むく犬の大冒険(連載ビアディー小説)


★第一章(千葉・青柳邸)★
「あ〜ねむいわ〜」

デイジーはゴトゴト、ゴトゴトという音に目を覚まして、
寝室から廊下の方に歩いていった。ケージに入って
寝ているアリエルが、起き出して何かやっているに
違いないんだわ、まったく毎朝毎朝早起き鳥をやっ
てくれちゃって。何時だと思ってるのかしら、まだ4
時じゃないの、あたしはジュリア&ソフィアコンビ
(※)
じゃないのよ。今日はちょっととっちめてやらなきゃ

(※)浅野家ご愛犬。早起きで有名。

デイジーはつぶやきながら、パパの書斎にあるケー
ジをのぞきこんだ。

「アリエル、ちょっとあんたねぇ・・・あらっ、あんた一晩
でずいぶん大きくなったわね、ケージがいっぱいじゃ
ないの。いくら育ち盛りだからって、あと1週間で1歳
になるんだから、そんなに・・」

デイジーは眠い目を前足でこすりながら、もう一度よ
〜く中を見ると、

「え、色も違うじゃない。あんた白黒のはずでしょ。そ
んな薄い色になって、ふわふわで・・・あんた、アリエ
ルじゃないわね・・・」

「ママ〜(泣)、ぼくだよ〜」

中のむく犬は、ケージの入り口に顔を押しつけて鳴き
声をあげた。灰色でブルーの眼のその子は、

「ぼくだよ、ロイだよ。青太だよ〜」
「ええっ?」

デイジーは久しぶりに見るロイの姿に驚いた。

「なんであんたがここにいるのよ?中川さんの所はどう
したの?アリエルは一体どこなのよ」
「ボク、アリエルお姉ちゃんに呼ばれたの」
「呼ばれたって?」
「すぐに家まで来なさいって、お姉ちゃん旅に出るから
って」
「旅?」
「うん、何かを探すんだって、何だかは早口でよくわか
らなかったけど」
「どうやって呼んだのよ」
「え?ビアディー通信だよ」
「何よそれ。101匹わんちゃんみたいに遠吠えするの?」
「ママ、何言ってるの?。パソコンだよ」
「パソコン?」
「そうだよ。あんちょにお兄ちゃんが開発したビアディー
専用通信網だよ。『波乗りチョニー』っていうの」
「そんなの知らないわよ」
「ママは人間の『BDN』しか知らないんでしょう。ボクなん
か家のみんな寝ちゃってから、毎晩やってるんだよ」

デイジーは自分が時代に取り残されていたことを知って
愕然とした。

「・・・それで?」
「お姉ちゃんから、あたしの代わりにここで留守番してな
さいっていわれたんだ。それで、アルバートお兄ちゃんに
ご相談したら、気をつけて行っといで、って言ってくれたの。
だから、真夜中に川沿いの道を走ってここまで来たんだ
よ。」
「・・で、アリエルは旅に出て、あんたがここに入っている
ってわけね」
「うん、でもママにはないしょ、っていう約束だったんだけ
ど、やっぱりお姉ちゃんのことが心配で・・・」
「当然よ・・・」

デイジーは低くうなって、寝室にかけこむと、ミッキーマウ
スの目覚まし時計のアラームを右足でOFFにした。

「これでパパやママはぜっっったい起きないわ!さぁ、ロ
イ、パソコンを打つのよ」
「えっ、なんで?」
「アリエルはきっと仲間の所にたずねていくに違いないわ。
アリエルが来たら知らせて、ってみんなに頼むのよ。あたし
たちはそれをもとに、アリエルを追いかけて連れ戻すの。
あんたも一緒に来るのよ」
「えっ、ボク、アルお兄ちゃんの所に帰らなきゃ・・」
「だめよ。パソコンが使えるのはあんただけなんだから。
さっさとみんなにメールを出しなさい。パスワードは何?
パスワードは!」
「パスワードは、ええっと」

ロブ・ロイは豊かな被毛のあいだから前足で器用にメモ
用紙を取り出してこう言った。

「パスワードは、むく犬!」

母子のビアディーは、網戸の隙間から払暁の街に駆けだ
していった。アリエルはどこにいるのだろう。例えどこにい
ても追いかけてゆく。全国のビアディーの仲間たちがき
っと助けてくれるはず、そのことをひたすら信じて・・


★第二章(大阪・小林邸)★
ウォルト

ウォルトが携帯を勝手に使っています。

「エッ、アリエル?今どこ?
あっそう、伊丹空港なんだ。やったね。
8月25日夜のお誕生会でこっそり相談しておいたとおりだ
ね。
じゃ、今から迎えに行くからね。
と言っても、実は今日は夕方までムーミンママにつきあわ
なくっちゃならないんだ。ぼくは多分夜しか合流できない
けれど。
でも、心配無用だよ。
関西のみんなに知らせておいたから、それにちょっと遠く
のビアディもお迎えスタンバイしてくれているはずだよ。
けっこう大勢なんだ。
名前?
それは空港でのお楽しみだよ。
じゃ、待っててね。
ピンクのリボンつけてるね。」

話しを終えて、ウォルトはにんまりしました。


★第三章(千葉・青柳邸)★
母子のビアディーは、いつもの散歩コース、公園、近所の
お友達の家を一時間ほど探し回ったが、アリエルは見つ
からなかった。

「今回の家出はいつもの脱走とは訳が違うみたいね。」

「ロイ、一度家に戻ってパソコンに連絡が来てるか見て
みよう。」

アリエルの足取りがまったく予想のつかない母子のビア
ディーは、いったんお家に戻って、連絡を待っていた。

「ピピン、メールが届きました!」

「ロイ、メールが来たみたいよ。どうやって見るの?」

「ママ、ここを押すんだよ。」

そのメールは、専用通信網『波乗りチョニー』からのあん
ちょに兄ちゃんのメールだった。

画面に注目

デイジーちゃん、ロイ君大変な事態ですね。
あんちょにの捜し物で検索してみてね。大体の居場所
はわかるよ。

2000年から役所に犬を登録すると、鑑札に加えマイク
ロチップを首に埋め込むのが義務づけられていた。
このチップと、先日打ち上げが成功したGPSを使い地図
上に大まかな位置が表示されるシステムです。

アドレスはhttp://dogrun.cool.ne.jp/gps
ここでアリエルのシリアル番号をいれ、縮尺はまだ市川
周辺だと思うんで、CHIBA-X10-Y25といれてね。赤で
点滅してるとこにいるはずです。
でもこのシステム、衛星がまだ軌道に上手く乗ってない
ので、かなりのずれがあるんで注意してください。

ロイは、けむくじゃらの手のなかから器用に4本の指をつ
かい、必死にキーボードをたたいた。

「ママ!見つからないよ、もっと遠くに行ってるのかな?」

「じゃ縮尺を全国にしてみて」

「あぁ、見つかった。関西だよ、伊丹空港あたりだよきっと」


★第四章(東京・羽田空港)★
あんちょに兄ちゃんから、伊丹空港にいるらしいという情
報をゲットしたふたりは更に詳しい情報を得るべく走る。

デイジーとロイは夜明けの街を走り続け、埼玉のアリーの
元にゆく。まだ眠ってるアリーを起こす。

「どうしたの?ママ〜。。。
ぼく、まだ眠いよ〜。」

するとデイジーは

「私だって眠かったのよ。でも起きたらロイが家にいるんだ
もの。びっくりして目が覚めちゃったわよ。」

ロイは

「僕は平気だよ。早起きしていつもアルバートお兄ちゃんを
起こしてるもの。」

そこでデイジーが

「アリー、アリエルが大阪に行ってしまったの。何か聞いて
ない?」

するとアリーは

「えっ!(ちょっとまずい!と言った顔…)
ぼ、ぼく知らないよ(^_^;)」

デイジー

「何か知ってるわね?
ちゃんと言いなさい。」
(こわい顔のママ)

