続・むく犬の大冒険(連載ビアディー小説)


★第一章(大阪・北港)★
台風に運ばれ、おうちに帰ったビアディー達、よほど疲れて
いたのでしょう、夜、ベットに入るとすぐ寝息が聞こえてきました。
「すぅ〜すぅ〜、おうちほどいいところはな〜い・・・むにゃむにゃにゃ・・」

大冒険は終わった、みんなそう思っていました、が・・・

みんながおうちに帰った数時間後。

「それ」を最初に見つけたのは、紀伊水道を行き交う貨物船の
船員達でした。
「それ」は海面をV字に切り裂きながら、すさまじいスピードで
北上していたそうです。
しかし、双眼鏡で覗いても航跡の先頭に、船らしき影を
誰も見つけることが出来ませんでした。
そして「それ」は早くも数十分後には大阪港に入っていました。

それから2時間後、大阪北港近くのビルの掃除をしていた
おばさんが、屋上の片隅で「それ」を見つけました。

「誰がこんなもの捨てたの?」

近づいたおばさんは持っていた箒で「それ」を突っつきました。
すぐにおばさんは「ふぎゃ〜!」という悲鳴をあげ、逃げだしました。
あとで大阪府警水上署に駆け込んだおばさんはこう言ったそうです。

「大きなモップが、モップが立ち上がったんです、モップが・・・」

おばさんに突っつかれた「それ」は言いました。

「もぉ〜、とっても良い気持ちで寝てたのに〜、もぉ〜」

牛ではありません、もちろんモップでもありません。
びしょ濡れになった1匹のムク犬でした。
彼の名は「佐藤ダン」といいます。

彼は魔法の箱を捜しに大阪へ向かったアリエルちゃんの
応援のため、昨日の朝、ノン父さんに見送られ、岩手を
発ったのでした。
普通のビアディーなら陸路を選んだはずですが、彼は違いました。
なんと太平洋を泳いで、大阪に向かったのです。
だって彼はビアディー界屈指のスーパースイマーなんです。

道中、大嵐にも遭いました。でも、途中で出会い意気投合した
「戻りがつお君」と励まし合いながら仲良く南下、一昼夜かけて、
今朝、大阪に上陸したのでした。

「疲れたなあ、もう泳ぐの飽きちゃったよ。今度は空でも
飛びたいな〜」

そして背中のバックから大きめのお弁当ぐらいの箱を
取り出し言いました。

「でもみんなびっくりするだろうな〜。まさか僕がこれを
持っているなんて、絶対信じてくれないだろうな〜、へへへ!
それにしてもこの箱をくれたお姉さん、確か名前は
乙 姫子さんだったかな?ホントにきれい人だったな〜」

そう、それは昨日の夕方、一休みした鎌倉の海岸でのことでした。


★第二章(鎌倉・片瀬海岸)★
朝からずっと泳ぎ続け、さすがに疲れた彼は、一休みするため
鎌倉の海岸に上陸しました。
そしてそこで子供達にいじめられていた年老いた亀を助け、
海に帰してあげました。
すると、突然、海の中からきれいなお姉さんが現れ、彼に言いました。

「亀爺を助けてくれてありがとう、ぜひ、竜宮城へ遊びに
いらっしゃいませんか、鯛や平目の舞い踊りで・・・」

怪しいお店の新手の客引きか、と思った彼は、少し後ろ髪
引かれましたが、「約束があるから」と断りました。
すると、そのお姉さん、
「ではせめてものお礼にこれをもらってください」と
どこからともなく箱を取り出し、彼の手の上に乗せてくれました。
彼は聞きました。

「これはなんですか?」
「夢を叶えてくれる箱です」
「えっ、じゃあ、魔法の箱?」
「えっ、魔法、あの・・それはタマテバ・・・」
「ありがとぉ、もらっとくね」

彼女の言葉を最後まで聞かず、また彼は泳ぎはじめたのでした。

「みんなが来たら、一緒に開けるんだ、楽しみだな〜
でも待てよ、僕のママは知らない人を信じちゃダメだよって
言ってたな〜。う〜ん、ちょっとだけ開けてみようかな〜、
よ〜し、ちょっとだけ」
彼はほんの少しだけ、ふたを開けました。
すると、隙間からモクモクと白い煙が出てきて、辺り一面に
広がりました、もちろん彼の体も煙に包まれました。
そしてすぐに煙は消えていきました。

