Formula One Data

完走率の変遷

ールール改定で低下、マシン熟成で上昇−

(2000.12.10)

2000年の全レース平均完走率は61.9%です。史上最高だった1965年以来、35年ぶりに60%を越えました。1950年からの歴史で、完走率はどのような傾向だったのでしょうか。そして、現在、完走率が上がっている理由は何でしょうか。

完走率の変遷

 

完走率は、F1の51年間で平均すると52.4%と、約半分です。最高は1965年の63.4%、最低は1984年の41.0%です。

完走率はレギュレーションに左右されました。1960年代前半はエンジンが1.5リッターで熟成されましたが、1966年に現代の基盤である3リッターに変わりました。エンジントラブルだけでなく、馬力アップに車体やタイヤがついてこれずに完走率が激減しました。

1980年代前半はターボ化の波が到来し、ターボトラブルが続発しました。初めて全車ターボ搭載されたのが1984年でした。ターボは1989年に禁止されました。以後10年以上経て、非過給エンジンは熟成され、完走率が上がってきています。

史上最高の完走率(63.4%) 1965年

完走率が史上最高の年、1965年を見てみましょう。排気量1.5リッター最後の年、エンジンは230馬力程度で熟成されていました。リタイヤ理由に占める事故の割合が低く、それも前半戦だけで、後半は事故が起きていません。まだウィングがなく、空力の概念はありません。マシンに広告はなく、国別のカラーリングでした。スポーツマンシップが残された古き良き時代でした。ギンサーによりホンダが初優勝した年でもあります。

クラーク(GBR)、ヒル(GBR)、スチュワート(GBR)、ギンサー(USA)

  GP 出走 完走 完走率 リタイヤ理由
1 南アフリカ 20 15 75% ギヤ1、電気系3、他1
2 モナコ 16 10 63% 事故2、エンジン2、ギヤ2、燃料系1、他2
3 ベルギー 19 14 74% 事故1、エンジン2、ギヤ1、燃料系1、他2
4 フランス 17 9 53% 事故2エンジン2、ギヤ1、燃料系2、電気系2、他2
5 イギリス 20 14 70% エンジン3、ギヤ1、他3
6 オランダ 17 13 76% エンジン1、ギヤ1、他3
7 ドイツ 19 8 42% エンジン1、ギヤ3、燃料系1、電気系1、他5
8 イタリア 23 14 61% エンジン6、ギヤ3、燃料系1、他4
9 アメリカ 18 13 72% エンジン1、他4
10 メキシコ 17 8 47% エンジン2、ギヤ1、他6

 

史上最低の完走率(41.0%) 1984年

完走率が史上最悪の年、1984年を見てみましょう。この年は全チームがターボを装備した年です。パワーは750馬力と前年より100馬力も急上昇しました。リタイヤ理由の中でターボが多いのが特徴です。その影響か、エンジントラブルも多発しました。また、電気系の装置が増え、そのトラブルも次第に多くなりました。

マクラーレンTAGポルシェ(完走率66%)が16戦12勝と席巻しました。他チームが速さと信頼性に悩む中、ボッシュのエンジンマネジメントシステムが効を奏しました。対してブラバムBMWはPP9回と速さを記録したものの、低い信頼性(完走率41%)のため2勝に終わりました。他にフェラーリとウィリアムズホンダが1勝したのみでした。

ラウダ(AUT)、プロスト(FRA)、ピケ(BRA)、ロズベルグ(FIN)

  GP 出走 完走 完走率 リタイヤ理由
1 ブラジル 26 8 31% 事故1、エンジン2、ターボ6、ギヤ3、燃料系2、電気系1、他3
2 南アフリカ 26 12 46% 事故1、ターボ4、燃料系2、電気系2、他5
3 ベルギー 26 10 38% 事故2、エンジン4、ターボ2、ギヤ1、燃料系1、電気系3、他4
4 サンマリノ 26 9 35% 事故2、エンジン4、ターボ5、燃料系4、電気系1、他2
5 フランス 26 13 50% 事故3、エンジン3、ターボ4、ギヤ1、他1
6 モナコ 20 8 40% 事故7、エンジン2、電気系1
7 カナダ 26 11 42% 事故1、エンジン2、ターボ4、燃料系2、電気系1、他4
8 デトロイト 26 5 19% 事故8、エンジン5、ギヤ3、他4
9 ダラス 25 8 32% 事故13、エンジン1、ギヤ1、燃料系1、電気系1、他1
10 イギリス 27 12 44% 事故6、エンジン4、ターボ1、ギヤ3、電気系1
11 ドイツ 26 9 35% 事故1、エンジン4、ターボ5、ギヤ2、燃料系1、電気系3
12 オーストリア 25 12 48% 事故1、エンジン9、ギヤ2、燃料系1、他1
13 オランダ 27 13 48% 事故3、エンジン8、燃料系2、電気系1、他1
14 イタリア 25 10 40% 事故2、エンジン9、ギヤ3、燃料系2、電気系1、他1
15 ヨーロッパ 26 11 42% 事故5、エンジン2、ターボ4、ギヤ1、燃料系3、電気系1、他1
16 ポルトガル 27 17 63% エンジン3、ギヤ3、燃料系1、電気系1、他3