そこにロイの携帯にアルバートお兄ちゃんから電話が鳴る。
「お兄ちゃんって電話好きなんだよね、もう帰ってこいって
いう電話かなぁ?」

アルバート
「ロイ、今何してるの?何時に帰ってくるの?」

ロイ
「アリエルお姉ちゃんが大阪に行っちゃったの。だから僕、マ
マと探しに行くの。」

アルバート
「詳しく何処に行ったかわかるの?」

ロイ
「ううん、伊丹空港にいるらしいってことしか…。
アリーお兄ちゃんが何か知ってそうなんだけど。」

その間、アリーに何度も何度も問い詰めたデイジーはついに
アリエルがウォルトに会いに行ったことを突き止める。

デイジー
「ええ〜?!ウォルトのところに?」

ロイ
「あ、待ってお兄ちゃん、ウォルト会いに行ったみたいなの。」

アルバート
「えっ!!あ、そうだ。大阪にいる僕の兄弟のアルくんに電話
してみるよ」

アルバートは必死で兄弟のアルくんに電話する。
するとアルくんの携帯から様々なビアディーたちの話し声が聞
えてくる。

アルバート
「どうしたの?みんな何してるの?」

アル
「波乗りチョニーの情報でみんながね、すべてのビアディーが
幸せになれる魔法の箱の鍵を探し始めたんだ。それがね、ど
うやらこっちのほうにあるらしいんだけど…。ウォルトが中心に
なって探してるよ。」

アルバート
「それだ!それを探しに行ったんだ!」
「ありがとう。アリエルを見かけたら僕かロイに必ず電話してね。」

アル
「わかった。知らせるよ。僕もその箱と鍵を探してるんだよ。」

アルバートはロイに電話して、どうやらアリエルがウォルトとと
もに伝説の魔法の箱と鍵を探す冒険に出かけたことを告げる。

「それだ。魔法の箱と鍵を探しにゆくって言ってた!」

デイジー

「困ったわね。でも探しに行かなくっちゃ。
ロイ、アリー、とりあえず私達も大阪に行くわよ。」

アリー
「え、僕も行くの?パパやお姉ちゃん達心配しちゃうよ。。。
だから僕行けないって行ったんだよ。」

デイジーかまわず、
「飛行機で行きましょ。羽田空港にこれから行くわよ!」

眠い目をこすりながら起きて支度をするアリー。

羽田へ向かうモノレールの中、窓からロイとアリーは海を見て
はしゃぎまくっている。
そんなふたりを眺めて「しょうがないわね〜」とちょっと眠そうな
ママのデイジー。

飛行場でデイジーママ、伊丹空港へ向かうanaの飛行機を探す。
そして迷わずスーパーシートの席を3席ゲット。
「空の旅はやっぱり優雅でなくっちゃ(^^)」
とデイジー姫。

待ち時間の間、朝ご飯を食べてると、はぁはぁと走ってくる音が。

ロイ
「あ、お兄ちゃんだ。アルお兄ちゃん〜。」思いっきり嬉しそうな
ロイ。

アルバート
「心配だったから僕も来ちゃった(^^)アルくんにも会いたいしね」

4匹はシートに身をうずめて空から雲海を見たりしている。
アリーとロイは相変わらず大はしゃぎだが、デイジーとアルバー
トは眠り始める。

初めての飛行機、初めてのちょっぴり広い席とで浮かれるアリ
ーとロイ。
窓にもたれて眠る麗しいsleeping beautyのデイジー。。。
そして機内食にがっつくロイ(笑)

こうして、アリエルが関西まで遥々と魔法の箱と鍵を探す冒険に
ウォルトとともに出たことはわかったものの、まだまだアリエルは
何処にいるのかまったくわからない。


★第五章(静岡・賀川邸)★
「しまった!眠ってしまった!」、もうお昼だ!
夜中、ビアディー専用通信網。『波乗りチョニー』を密かにみてい
た、ケンは寝過ごしてしまいました。(おいおい、朝の散歩は寝
ながらだったのか?)

実は、アリエルちゃんの大冒険をパソコンで知ったケンは、もし
かしてアリエルちゃんが、
「えっ?僕に逢いに来てくれている?」と、
単純な思いこみで国道1号線まで夜中抜け出して、アリエルち
ゃんを探し続けました。
しかし、夜が白々と明け始め、後ろ髪を引かれる思いで賀川の
家まで帰りついつい眠ってしまいました。

なんてお馬鹿な僕なんだ!かあちゃんがバカ犬!って時々僕
に叫んでいたけど
「やっぱり、お馬鹿だったんだー!」後悔しても、過ぎ去った時
間は、取り戻せません。

ケン 3歳 男としては、まだ1歳前のレディを一人で冒険に出さ
せるわけにはいかない。
僕が、「アリエルを守る!」まだパソコンでしかみた事のない可
愛いレディに心の奥底で、思いをよせていたケンはそう決心し
ました。

ケンの決心は固い

オフ会で、密かに集めていた情報網を今こそ使うときが来たんだ
!まずは家族が買い物に出かけたすきに、パソコンでビアディー
専用通信網を…。

北のほうに向かったのか?栃木の「ラナたん」、福島の「竜種く
ん」ま・まさか、ももじ君に逢いに岩手まで?
だが、誰に聞いても手がかりはつかめなかった。
ももじ君のところじゃなかったと知り、なぜかほっとするケンでした。

北ではなくて、やっぱり西にむかったのでは?もう静岡は過ぎて
浜松までいっているかも、浜松のモルちゃんに連絡を取ってみた
が、手がかりはなかった。
もっと、色々なオフ会に参加して情報網を広めておくんだった!
そう、後悔しながら器用にキーボードを扱うケンの手が、ふと止
まった。

「なに?レディ・アリエルは、大阪?」 
そうか、大阪にひとっ飛びしてしまったんだ。(か・か・金持ち〜)

「東京ディズニーシー」じゃなくて、
「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」を見に行ったのか?
いや違う、すべてのビアディーが幸せになれる伝説の魔法の箱
と鍵を探し始めに冒険に出かけたんだ!
冒険の真実を知り、愕然となるケンであった。

「僕が必要になったら、いつでも君達の力になるよ!」 っとメッ
セージをビアディー専用通信網。『波乗りチョニー』に入れ、後は
ウォルト君に、レディ・アリエルを頼むしかないと思ったケンは、
あさはかな考えの自分を責めながら、再び昼寝に戻るのでした。
無事、「伝説の魔法の箱と鍵」が見つかることを、祈りながら…。


★第六章(神奈川・大岩邸)★
「フリック!大変よ!アリエルが魔法の箱の鍵を探しに
 そっちへ向かったわよ!」
ママのメールをこっそり見た うみは急いで名古屋に居る兄弟
のフリックへ連絡した。
「あの鍵は僕達が3歳になったら 世界中のビアディに幸せに
 なる魔法をかける為に OJパパから僕が預かっているんだ。
 3歳になるまであと9ヶ月。。。ここにあることがもうわかって 
 しまったなんて。”波乗りチョニ−”おそるべし。。。」
「感心してる場合じゃないわよ!あ〜大変!デイジー、ロイ、ア
リーも 飛行機に乗ったわ!フリック!あなただけじゃ心配だか
ら私達も そっちへ向かうわ!ピース!ハイ!ブレ−ブ!いつ
もの集合よ! 3歳にならないとドリーマーのパワーがでないの
よ!その前に魔法の箱を開けられてしまったら 大変な事にな
るわ!」

うみ、ピース、ハイ、ブレ−ブは台風の大雨の中をレインコートを
着て走った!
 「ちょっと待ってよ。。。(ハアハア)早いよ。。。うみちゃん。。。」
 「ハイ!早く走るのよ!大阪には最強の3人兄弟(ジャス・キャ
 シー・ルーシー)や 遠方旅行も屁とも思わないワン思いのみる
 きいかあちゃんが いるのよ!みるちゃんカーが動き出したらど
 こまでも追ってくるわ!」

その頃、横浜では。。。
くうママ「うみ!うみ!あれ?またいない。あおいちゃん!うみち
ゃん知らない?」
あおい「お姉ちゃんなら兄弟達が迎えにきて脱走しちゃったわよ」
くうママ「またやられた〜!!今度はいつ帰ってくるのかしら。。。」
 
デイジー親子は関西空港の高い使用料(※)の支払いに手間取っ
ていた。
(※)2,650 円


★第七章(広島・三浦邸)★
ぼくは、みうらべあでちゅ。
ママのパソコンをちょっと拝借、
でもあんまり、パソコンは得意じゃないんでちゅ。
しぇんせぇいが悪いんだ・・・きっと
いいなあ、みんな大阪でちゅか・・・
東京からこっちへ行った時、たしか通ったでちゅ。
こっちへ来てからじゅ〜と一人なんだもん、みんなに会いたいでちゅ。
きっと子供だから、新幹線はタダかな〜
だけど、僕一人じゃ行けないでちゅ。お外は怖いだもん!
もう少し大きければ、大脱走出来るでちゅ。
みんなどこ行くのでちゅか?
幸せの箱なら、ファニーお姉ちゃん所の子鉄お兄ちゃんに届けあげ
て欲しいでちゅ。
だってこの間家のママがパパと子鉄お兄ちゃんのお話をしてたんで
ちゅ・・・
僕は、良くわかんなかったんだけど・・・
魔法の箱は、今開けちゃ駄目なのでちゅか?


