアの考えでは、「新龍輪は、クラロレラの唯一神代から続く伝統を冒涜し、一時的な欲望の達成の為に、帝国の神代よりの魔術を中断させてしまった。これは取り返すことが出来ない痛恨事である。」しかし、「空の道」の信者達は言う。「西方の怪物達に龍帝が滅ぼされたのは必然であり、怪物達が天の怒りによって殺害されたのも又、必然である。彼等は、皆、賢しらな知恵を振り回して滅びていった。」彼等は、「新龍輪」が、「空の道」の異端者による運動であったと見る。実際、クラロレラの全ての歴史における影に、「空の道」は存在し、全ての皇帝崇拝・祖霊崇拝を除いたクラロレラ人は、潜在的に、「空の道」の信徒なのだ。そして、以下の神話を語るのは、「新龍輪」の神話を語らずして、神代の伝説を語ることが可能であると自称する者の神話である。

いわく、「人」のルーンが発見され、人間達が女神達によって創造されたのは、スパイクが原初の海、スラマックから浮上した後、ハイキムとミキューが子供を産み育て、アルドリアの子等がスパイクの斜面と地上を支配した「緑の時代」が終わる直前の事であった。
菱形の陸地の東端にヴィゼラの地が在り、ここに「野人」が生まれた。動物の精霊どもと交わって合いの子達を生んだ後、「大地の女帝」の慈悲により「慈悲の女人」を娶り、クラロレラの民が生まれたのである。彼等の長にして教師が「賢者」アプタネイスであった。

「恐怖洋」が地上世界に侵略し、スパイクの東の斜面を洗った時、アプタネイスの民の一部はこもごも、侵食されていくヴィゼラの地を離れて、西の方に己が国を建てんとして、筏や、波の下の友人を頼って海を渡った。丁度その頃、イェルムは東のヴィゼラの地を娘のゼイヤや、息子達に任せて、三人の敵を打ち負かして、父神エーテルの玉座へと昇って行った。彼は幾つかの功業の後、北の地上世界を纏めていた巨人ジェナートの臣従を得た。従兄弟であるウーマスや、パマールトを辺境に追放し、名実共に「宇宙帝国」の皇帝となったのである。

クラロレラの民は、この当時指導者であったイェルムの息子、メトゥサイラと、偉大なる戦士、シャヴァイアに率いられて、ヴィゼラ帝国の流儀をもって周辺のスンチェン人を教化し、樹木の民と競争した。又、辺境にいる嵐の民や、邪悪な薄明の世界の伝統に固執する「忘却の国」の民との血を流す戦でも、「天帝」イェルムの軍の先鋒を勤めた。シャヴァイアは「太陽嵐」を打ち負かし、第三の目の蒙を啓いてやった。この功績により、彼は太陽の帝国におけるイェルムの寵臣としてその座を占めたのである。シャヴァイアの一族の姫、デンダーラはイェルムに嫁ぎ、絆は更に増した。

しかし、イェルムの甥達、フマクトとオーランスが父親の轍を踏んで、乱暴を行い、死を世界に広め、神々を最早信じない嵐の民が西方に「論理王国」を築くに及んで、イェルムは悲嘆と共にオーランスの凶剣で地界に下り、イェルムの帝国は主を失って分裂状態に陥った。デンダーラは夫の後を追って地界に下り、地上への「怒れる海」の侵略、アンティリウスと「黄金弓」の争い、ローリアンと「青の月」の天界とスパイク南岸への侵略、そして嵐の神々はスパイク、天界の宮廷、至高のイェルムの玉座を剣と血と暴力で占領し、その狼藉の怨嗟の声は天地に響き渡った。

暗黒の神々はフラマルをフレラー・アマーリで暗殺し、アーナールダは悲嘆の余り眠りに就いた。光の神々の内、イェルマリオは熱の力を喪失し、シャルガーシュはオーランスに武器を奪われ、ヤムサーは乗騎を見捨てて逃げ出し、ウェンダリアのテュロスは内陸まで入り込んだ水の民に敗れ、ロウドリル、先駆星などはいずれも鎖で繋がれた。「忘却王国」では影が濃くなり勝り、トロウル達は生け贄を貪り食らった。