「ゴホッ、ゴホッ、な、なんだよ、もぉ〜、あれ、中に何も入ってないや」
「やっぱりママの言ったとおりだ、こんにゃろぉ〜」

煙に驚き、しりもちをついていた彼は怒って立ち上がろうとしました。
でも何かを踏んづけて、また転んでしまいました。

転んだ彼は自分の足の下にあるものを見てびっくりしました。

「ん?これなに?ん?もしかして耳?、耳だよね?僕の・・・」
「ぎょえ〜、耳、耳が取れちゃった〜、たいへんだ〜、ママァ〜」


★第三章(ダンボ)★
「これじゃおうちに帰れないよ〜、ママァ〜」

今にも泣き出しそうな彼でしたが、ふと、あることに気づきました。
それは踏んづけている耳が痛いんです。取れたのになぜ?
そう、よく見ると・・
「な〜んだ取れたんじゃないのか!長く大きくなっただけじゃないか、
エッ、長く・・・大きく・・・げっ、そんな馬鹿な・・・」

そうです、耳がいつもママが首に巻いてくれるバンダナより
ず〜っとずっと大きくなっていたんです。

「あの魔法の箱のせいだ、くっしょ〜。 あのお姉さん、願いを
叶える箱だって言ってたじゃないか。 こんなことお願いして
ないよ〜。 これじゃ、前にビデオで見たディズニーの 空飛ぶ
子象のダ・・・、んっ?、んっ?、待てよ・・・まさかっ!」

そう、いつでも彼は前向きです。すぐに試してみました。
もちろん、飛べるかどうかです。

パタパタ、、耳を動かすのはやはり難しい。パタパタパタ
でもほんの少しだけ体が浮いたような気がしました。
泳ぎもすぐにマスターした彼、飛ぶコツをつかむのも
アッという間でした。
自力で飛べるフライングビアディーの誕生でした。

箱を開ける前、最後に願ったのは確か「今度は空でも
飛びたいな〜」でした。
きれいなお姉さんが言ったことは本当だったのです。

数時間後、怪しまれぬよう耳をターバンのように頭に巻き、
インターネットカフェに入った彼はBDNのページを見て、
大冒険がもう既に終わったことを知りました。
「な〜んだ!せっかく飛べるようになってみんなのお手伝いが
できると思ったのに・・・つまんな〜い、おうちに帰ろっと」

帰りはビューンとホントに楽ちんでした。
おうちに帰って彼はママに言いました。
「友達のパムちゃんのパパはきれいなお姉さんなら騙されたって
本望だって言ってたけど・・本当かも・・・」って。

その後、彼はBRNのパトロール隊長にスカウトされ、迷子を
見つけたり、溺れたビアディーを救助したりと空や海で大活躍
しています。

そして彼の冒険と活躍のお話は、その後、世界中のビアディーに
読み継がれる童話 「うらしまダンボ」 となりました。

事件もない、とっても天気が良いこんな日は、ダンくんも
のんびりと空を飛んでいます。

「やっぱり、竜宮城っていうお店もちょっと寄って来るんだったな〜」
と呟きながら・・・
                                   おわり                           



作者 佐藤清志

あとがき

登場ビアはBDN会員番号176の佐藤ダン君でした。
本物のダンくんはまだ空を飛べません。
でもパパさんと一緒にアジリティの練習をしています。
そして小さな運動会のハイジャンプで1等賞をとったそうです。
もっともっと高く飛べるよう、これからも練習に励むダンくんを
応援してくださいね。
もしかすると・・・いつの日か本当にパトロール隊長就任を
お願いすることになるかも・・・。→
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