★第八章(愛媛・伊藤邸)★
三角寺本堂

ここは四国八十八ヶ所の中の69番札所「三角寺」の鐘つき堂。
蝉時雨も勢いを緩めたたそがれ時、ジャムは鐘の下で
相変わらず、超音波遠距離電脳網のテストを繰り返していた。

その昔、お寺の鐘をつく事で色々な情報を伝達していたという
ことをヒントに、既存のネットワークに頼ることなく、超音波で
インターネットに接続しようという試みである。
四国の地図を広げて、八十八ヶ所の所在地を見ると、
何処かのプロバイダーの、アクセスポイントに似ているではないか。

この鐘の下で、特殊な周波数を用い信号を発すると、鐘が共振され
空気を振動させる。その空気の振動は微弱ではあるが、最寄の
お寺の鐘を振動させて、しかもその鐘のかたちの力によって
増幅され、次々と寺から寺へと信号が伝わるはずである。

今夜こそは、このPHSも携帯電話も繋がらないこの山奥から
「波乗りチョニー」をオンラインにしなければ・・・
どうも、胸騒ぎが止まらない このところのジャムだった・・・。


★第九章(岩手・佐藤邸)★
うみちゃんたちが慌てて動き始めたまさにその頃、東北では
各県の代表ビアが集まり、今年の秋祭りをどう行うかの会議が
開かれていた。そこへ、各地の若いビア達が行方不明との一
報が・・・

 「デジさんちのアリエルっていう娘っこが、いなぐなったらしいな」

「その他にも家族が知らない間に消えた子供達がいるみたいだべ」

 「今、映画にもなって流行ってる神隠しかもしんねえな」

 「いや、なんでもパムドラの箱っちゅうもん捜しにいったらしいんだべ」

 「なにぃ、開けるとパムという魔物が飛び出してくるというあの
  恐ろしい箱か?おぉ、くわばら、くわばら」

 「そりゃ、ちがうんすべ、ビアディーみ〜んなが幸せになれる伝説の
  魔法の箱らしいんぞ」

 「ほぉ〜、偉い子達じゃのぉ〜」

 「なんか、てづだってやらねばのぉ。どうしたらいいんだべ?」

 「やっぱり東北は食料だべ!」

 「んだ、それだ、ちょうどおれのうぢでサンマが獲れてるがら
  送ってやるべ」

 「米も野菜もいっぱい送ってやるべぇ」

 「んでも、どこへ送ればいいんだべ?」

 「それは確か「ノリノリちょんちょにー」とかいう通信網使えば
  わかるらしいんじゃ。便利じゃのぉ」

こうして一件落着?した会議は酒盛りへと流れていった・・・

さてデイジー親子は無事空港を出ることができたんだろうか?


★第十章(神奈川・植松邸)★
リビングで、じぇ〜パパは居眠り、じぇ〜ママは2階。
ジェームズは一人、PCに向かっていた。

「アリエルちゃん、魔法の箱の鍵を探しの冒険?!
台風が来ているのに、みんな大丈夫かな…。
今日、もう波が高かったな〜。みんな無事だといいな。
・・・・・・。
ん?そういえば、ぼくも、あと11日で3歳だ。」

今日、お風呂に入ったジェームズ。
雨が降っているので、パパママに、がっちりガードされて、
庭にもなかなか出れない状態。
モニターにうつる写真でしか知らない、異母弟妹の無事を
祈るのみであった。


★第十一章(長野・宇治邸)★
暇で、ネットサ−フィンしていたら・・
通信網が入ってるぢゃない!!
何々??アリエルがいなくなった??
あら・・とりあえず伊丹空港ね・・
ここからは、松本空港からとりあえず関西空港まで行く・・
と。松本空港は駐車代無料だから安心ね。
さっそくママに連絡したら
らぶふぉ〜でみなんの所廻ってくれるって言っていたのに
いつまで待ってもちっとも来ないぢゃないの!!
はっ・・もしかして、徹夜出来ないママは寝てるのでは??
やっぱりだ!!
ママったら、この前スズメ蜂料理したの食べて
元気モリモリのはずなのに
もうスタミナ切れしちゃったみたい。
これはダメだ・・・他の手を考えなくては。
とにかくママを起こして・・
そうだ!! 自衛隊の特攻機みたいなのが訓練のため
低空飛行で飛んでいる。あれに飛び乗ろうか。
あれだったら、ママの所まで何秒かで着くはずね。
もし誰かケガしてたらいけないから
ナメクジ酒持って、包帯持って・・あっ、大事な鹿の角も持
ってさぁ行くぞぉ〜あれっ?!・・何だかあたし眠くなって来ち
ゃった!!
ずっとずっとママを待って起きていたから
今頃眠くなってきちゃった。
いつもいつも肝心な時に眠くなっちゃうのよね(^^;;
お魚は大量にありそうだから、ケガした時使うナメクジ酒と
山で採れたキノコを使った、キノコの炊き込みご飯を送るね。
それと、限定本数しか生産してない赤蕎麦焼酎も。
自衛隊機が来たら積み込んで届けるようにするね。
みんな頑張って〜〜〜!!
あ〜もうダメ・・眠いよぉ〜。


★第十二章(大阪・伊丹空港&関西空港)★
「ノリノリちょんちょにー」は威力を発揮していた。
全国のビアディーがここに向けて発信するので
いろんな状況が見えてきているのだ。

まず、スーパーシートでの旅を終えたデイジー、
アルバート、ロイ、アリーたち4頭は、「ノリノリちょんちょにー」
に居所を知らせた。

> デイジー親子は関西空港の高い使用料の支払いに手間取
>っていた。

そうなのだった。どこかで手違いが起きたらしく、
伊丹空港ではなく、なんと関西空港に着いたのであった。
空港使用料は自販機でプリペイドカードを買い、それを改札機に
通すという方法だが、自販機が問題だった。肉球の間の毛が
伸びていて邪魔をし、ボタンを押そうとすると指が
すべってしまうのだ。
「買えないよう。」

「この毛はちゃんとカットしておかなくちゃダメよ。」と
デイジーは注意を与えながら代わりにボタンを押して
やり、支払いは済ませることができた。
「やれやれ・・・。」

気がつくと和歌山の小松ファニー、ジョニー、シーザー、
ペッパー、それに子鉄までがお迎えに来てくれている!
「私たち、近いから来たわ。
みなさん、はじめまして。
みんなに会えて嬉しいわぁ。
(伝説の魔法の箱の)鍵は名古屋のフリックのところに
あるらしいのよ。それに、フリックが3歳にならないと魔法は
かけられないらしい。それまでに9ヶ月あるんだって。」
と、ファニーが説明。

「じゃ、魔法の箱はどこにあるのかはわかってないけれど、
もし箱が見つかっても、すぐには開けられない。
つまり、時間はあるってことね。」と、デージー。
「アリエルたちが大阪を探す間に、みなさんと私たちは和歌山を
探すことにしましょう。それから大阪で合流したらいいんじゃない?
ね、そうしたら?」と、ファニー。
(この続きはファニーが報告してくれます?)