クラロレラの民は、シャヴァイアの努力の元に、東方の領土の多くを怪物達に奪われつつも、主権を維持した。この頃、帝の軍師であるメトゥサイラは、最も新しい神を自称する新たな友人(神知者はこの神をラーショラン、誘惑の神と見なしている。)と、ジェナートの庭園から来た嵐の民である(彼等はおそらくウロックスの民であり、牛の頭を持っていた。)新たな弟子を得ていた。

シャヴァイアは偉大な帝であったが、従兄弟である太陽神の一族の運命にかかずらい、臣下の苦しみの声に耳を傾けなかった。出征する度に民人は疲弊し、新たな指導者と弱りつつある光の力に変わるものを望んだ。

龍を遠い祖先と自称するダルーダはシャヴァイアの帝国の西方を守る将軍であり、ジェナートの領土から入ってくる暴徒や、敵意ある樹木の民を防ぐ役割を良く果たしていた。雄牛の民の一人、「踊る剣」がダルーダに次の帝となるように勧めた。ダルーダは西方遠くに密かな企みを持って軍を進め、終に自分の一族の源流と言われる龍の踊る地に入り、「叫ぶ龍」と「目を覚ます龍」が争っているのを見た。

ここで「踊る剣」がダルーダを「啓発」し、ダルーダは「目を覚ます龍」の側に荷担して、「叫ぶ龍」を打ち負かした。感謝した「龍」は「龍の国」の一つにダルーダを連れて行き、龍の魔術を教えた。「目を覚ます龍」と共にダルーダは母国に戻り、龍の国の強力な魔術を用いて、シャヴァイアに位を譲らせたのである。
ダルーダの帝国の元に、「啓発」の哲学は隆盛した。しかしメトゥサイラは、「啓発」された帝によって国が治められること、「啓発」の力がこれほど大っぴらに用いられることに遺憾の意を表した。何故なら「啓発」はこの世界の陰の力であり、陰が栄えるところに陽は衰えるからである。「踊る剣」はメトゥサイラの反対に腹を立て、彼を龍の国の牢獄に幽閉してしまった。「踊る剣」は「啓発」を現実のあらゆる所に適用し、それを破る者や、死せる太陽神をダルーダより崇める者には過酷な刑罰を科した。ここでメトゥサイラのもう一人の弟子、「命の息吹」は、龍の魔術から離れた所に、もう一つの「啓発」の学派を打ち建てて国家に対抗した。「踊る剣」は、ダルーダの威権の届かないスンチェンの離教者や世界の外辺から遣ってくる怪物達を用いて、彼等を迫害した。

おりしも、「不浄の三神」は、世界の網を切り裂く邪術を行い、ワクボスを始めとする「混沌の神々」の主力が北方から進攻してきた。オーランスは臆病にもスパイクを見捨てて西方に逃げ出し、スパイクが爆発した。「踊る剣」はジェナートを葬った軍勢を利用して、「命の息吹」の学派を滅ぼそうとした。サラーズニーは、ゴトゥーニアと同じく、兵を挙げる前は平民に過ぎなかった。「命の息吹」の弟子、「力の器」は彼に帝の器を見て、彼にシャヴァイアの輝く剣と杯を与えた。「忘却王国」の邪神達が水の神々をクラロレラに引き入れ、スアム・チョウ内海が出来上がり、首都ゴロフェンの付近は海に沈んでしまった。民はこれを見て新しい帝を求めた。

サラーズニーが宇宙ドラゴンに呼びかけて、ダルーダに勝る権威を示した時、人々は争ってサラーズニーの方に付いた。そして、サラーズニーが混沌の軍勢を防ぐ為、剣を大地に突き立てて、龍の姿をした大地がそれに呼応して縮れた布のようにシャンシャン山脈が隆起し、噴火するのを見た時、ダルーダは彼に譲位した.。

サラーズニーはその後も忘却王国の邪神、「影の癌」、「秘密の領海」「大地食らい」「星を並べ替える者」などと戦い、山脈を越えてきたホアン・トゥー、アトヤー神などと剣を交え、いずれも打ち破った。