「ノリノリちょんちょにー」によると、集合場所は大阪城の梅園、
と決定。そこで東北のパムちゃんたちから届いたサンマで
バーベキューをしてこれからの旅にそなえようというのだ。
お野菜や果物も届くことになっている。北海道からも、九州からも
何か送ったという連絡が入っているらしい。

じぇ〜くんからも応援メッセージが届いているらしいし・・・。

一方、ウォルトはやっと都合がつき、スタンバイしてくれていた
みるきい、スィート&ジュイエ、クロス&キャンドル、空、アル(林)、
ジェイ、トト、アクセル、サンデー、ララ、ダンディーのみんなに加わ
ってアリエルを迎えに伊丹空港に来ていた。

「アリエルちゃん、可愛いねぇ。写真のとおりだ。こっち向いて!」
アリエルは大歓迎を受け、ニコニコと嬉しそう。

「アリエル、鍵のありかはわかったけれど、魔法の箱は
じっくりと探そうということになったよ。でも手がかりは全然
ないんだ。どんな形、色の箱なのかなぁ。」
「デイジーの一行が和歌山県を探してくれているから、その間に
僕たちは大阪を探すんだ。見つからなかったら、次は兵庫県とい
うふうにメンバーの都道府県をまわってみんなの協力をおねがい
しよう。」

「ほほほっ、次はなんて言わないで。
跳んで来ちゃったわよ。一緒に行くわ。」
と、ルーシー、キャシーにジャスパーそれにCoco、もも、ティナ(岡
本)、ショパン、シュガーたち兵庫勢も。

このとき、またひとつのビアグループが走って近寄りました。
今飛行機で着いたばかり。
リーダーのうみを中心とする神奈川からの心強い応援隊です。
ピース、ハイ、ブレ−ブをひきつれています。

あっ、ジャム、ディンプル&ラビングも来ています。
ハラハラしているより、行動を共に、だそうです。
デューク、カツの三重勢も、アインシュタイン、フレデリック
も奈良と京都から駈けつけています。

「あ〜、いたいた!」
と、姿を見せたのはパムとももじじゃあ〜りませんか!
「じぇ〜も協力する!」と、ジェームス。
なんとパパ,ママのガードを魔法の足で飛び越えて
やって来たのだ。シャンプーしたてでふわふわ。
「ちょにや!じっとしとれんやんか。」
と、もう大阪弁になっているアンソニーまで。
つぎつぎと参加してくる。
この調子じゃ、13章では何頭になることやら・・・。

「大阪はまずどこから探そうか?夕方大阪城梅園に
集合するまで時間はたっぷり。」
大阪のすみずみまで知っているみるきいは、
「けっ、そんなんカンタンやわ。まかしとき。」
と、もうみんなを引き連れて歩き出していた。
アリエルと応援ビアディたちは急ぎ足でついていく。
一体どこへ・・・?

>ナメクジ酒と山で採れたキノコを使った、キノコの炊き込みご
>飯を送るね。それと、限定本数しか生産してない赤蕎麦焼酎も。

と、シェル(セブ?)から連絡が「ノリノリちょんちょにー」に入った。
包帯と大事な鹿の角も届くらしい。それを知ったみんなは、
「きっとシェルもセブも飛び出して来ちゃうよ。」
と、自信ありげだ。


★第十三章(和歌山・小松邸)★
波乗りジョニー

波乗りジョニーは、既に、次の電文を傍受していたのです。
>幸せの箱なら、ファニーお姉ちゃん所の子鉄お兄ちゃんに届けあ
>げて欲しいでちゅ。
>だってこの間家のママがパパと子鉄お兄ちゃんのお話をしてたん
>でちゅ・・・
>僕は、良くわかんなかったんだけど・・・
みうらべあちゃん、よろしく。
”デイジー親子が関西空港の高い使用料の支払いに手間取っている”
という情報も波乗りジョニ―はつかんでいた。
「今からならまだ関空に駆けつければ間に合うぞ。パパ車で連れてっ
て。」
車が苦手なペッパーを無理やり乗せて、外環(国道170号)を突っ走
ったのでした。

和歌山城天守閣

空港で分かれたあと、ペットショップの情報網を使って、和歌山城の天
守閣に魔法の箱が有ると聞いたので、エレベーターで登ってみた。
「このお城は、鉄筋コンクリートでエレベーターまで有るの!」と、デイジ
ーちゃんは、びっくり。
でも、ここに有るというのは、ガセねたであった。

「次は、紀ノ川を上って粉河寺へ行ってみよう。あそこは、紀州の殿さ
まが珍しいものを隠していたと聞いている。」
移動中に、波乗りジョニーは、SONYのCLIEを携帯に繋いで、新情報を
入手していたのでした。

粉河寺に到着した一行は、駐車場から殿さまの屋敷へ駆けつけた。
行李を片っ端から、開けてみたが魔法の箱はなかった。
あっと言うまもなく、子鉄が行李のはじっこに、マーキングした。
「これは、僕が調べたって印だよ。」と子鉄が、話し終わる前に、何者かに
連れ去られ、牢屋に入れられてしまった。
「ごめんなさい。もうしないよ。」と謝って、お布施を渡すと、出してもらえた。
「ここにも、魔法の箱は無かったね。次は、根来寺を調べましょ。」
ペッパーは、以前、根来寺へ行ったときに、何か気になる場所があった
らしい。
根来寺山門

一行は、10分ほどで、根来寺へ到着した。
春にお花見に来たとき、塔の中へ入れてくれなかったのを、ペッパーは怪
しいと踏んだのでした。
(ここは拝観料がいって、ワン、ニャンは入れてくれないのだ。)
5時の拝観時間が過ぎていたので、人影はなかった。
門の扉を、子鉄が器用に開け、皆を中に導いた。
もう中は薄暗くなりかけていたが、そこはワン達、鼻は敏感なので支障は
なかった。
救助犬予備軍のファニーが、先陣をきって突進した。
ペッパーも短足ながら駆け込んだ。
シーザーは、怖かったのか、「アウ、アウ」と言って、ひっくり返った。
みんなで、くまなく嗅ぎまわったが、魔法の箱は、ここにも無かった。

ずいぶん遅くなり、お腹もすいてきたので、川上にあるファニー宅へ戻り、
今日は休むことにした。
「近くの高野山にもあるかも知れないが、情報が入ってこない。」
波乗りジョニーは、寝る前に、またパソコンに向かっていた。
「まだ、起きているの。」とママの声が聞こえたので、寝ることにしよう。
「お休みなさい。」と合唱。

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★第十四章(大阪・伊丹空港)★
伊丹空港の広いロビーを出ると、バス乗り場がありました。

「みるお姉ちゃん、どこいくの?」

そっちへずんずん進んでゆくみるきぃにウォルトが尋ねます。

「決まっとるやろ、大阪で魔法の箱なんちゅうものがあんのはな・・」

「ああ、ねや川のえべっさん(住吉神社)やろ」

スィート&ジュイエが声をそろえて言います。

「アホ、日本の神さんが魔法なんぞ使うかいな。魔法やで・・・」

「ああ、天満(てんま)に本社があるあの会社やな」

京都のフレデリックがすかさずボケます。

「え、それどこ?」

象印マホービン
http://www.zojirushi.co.jp/gaiyo/gaiyo_gaiyo.html

ここで関西ビアディー一同全員がズッ、とコケましたが、
吉本新喜劇を見たことがないアリエルと神奈川県勢は、
ついていけずに呆然と立ちつくしていました。

気を取り直したみるきぃは、

「魔法ゆうたらこれや、これ」

と一台のバスに乗り込みました。

「おーーーー」

とみんなが声をあげます。そこには、
【大阪空港→ユニバーサル・スタジオ・ジャパンTM】
と書いてあったからです。
http://www.usj.co.jp/top.html

「ユニバーサル・スタジオというと、ジュラシック・パ
ーク・ライドでずぶ濡れになって、バックドラフトの
火で乾かす、っていうあれかいな?」
「長毛種にはつら〜い試練やね」
「スヌーピーもおるらしいで」
「スヌーピーゆうたら、ビーグルやろ」
「インドの人がいたら驚いてまうやろな」
「え、なんで?」
「インド人もビックルや」(意味不明)

ジャスパー&キャシーが果てしない夫婦漫才を
始めてしまったので、みる姐さんは、放っておい
て、みんなに向かってまじめな顔で言いました。

「アニマル・アクターズ・ステージ言うのんがあるんや
そこには、芸達者なアメリカ生まれのビアディーがお
る、ちゅう話や。その子に聞けば、魔法の箱たらいう
もんのありかもわかる思うねん」
http://www.usj.co.jp/studioguide/attraction/animal_actors.html

「けどみる姐はん、一つ聞いてよろしいか?」

フレデリックがすかさずつっこみます。

「何や」
「アメリカ生まれ、っちゅうことは、外人はんですなぁ」
「そうや、言うたらわたしらもみんな外人みたいな
もんやけど」
「外人はんは、日本語、わかりますやろか」
「そら、わからんやろ」
「ほしたら、どうやって箱のありかを聞きますのん?」
「それは・・・」

ぐっとつまったみる姐さんは、まださっきのコケで
硬直したままのアリエルを見つけると、こう言いました。
「あんたのママは、英語の先生やったな?」

主人公のはずなのに、この小説でまだ一言も発言
していなかったアリエルは、やや高めの声で言いま
した。

「ええ」(こんだけか〜い!)

「それなら英語わかるな!ほな出発〜」

(そんな乱暴な・・・)と思ったアリエルが口を開く間も
なく、ビアディー軍団は大阪空港交通バスに乗り込
んで一路、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンへと出
発してゆきました。


★第十五章(大阪・関西空港)★
関西に入ってアリエルと魔法の箱を必死に捜すデイジー
一行。でも・・・彼女らも気づいていなかったことが二つあ
った・・・

一つはアリエルが魔法の箱と鍵を捜しながらも、同時に
ショーチャレンジを忘れていなかったということ。
ドッグショー会場を捜した方が早かったかもしれない・・・

もう一つは関西空港に着いてすぐ、彼女らに二人のムク犬の
尾行がついたこと。
この二人、一方は大柄、もう一方は小柄という凸凹コンビだ
った。その上、モコモコの体にコートを着てハンチングにサン
グラスと、尾行者というにはあまりにお粗末な二人だった。
それでもどうにか務まったのは「ただ前進あるのみ」という
デイジ一行の行動方針が幸いしたのだった。

しかし、この日ひょんなことからバレてしまう。
なんと子鉄がマーキングした行李の中に小柄なムク犬の方が
隠れていたため、匂いが移り、それをロイたちに感づかれて
しまったのである。
見つかった凸凹コンビは言った。
 「わしらも、ビアディーです。デイジー一行を影ながら
  お守りするよう長老たちから指令があったとです。」

デイジー    「まあ、ありがとう!」
ロイ       「ホントにビアディーかな?怪しいよ!」
デイジー    「なんてこと言うの!失礼よ!」
アリー      「僕も違うような気がする・・・」
デイジー    「う〜ん、二人が言うならわかったわ。確かめてみる」
デイジー    「おふたりさん、信用してないわけじゃないんだけど、
          一応、ビアディーということを確かめるため、これから
          私が言うことにすぐに返答してね」
凸凹コンビ   「へぇ、わかりやした」
デイジー    「じゃあ、いくわよ !」

デイジー    「やだねったら♪」

凸凹コンビ   「やだね♪」

デイジー    「ご〜うかく〜!」

崩れ落ちるロイとアリー
ロイ       「マ、マ、ママ、そ、それでいいの」
デイジー     「えっ、だめ?、そ、そうよね、これは小手調べよ、
          当たり前じゃない、いい、本番いくわよ!」」
アリー      「ママ、ま、まさか、追っかけ音次郎じゃないでしょうね」
デイジー     「えっ・・・・」

そんなことをしなくても、パンツを脱がせた二人には尻尾がなかった。
オールドとポンのコンビだった。
これで魔法の箱と鍵を捜しているのはビアディーばかりじゃないことが
わかった。急がなくては・・・


第十六章(大阪・ユニバーサルスタジオジャパン)
「おお〜、でっかい地球が回っとるわ〜」

すっかり関西ノリになっているあんちょにが叫びま
した。「UNIVERSAL STUDIOS」の文字がひと
きわ輝くモニュメントの横を走り抜け、ビアディーた
ちはわれ先にとパーク内へなだれこんでゆきます。

「アニマル・アクターズ・ステージは右手のウエスタ
ン・エリアで・・あ〜れ〜」
地元代表でパークのガイドブックをみんなに配ろう
としていたウォルトは、たちまち無慮数十頭のビア
ディーの流れに巻き込まれてどこかへ運ばれてい
ってしまいました。

「あんたらなぁ、何しに来た思うとんねん」
と言ってるそばからみる姐さんも、
「そうや」と言ってジュラシック・パーク・ライドのパ
ス(UNIVERSAL EXPRESS)をもらうために駆け去
って行きます。関西軍団のノリについていけず、
やっぱり取り残されたアリエルと神奈川勢・・・。

「・・・・・・すごい」
「風みたいだったね」
「ねぇ私たちだけでも、アニマル・アクターズ・ステージ
に行こうか」
「そうだねぇ」
「でも、まぁ一回りしてからでも遅くはないね」
「9ヶ月もあるしね」
「でも、何で3歳まで魔法の箱を開けられないの?」
「OJパパが、『大人になってからだ』って言ってたよ」
「じゃあ、箱のありかはパパが知ってるの?」
「ううん、『お前たちドリーム兄妹や、仲間たちが一
緒になって探す時が必ずやってくる』って」
「ドリーマーパワーが出るンだよ」
「ふ〜ん」

アリエルは瞳をぱちぱちさせながら、秋晴れの空を見
上げて、こう言いました。

「でも、きっと神様は、『今、みんなで探しなさい』って
言っているんだと思うわ。さ、みんな、行くわよ」

そのころ、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの各アト
ラクションでは、あちこちでビアディーがむく毛をなび
かせておりました。

アクセル君ご一家がジョーズに!

『ジョーズ』の船に乗ったクロス&キャンドルは、ジョ
ーズがかっぱと大きな口を開いた途端、大声で吠え
てたちまち撃退して、他の乗客から盛んな拍手をあ
びました。『T2』の3D映画館でカニみたいな金属ロ
ボットの腕がにゅっと飛び出してきたのを見たアクセ
ルは「何すんね〜ん」とスクリーンに飛び込んでいっ
て、たちまちロボットを退治してしまい、シュワちゃん
に親指を立てて「Good Job」、と誉められてしまいま
した。『バック トゥ ザ フューチャー・ザ・ライド』の
デロリアンに乗ったジャム&ディン&ラビの四国勢
は、おみやげ売り場に売っているアインシュタイン
(ドクの飼い犬)のぬいぐるみを見つけて、
「これはビアディーやろ」
「いやオールドや」
「茶色いやん」
「でもしっぽあらへん」
「どっちや〜」
と果てしない議論を展開中です。『E.T.』に乗った
パムとももじ姉弟は、E.T.から「パム〜ももじ〜」
と名前を呼ばれてご満悦です。『ウォーター・ワー
ルド』で水上飛行機を操縦しているのは、もちろん
メカに強いあんちょにで、着水時に一回宙返りをし
て見せて大観衆の度肝を抜いております。そして、
みる姐さんは、もちろん多くのビアを引き連れ、『ジ
ュラシック・パーク・ザ・ライド』のライド一艘を貸り
切って、あの最後の急坂を、
「うりゃあああああああぁぁぁぁぁぁ」
と叫びながら滑り落ちていきます。
「ぶわっっしゃあああああん」
半端でない水煙があがり、ビアディー一同全員ず
ぶ濡れ、あたりにはあの「濡れた犬の匂い」(ワカ
ルネ!)が一面にたちこめます。
「よっしゃ、バックドラフト!や」
「乾燥乾燥!」
「ファイアー!」
‥‥みるきぃ軍団はその後、二つのアトラクション
の間を三十六回往復しましたとさ(何しとんねん)。

みる姐さん

ウェスタン・エリアにやってきたアリエルたちは、
いきなり
「パン」「パン」
という音に驚いて逃げ散りました。『ワイルド・ワイ
ルド・ウエスト・スタントショー』のステージです。
爆発音に弱いビアディーへの挑戦と見たドリーマ
ーたちは、たちまち結集してひげの悪者を退治し、
ついでに善玉のガンマンのズボンをずり下ろして、
勝利の雄叫びを上げました。

アリエルはひとり、アニマル・アクターズ・ステージ
にたどり着きました。
ショーの合間なのか、お客は一人もおらず、ステ
ージもがらんとしています。でも、中央のドアの向
こうに、白と黒の毛が動いているのが見えます。
アリエルは、思わず声をかけました

"Excuse me, sir....."
"Ariel! It's you! I've been waiting for you for a long time!"

ステージのドアが開いて、風格のある雄のビアデ
ィーが颯爽と姿を現しました。

Amazing Hobo.

"How do you know my name?"
"I've known you even before you were born."
"Who are you?"
"You don't have any idea? I'm a very special friend of your mom and your
godfather."
"A special friend of mom and my godfather?"
"Yes.."

そのビアディーはいたずらっぽく片目をつぶって
見せました。

"Well, I've heard that there's a very special male beardie in US who'd
almost become my mom's husband. But because of JKC, he couldn't.
So, instead, he became the godfather to me and my littermates.
His name should be..."