最後に、サラーズニーがゴロフェンの廃都から杯の水を振り撒いて、スアムチョウ内海を清め、忘却王国の軍勢や混沌の軍勢を浄化した時、太陽が昇った。イェルムと海龍達はサラーズニーの治世を祝う言葉を述べ伝えたのである。イェルムの皇后デンダーラは姉妹であるゴゴーマと再会し、世界の復興を喜び合った。彼は忘却王国のバスコやプラックスのワッハやテシュノスのカリズによる臣従の誓いを受け入れた。シャヴァイア帝の娘である「穀母」が国土に向かって三度答礼を繰り返すと、西方から遣って来た青春の女神であるヴォーリアがクラーラ女神を目覚めさせ、稲穂が鈴生りになって帝の行列にお辞儀した。「力の器」は、彼に高位を与えようとするサラーズニーの勧めを断って、師と同じく何処とも無く姿を消した。

サラーズニーがこの世を去る時、彼は「力の器」から教わった円環の舞を后に舞わせ、命と死、人の世界と龍の世界を一つに結び合わせた。この帝が微笑みつつ死んだ時、多くの民が後を追って「龍の世界」に入って行った。

時始まって後、クラロレラでは比較的平和な時代が続いた。龍帝達が多くの事業を成し遂げた時、、「空の世界」のカルトもその事業の影の部分を創り為した。法律が作り出された時、皇帝の官吏達は税制を定めた。言葉が統一された時、道士達は輪廻の図と、五大元素相克の図を作成した。正知の網が編み出された時、学者達は科挙制度を作って、新たな階級制度を持ち込んだのである。

「空の世界」のカルトは、クラロレラ的な祖霊と龍の崇拝に矛盾するものではない。ただそれらを素朴な物と見、、龍と人との深い間隙に掛けられた橋に対して疑義を持つだけである。彼等は全ての物に起こる流転、「輪廻」の輪を信じ、最終的にはそれらからの開放、解脱を求めている。不死は問題の解決を遅らせるだけだと見る。葬礼の祭式は上古からの伝統に準ずるが、解脱した者に墓は必要とされない。

「空の世界」のカルトは、「魔術」と「陰陽」の独自ルーンを有している。このルーンは万物の流転と移り行く有り様を描いているのだとしている。「陰陽」のルーンはルナー帝国におけるナヴァーリアの「誘惑」の混沌ルーンに似ているとルナーの学者達に指摘されるが、クラロレラ人はこの類似性を否定し、ルナー帝国の破滅は、既に運命付けられているとしている。「啓発」された者に支配された物は最終的に利己的にしか成り得ようが無いからだと言う。副次的なルーンとして「変化」を有しており、異端派は「死」や「嵐」や「幻影」を有していることもある。

付記 以下にクラロレラにて発達した五大元素相生相克の概略図を現す。
(後注:このアイデアは後にGlorantha:Introduction to Hero Warsに応用された。これを公式化したのがグレッグ・スタフォード、ピーター・メトカルフ両氏のいずれであるか定かではないが原資料は不明である。(でもこんなアイデア誰でも考え付きそう・・・)

梗概
「暗黒の貴婦人ナカーラの娘ステュクスは海の父ザーラマーカを産み(闇生海)、ザーラマーカはガーを産み(海生地)、ガーの娘、大地の貴婦人ガータは光の王エーテル(エイサー)を産み(地生光)、エーテル(とガータ)は嵐の王ウーマスを産んだ。(光生嵐)又ウーマスの息子オーランスが、伯父の太陽神イェルムを殺した事で小暗黒が到来した。(嵐生闇)
暗黒の戦神ゾラーク・ゾラーンは「種の王」フラマルを殺害し、「大地」アーナールダの身体を貪った。(闇克地)死せるイェルムは「トロウルの母」カイガー・リートールを傷つけ、コラスティングを討った。(光克闇)「攪拌者」マガスタは西に向かう瀕死のイェルムを傷つけ、「天の川」ローリアンと「青の月」アニーラは天界に昇って「瞑想者」ダーゼイターの眷族を征服した。(海克光)オーランスは龍アロカを殺し、マスターコスとヘラーを捕らえて奴隷にし、暴風ヴェイドラスは龍エンコンションズを倒して「青の女」を僕にした。(嵐克海)そしてアーナールダは魅惑の魔術を使って、狂暴なオーランスを呪縛したのである。(地克嵐)」


グローランサ宝物庫に戻る

その他の東方諸島神話については、以下のまりおん氏のサイト内にある記事を見ること。
http://www.glorantha.to/~tome/lib/eastmyth.htm