彼はアリエルを優しく抱きしめ鼻づけ(人間なら口づけ)をしました。

"Yup, I'm Hobo. How do you do, Ariel?"
"Hobo? "

アメリカBDLの大御所にして、世界中の尊敬
を集めるホーボーがなぜ日本に?アリエルは
驚きで言葉を失いました。

"How do you do, Uncle Hobo?....But how come you are here?"
"I'm here because I wanted to see you and your mom"
"But you are in Osaka, not Chiba.
And you are working at this Animal Actors' Stage?"
"I have many special talents."

ホーボーはそう言って笑いながら、でも少し顔
をくもらせて言いました。

"But I have to leave now"
"Why?"

会ったばかりなのに、行かなきゃならないって?

"You know, there was a fearful tragedy in NY & Wasington DC.
I have to go there as a rescue dog"
"Oh...."

救助犬として働くために帰国する、というホーボー
の言葉に、アリエルは強い感動を覚えました。

"I and my beardie pals have been looking for a very special magic box.
It is said that if you open it, everybeardie of the world would become
happy; there won't be any beardies abandoned or hurt.."
Some one told us the box is here, somewhere in USJ.
Don't you know anything about it?"
"I'm afraid I don't. But... "

ホーボーは使い慣れた感じの旅行バックをよいし
ょ、とかつぎながら、アリエルにこう言いました。

"Have you looked in your own heart?"

君の心の中を探してみたかい、‥なんて外人さん
はすぐそういうことを言うのね、と思いつつも、アリ
エルはホーボーが関空行きのバスに乗り込むの
を見送りました。

「うりゃああああぁぁぁぁ、三十七回目じゃぁぁ」
「いーかげんにしなさい」

ちょっぴりだけ関西慣れしたアリエルがぽん、と
ツッコミをいれると、ようやく我にかえったビアデ
ィー軍団は、

「次は大阪城じゃ〜」

と叫びながら、やっぱり我先にと駆けだしてゆき
ました。やれやれ、と思いながらアリエルは、で
も本当に魔法の箱はどこにあるんだろう、と小首
をかしげて考えながら、みんなのあとを追いかけ
ていきました。

godfather:(名)名付け親


第十七章(大阪・ドーターしゃん出現篇)
凸凹コンビを問い詰める、ロイとアリー
ロイ  「長老からの指令ってなに?」
凸   「極秘命令ですから・・・・」
凹   「『ゴクヒ』ってわかる?後藤久美子(ふる〜)の親戚じゃあないよ。」
アリー 「バカな事を言ってるとママに『追っかけ音次郎』を歌わせますよ!
     ヌカミソなんか、直ぐに腐っちゃうんだから。
     あなた方の脳ミソもどうなる事やら・・・・・」
デイジー ??????
ロイとアリーが耳栓をしたのを見て、慌てた凸凹コンビが真っ青な顔をして
凸   「言います。言います。お宅のアリエルが箱を探してると情報が入ったんで
     横取りしようと狙っていたんです。」
アリー 「あなた方は、魔法の箱の事は、どこまで知っているんですか?」
凹   「『魔法の箱』?、なんですそれ?」
凸   「アリエルが探している箱だから、アリエルの箱・アリエールの箱でしょう。
     長老は、鼻が悪いんです。
     鼻紙は『アリエール』を御指定なんです。
     だから、鼻紙代もバカにならなくて・・・・・・・」
デイジー「ハァー・・・」
ロイ  「カァー・・・」
アリー 「・・・・・・」
デイジー一行、もう口をきく気も無くなり、凸凹コンビを置いて歩き去りました。

此方は、大阪城梅園、アリエル・大阪、兵庫、近畿勢・神奈川勢・パム、ももじ・
あんちょにぃ・みんなで秋刀魚の焼き肉?(魚)大パーティー。
やっと目がさめたセブがまだ寝ていたシェルを乗せ、アルト・エルガー・ムックを乗
せて、ナメクジ酒・赤蕎麦焼酎・キノコの炊き込みご飯・包帯・鹿の角と共に到着。
『らぶふぉう』の直ぐ後から『すってぷ・わごん』も到着
「おかあさーん私も来たよ!」、『すってぷ・わごん』の中からモルが手を振ってい
ます、ケンが父さんの車を失敬してブレンダ・デニース・MUKU・パフィー・コソ
フ・ティナ(神谷)・アンリ・マリン・COCO・もも(坪井)ビアディー王国静岡
より、12頭。
良くまあ、こんなに乗ったもの!

「まいど!黒ビアヤマトの宅急便です。
ラナたんおとうから、差し入れの「太平海『四十日もろみ』」10本と
ダンパパから、差し入れの「桜花吟醸」10本  お届けでーす。」
大阪のスミズミを回って疲れ切ったみるきぃが、
「けっ、こら呑まな!あんたらも、ご相伴にあずかりぃ。
コソフ、こっちゃに来て呑みぃや。」
いつのまにか、『大阪城、酒地サンマ林(はやしとは読まないで。)』の図。

「ねぇさん、!みるきぃねえさん!天守閣に石川五右衛門がいまっせ。」
ベロベロ一歩手前のフレデリックが、ライトアップされた天守閣を指(?)さして
言います。
「あほぅ、今は現代やで石川五右衛門がおるか!ボケェッ」
「ねえさん、今も、現代も同しとちゃいますのん?」
スィート&ジュイエのつっこみに、言葉に詰まったみるきぃ
「うち、寝むうなった。」すかさず、タヌキ寝入り。
「何かいってますよ。ボク行って来ますわ!」下戸のALが天守閣に登っていくと
西成の三角公園あたりの似合いそうな、キッチャナーイ娘が
「みなしゃん何処にいるんでしゅかネー、お父しゃまはケータイを持っていなかった
し、パワーブックは重しゅぎて、モバイユできないし、『ノリノリちょんちょにー』
が使えましゅえん。
ヤッパリ、堺のオバシャンの処へ寄って、玉出の公設市場でお買い物をしゅて、大黒
町で焼き肉を食べてきたのが、まじゅかったでしゅかネー。
梅園って何処でしゅかー。」

大阪パフォーマンスドール

「ドーターちゃん?」
「はい!」
「みんなは、コッチだよ。おいで!」
ドーターは、背中に箱を括り着けていました。
「パムお姉しゃま、ドーターでしゅ。箱を持って来ましゅた。」
「えっ!箱?何かしら。」
「『パムドタの箱』だそうでしゅ。」
パム・ももじの顔色が変わりました。
東北の宴会で話題になったと言う『パムドラの箱』かしら?
ということは、捜索中の『魔法の箱』?
千葉にあったんだぁー
ももじが「みなさーん、ドータちゃんがぁ『箱』さ、持ってきて来れたですヨー」
四国・関西・長野・神奈川・その他全員、酔いも吹っ飛んで集まってきました。
「はい、これでしゅ。」表には小学生のような稚拙な文字で『パムドタの箱』と
書いて在ります。
アリエルに主人公らしい発言のチャンスです。
「あとは、フリックの持っているカギだけね。」
「この箱のカギはこれでしゅ。ハイッ」
アリエル三言め。「エーーッ」
「パムお姉しゃま、箱とカギでしゅ。」
「はよ、開けよしぃ。」・「開けまひょ。」・「開けて見してぇな。」・
「はよぅ、開けんかいな。」・・・・・・・・
・・「開けろ」・「開けろ」・「開けろ」・・・・・・

それにしても、何故、『魔法の箱』が『パムドタの箱』なのでしょう?

パムがカギを開けます・・・・
蓋を開けると・・・・
其処から・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
なんと!
真っ黒な魔物が、・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
では無く、黒い『アンコ』が、みっちり入っています。
「あっ、お手紙も有りましゅた。」
「ハァー、」
パムがお手紙を読むと
箱の表と同じ字で、「拝啓、パムパパさま
          アンコは粒アンより、こしアンに限ります。
          御賞味あれ。
                   ドーターのお父しゃま 」

「けっ、わるい酒になってもぅた。 バタッ!」
バタッ!・・・・バタッ!・・・バタッ!・・バタッ!・バタッ!バタッ!バタッ!

ドーターお父しゃまの、余りに状況を考えない『悪ふざけ』にドーターを残して全員
が失神してしまいました。
「お使いも終わりましゅたから、千葉へ帰りましゅ。」


第十八章(和歌山・高野山)
した した した

葉脈を伝ってしただる水音を聞きながら、デイジーたち一行は
南海高野線の極楽橋の駅から、高野山に至るケーブル鉄道の
軌道を、音もなく登って行った。ビアディーたちの足の分厚い肉
球は、レールにぴたりと吸い付いて、微塵のゆるぎもない。小
柄なペッパーとジョニーも、つるつる滑る四肢をふんばりながら、
遅れまいと懸命に登って行く。

ほほき ほほきい

鳥が啼き、鬱蒼とした木々が覆う森の斜面を縫うように敷かれ
たレールの急勾配が急に平らとなって、やがて真言宗総本山
金剛峯寺の霊域が眼前に開けてきた。開山から千二百年にほ
ど近いこの御山は、「山上の平野」というくらい、平坦な土地に
なっている。

こう こう こう

・・・・・・・・
木霊のとよむ声がする。

一行はまず、多くの宿坊のなかで、デジパパの知り合いがお住
持をしている「遍照光院」に立ち寄った。そこで、高野豆腐をは
じめとする精進料理をいただき、舌鼓を打った。子鉄は、あまり
美味しいのでお代わりを六杯もしてしまったが、宿坊の外で、関
西空港から懲りずに後をついてきた凸凹コンビが、長〜い舌を
出してじっとこちらを見ているので、「おいで、いっしよに食べよう」
とさし招くと、二匹とも東京から何も食べずに来たものか、たちま
ちお櫃をカラにしてしまう。

・・・・南無大師遍照金剛 南無大師遍照金剛・・・・

若いお坊さんたちにまじって、「魔法の箱」が見つかるようにと前
足をすり合わせて神妙に勤行をする一同、お住持さまから「奥の
院に行って見なされ」と言われて、早速出かけてゆく。金剛峯寺、
根本大塔を過ぎて、折りしも年に一度の結縁灌頂の儀式が行な
われている金堂に至ると、丁度「投花の儀」の最中であった。

皆を代表してデイジーが、目隠しをして金剛界曼陀羅の上に花を
投げると、花は、大日如来ならぬ「犬日如来」の上に落ちた。「こ
れはきっとご加護がある違いない。魔法の箱は近いよ」と喜ぶ一
同。「加護亜依?」とボケを忘れないロイ。

弘法大師の廟所に近い奥の院の前面には有名人のお墓が沢山
並んでいる。「ここにはお骨は埋まってないんだよ」とジョニーが
説明すると一同はなるほど、と感心する。林立する五輪塔や宝篋
印塔やらの脇を抜けながら、皆で手分けをして、奥の院のあちこ
ちを探るけれども、手懸かりはまるでない。

つた つた つた

谷水のたぎる音を耳にしながら、がっかりして、とぼとぼと駅の方
に戻ってきた一同の前に、蘇芳色の直衣に冠をつけた王朝風の
人物がすっと現れた。

「よく参られた。こちらに来られよ」

若くはないが涼やかな声が響いた。デイジーは思わず尋ねた。

「あなたは一体どなたですか」
「われこそは、東都の陰陽師、山田倶藍波である。これなるは式
神のれでいなり」

九字真言

なるほど、頭に赤い×印の飾りをつけたレディーちやんがグランパ
さんの脇にかしこまっている。皆が目をぱちくりさせているのを見て、
グランパさんは一層おごそかな声で、

「皆の探しているものは、この建物の中にある」

と託宣した。その指さした先には、「女人高野」の旧跡「女人堂」が
あった。

不動坂女人堂

刈萱道心の伝説で知られるように、むかし女人禁制の地であった
高野山では、女性は山域に立ち入ることができず、ここに留まり、
あるいは「女人道」といわれる嶮路を通って奥の院詣りをしたと伝
えられている。

いよいよ「魔法の箱」との対面がかなうのだろうか。一同が息をの
みながら、グランパさんに導かれてお堂の中にはいると、ほの暗
い中に灯明が輝き、その前に一匹の老犬がうずくまっていた。その
威厳に満ちた風格に圧倒され、一同は足を前に投げ出して平伏の
形をとった。(但し子鉄は、何を間違ったか、お腹を上にして服従の
ポーズをとった)。

「皆、よくここまで来たね。ほめてあげよう」

凛とした老女の声が細長い堂内に響いた。

おお、この御方こそは、紛れもなく、日本のビアディーの中の最長
老にして、全ビアディーの尊敬を一身に集めている、美濃国の森
瀬ミッキー様に他なるまい。

森瀬ミッキー様(背景は投花の儀)

「お前達が、ビアディーの幸せのために、それぞれの家を離れ、魔
法の箱を探して旅を続けていることは、本当に立派なことだ。」

「でもミッキーおばあ様、魔法の箱は一体どこにあるのですか?一
生懸命探したのに、どこにも見当らないのです。ここに、あるのです
か?」

デイジーが矢継ぎ早に問うと、ミッキー様はにっこりと笑ってこう答
えた。

「魔法の箱なんて物は無いのだよ」

「ええっ」

一同は、驚きのあまり、腰を抜かしてその場に長伸びしてしまった。
それでは、私たちが一丸になって探していたものは何だったんだろう
か。名古屋のフリックが持っているという鍵は?疑問符が次々と飛び
出して来て、お堂の中はクエスチョン・マークだらけになってしまった。

ミッキー様は、暫く黙っておられたが、前にいるファニーと子鉄とを優
しく見つめながら、ふと、こう尋ねた。

「お前たち、ビアディーの幸せとは何だろうね」

「それは・・・」

どぎまぎして口ごもるファニーを尻目に、子鉄が元気良く答えた。

「優しい飼い主さんとお家で仲良く暮らすこと!」

その口調があんまり、けなげだったので、デイジーたちの眼には、じわ
り、と涙が滲んできた。

ミッキー様は拈華微笑して、二人を嘉するように、言葉を継いだ。

「そうだよ。よく気が付いたね。ビアディーの幸せは、飼い主さんと一緒
に幸せになることなのだよ。例え、どんなことがあっても、お前たちは飼
い主さんと信頼し合って生きて行かなくてはいけない。ビアディーが独り
で幸せになることはできないんだよ」

「でも、心ない飼い主のせいで不幸になるビアディーだっているじゃない
ですか?」

アリーが口を挟むと、ミッキー様は諭すやうな口調でこう問いかえした。

「そういう子がなくなるようにするにはどうしたらいい?」
「・・・・・・・」

「わかりました」
デイジーが顔を上げ、毅然として言った。
「祈るのですね」

ミッキー様は我が意を得たり、という顔でうなずいた。

「そう。さすがはデイジーだね。そうだよ。祈るのさ。ビアディーみんなで
祈るのだよ。そうしたら、その祈りはきっと通じる。」

「じゃあ、魔法の箱って、ウソなの?」

ロイが拍子抜けをしたように呟くと、ミッキー様は、きっぱりとこう言った。

「ウソではないよ。それは、きつと今にわかる。皆が旅に出てしまって、
飼い主さんたちは皆心配しているはずだ。さあ、早くお家にお帰り。」

その最後の声が終わるか終わらないうちに、お堂の中は真っ暗になり、
一同が次に目を開けてみると、そこにはミッキー様も、陰陽師グランパ
さんとレディーちゃんの姿も見えなくなっていた。

呆気にとられたデイジーたちはお互いに顔を見合わせ、今のは何だっ
たのだろうと考えるのだった。


第十九章(和歌山そして大阪)

吉田恵(けい)ちゃん

「はい、次はめざまし天気、恵ちゃんお願いしま〜す」
「はい、まず気象衛星ひまわりの画像から。室戸岬のはるか海上を
ゆっくりと北上中の台風11号は、明後日の夕方頃、東海から関東
にもっとも接近・・・・え、ええっ?」
デジタル電送されてくる台風の進路が急に変わり、猛烈なスピードで
動き始めた。台風の目はいつのまにか二つになり、鼻と長い舌も見
えている。「さすが11(わんわん)号だわ」と吉田恵ちゃんが思う間も
なく、台風はまっすぐ和歌浦湾に突進し、平維盛よろしく高野山をめ
がけて急カーブしていった。

「あれ、何だか曇ってきたね」
「風も出てきたよ」
お堂を出たデイジーたち一行がざわめいていると、空はたちまち黒
と白の雲に覆われ、うずをまきはじめた。うずの中心には、むくむく
した雲が集まって、いつの間にかビアディーの顔ができあがってい
る。

「おまえたち、お家に送ってあげよう」

雲の中から、ミッキーおばあ様の声が響いた。

「さあ、こういう時は何ていうんだい?」

あれ、なんか呪文があるのかな?皆は必死に考えたがわからない。
風は次第に強まって、チャイニーズ・クレステッドのシーザーはもう
飛ばされそうになっている。みんながすがるような目でデイジーを
見るので、デイジーは、昔ママから聞いたお話の通りにやってみよ
うと思いついた。

デイジーは、後ろ足のかかとを、3回打ち合わせた。靴を履いてい
ないので、全然音はしなかったけれど、とたんにデイジーに向かっ
て、一筋の光が差してきた。
「みんな、私のまねをして!そして考えるの。 おうちほどいいところ
はない、 おうちほどいいところはないって」

「おうちほどいいところはない」とロイ
「おうちほどいいところはない」とアリー
「おうちほどいいところはない」とファニー
「おうちほどいいところはない」と子鉄
みんながめいめいに思いを一つにすると、光の筋が交錯し、やがて
ものすごい竜巻がデイジーとその仲間たちをたちまち天高く巻き上
げていった。

「飼い主さんによろしくね。うちに帰ったら、おみやげが待っているよ」

とどろく風の音の中に、ミッキーおばあ様の声が朗々とひびいた。

その頃、全員ハイテンション大宴会中の大阪城梅園でもこの変化に
気づいた者があった。電脳ビアディーあんちょには、台風の急速な進
路変更をiモードの気象情報サイトで知った。
台風は高野山からいったん海上に出たあと、淀川河口から遡上して
急速に大阪市に接近しつつある。何だか知らないがこれは危ないぞ、
と思った瞬間、「
ミニモニテレフォンだ、リンリンリン」と着メロが鳴った。
着信表示は「デイジー」だ。

「あんちょに君、みんなそこにいるんでしょう。今からいうことをみんな
に伝えて!かかとを三回打ち合わせて、おうちほどいいところはない、
って考えるの、いい?」
「はぁ?」
「いいから、言うとおりにして。かかとを三回打ち合わ・・・」

ものすごい轟音が聞こえて、携帯は切れた。ただごとではない、とあん
ちょには全員の点呼を始めたが、作者達がよってたかってものすごい
数のビアディーを登場させてしまったため、誰がどこにいるのかつかめ
ない。ドリーマーたちは大阪城ホールのハロープロジェクトコンサートに
乱入してつんくプロデュースの新ユニットを結成してしまうし、大阪・兵庫
勢は「
阪神四年連続最下位や、そおれえ」と道頓堀に飛び込んで泳い
でいる。みる姐さんに至っては「たこ梅」の関東煮(かんとだき)をほお
ばりつつ錫のお銚子で出てくる燗酒をぐびぐびぐびっと呷っている。
あんちょに、アリエル、ウォルトたちの必死の努力で、みんなを大阪城
天守閣の最上階に集め終わった時には、台風はすでに枚方市を通過
していた。

「だからね、後ろ足を三回打ち合わせて・・」
「らからって、ありもはれひれほれ」
「そんな千鳥足じゃ、ちゃんと合わさらないでしょう」
「そんれころいるてもひょうがないろ」
「よどがわのみるのんれはらくらり」(これはアインシュタイン君)
「ぐう ぐう」
「誰?寝てるの。いい?おうちほどいいところはない」
「おうちほどいいところはない」
「おうちほどいいところはない」
「おうしほどいいほろろはらい」
「ふごががふががむがむぐ」
「やっとれんわ〜」
と、ついにアリエルまで大阪弁になって切れた所で、竜巻が八層の天守
閣を取り巻いた。うずまきのあちらこちらに黒や茶色のむく犬の姿が見
えて、高速で回転している。そして天守閣に集まっていたむく犬たちも、
たちまちその中に吸い込まれていった。

ぐるぐる回りながらウォルトは、デイジーの姿を見つけ、
「あ、ママだ〜」
と近寄ろうとしたが、まだ子供なのでたちまち「あ〜れ〜」と言ってうずの
上の方に飛んでいってしまった。デイジーは、全身の毛に風を受けてふ
わふわ飛びかっているビアディーたちのなかから、アリエルを探し出して、
「こおらあ」
と前足で押さえ込んだ。
「ひえ〜かんにんや〜おか〜ん」
なぜかまだ関西弁のアリエルは、竜巻のあいだじゅうデイジーのお説教
をず〜〜〜っと聞かされ続けたのだった。


第二十章(千葉・青柳邸)
台風は、ビアディーの住んでいる地域を巡回するように高速で動き回り、
それぞれの家でビアディーを一頭ずつおろしていった。四国・中国・近
畿・東海・東北を迷走して行ったが、地上への被害は全然なかった。ビ
アディーたちは竜巻から自分の家におりていくたび、
「楽しかったよ〜」
「また会おうね」
「早く全国オフをやらんか〜い」
などと挨拶をしていき、みんな結構この旅を楽しんでいた様子だった。
そうして最後に、台風は千葉県市川市の上空にさしかかると、忽然と
その姿を消し、デイジーとアリエルは、自分の家の前の公園の草むら
にぽん、と足をそろえて着地した。

母子のビアディーは、網戸の隙間から家に入ると、驚いたことに、デジ
パパもデジママもまだ寝ていた。、もちろん、デイジーが、ミッキーマウ
スの目覚まし時計のアラームを消しておいたからだ。こんなにたくさん
の旅をしたのに、家の中は何も変わっていなかった。でも、こんな何の
変哲もない家の中が、デイジーたちにはひどくなつかしく思われた。

仲間たちといろいろな冒険をして楽しかったけれど、私たちの落ち着け
る場所はパパとママのいる所、ここしかない。きっとみんなもそう考えて
いるに違いない。ミッキーおばあ様がおっしゃったように、この旅は、そ
のことに気づくための旅だったのかも知れない・・・デイジーがそう考え
ていた時、いままで消えていたパソコンの画面が突然ONになった。そ
こには、OJパパが季節はずれのサンタさんの格好をして写っている。
パパはにっこりと笑うと、袋の中から、七つの色にきらきら輝くきれいな
箱を取り出してて、デイジーの方にさしだした。画面の表示を見ると、

「よくがんばったね。ごほうびにこの魔法の箱をあ
げよう。合い言葉を言うと、この箱がおまえたちの
所へ届くよ」

←これはホーボーだっつーの

と書いてあった。合い言葉・・・何だろう。あ、そうか。
デイジーはロイが言っていた言葉を思い出した。

「合い言葉は、むく犬!」

画面の中のOJパパが破顔一笑して、途端に画面がハレーションでも起
こしたように輝きだし、眩しさに思わず目を閉じたデイジーとアリエルが
目を開けると、キーボードの上に、画面で見たのと同じ、光り輝く小さな
箱が置かれていた。

デイジーとアリエルは、お互いに前足でその箱をさわって楽しんだあと、
人間にはけっしてわからない、犬専用のお宝置き場に箱を持っていった。
もちろん、中を開けたりはしない、だってそこにはビアディーの幸せがつ
まっているのに違いないから、そして何ヶ月かしたら、名古屋のフリック
がみんなの所を回って、鍵を開けてくれるはずだから。

デイジーが目覚まし時計のアラームをONにすると、途端に、

「グッドモーニング、起きる時間だよ〜、今日もワクワク、楽しい一日が待
ってるよ〜」

という、ミッキーマウスの声が流れ出した。何があったかも知らず眠そう
な様子で起きあがってきたデジパパとデジママを見ながら、またいつも
の通りの一日が始まるなぁ、とデイジーは思った。だけど、今日からの一
日は、たぶん昨日とはちょっと違う一日だと思う。それは、自分にたくさん
の仲間がいて、その仲間たちと心を一つにして何かをなしとげた、という
満足感があるから。そうして、そんなふうに思えることが、もしかしたらビ
アディーの本当の幸せなんじゃないかな・・・

Happiness of Beardie....

デイジーとアリエルは、澄み渡った秋の空のキャンバスにうすく刷いたよ
うなすじ雲を高く高く見上げながら、いつまでもそんなことを考えていた。



作者連名 青柳隆志(第一章・第十四章・第十六章・第十八〜二十章)・小林佳美(第二章・第十二章)・黒井敦(第三章)・中川麻里(第四章)・賀川智春(第五章)・大岩淳子(第六章)・三浦辰恵(第七章)・伊藤雅彦(第八章)・佐藤清志(第九章・第十五章)・植松花織(第十章)・宇治純子(第十一章)・小松重信(第十三章)・内藤辰之進(第十七章)・青柳祐美子(第十六章英語監修)→番外篇へ