リタイヤ理由の変化(1995年→2000年)

 

1995年に排気量が3.5リッターから3リッターになり、現在を迎えています。1995年に51.6%だった完走率は、5年後の2000年に61.9%と10%以上も向上しました。そこで、1995年から2000年まで4大リタイヤ理由の発生率の変化を見てみます。

アクシデント、スピン、エンジン、ギヤボックスが4大理由です。この4つで全体の70%を占めます。合計発生率は1995年の37%から、2000年には30%に低下しました。

マシンの信頼性が上がり、同時にドライバーの運転しやすさも向上していると言えます。

 

上位5チームの完走率変遷(1995年→2000年)

 

1995年以降、上位5チームの完走率の変遷です。前半の3年はウィリアムズとベネトンが高かったのですが、直近の3年ではフェラーリとマクラーレンが高くなっています。それが成績に結びついています。

今や、トップチームは速さだけでなく、高い信頼性を得るために、超高額予算を使っています。

 

グランプリ別の完走率

 

グランプリごとの完走率について、2001年開催順に並べました。オレンジは1950年以降の通算平均で、黄色は直近3年間の平均です。

通算ではフランスが最高。1894年に世界で初めて自動車レースが行われた伝統が生きています。チーム、ドライバーとも万全で臨みます。

直近3年間では、ハンガリーが最高。低速サーキットでマシンへの負荷が大きくありません。モナコはそれ以上に低速ですが、ガードレールに囲まれて事故が多いため、完走率は低くなっています。

テストが多く行われるスペイン(カタルーニャ)、フランス(マニクール)、イギリス(シルバーストーン)は各チームのデータも揃い、完走率が高くなっています。

日本は比較的高い完走率です。終盤戦でマシンの信頼性も上がっているからです。

 

完走率の高かったレース、低かったレース

最高 1961年オランダGP 100% (15台全車ピットインせず300km以上を完走!)
最低 1984年デトロイトGP 19% (26台中5台完走、ターボ時代の暑い市街地)

最近では1997年ブラジルが史上3位の86%完走(21台中18台)。

 

完走台数の多かったレース、少なかったレース

最多 1952年イギリスGP 22台 (31台出走)
最少 1966年モナコGP 4台 (16台出走)

1996年モナコもチェッカーを受けたのは4台だけ(完走扱い7台)。

 

前半戦より後半戦に上がる完走率

 

年16戦以上になった1984年以降、ラウンドごとの完走率を平均してみました。

開幕戦の完走率が異常に低くなっています。前半戦(開幕戦〜第8戦)の平均は49%。これに対し後半戦(第9戦〜最終戦)は53%です。

1年を通してみると、マシンが熟成していくにつれて完走率が高くなっていくことがわかります。

 

ドライバー別完走率ランキング(51戦以上出走)

過去、51戦以上走ったドライバーは98人います。歴代最高の完走率はファンジオの80.4%で、歴代最多チャンピオンでもあります。100戦以上となると、M・シューマッハが最高となっています。強いドライバーとは、完走率が高いことが条件のひとつと言えましょう。

ファンジオ(ARG)、M・シューマッハ(GER)

ドライバー 出走 完走 完走率 最高成績
1 ファンジオ 51 41 80.4% 51,54,55,56,57チャンピオン
2 ギンサー 52 39 75.0% 63選手権2位
3 M・シューマッハ 143 104 72.7% 94,95,00チャンピオン(現役)
4 プロスト 199 143 71.9% 85,86,89,93チャンピオン
5 ハルム 112 78 69.6% 67チャンピオン
6 シェクター 112 77 68.8% 79チャンピオン
7 ブルツ 51 35 68.6% 98選手権8位(現役)
8 フレンツェン 104 71 68.3% 99選手権3位(現役)
9 パニス 90 61 67.8% 95選手権8位(現役)
10 セナ 161 108 67.1% 88,90,91チャンピオン
(以下主要ドライバー)
11 D・ヒル 115 77 67.0% 96チャンピオン
12 クラーク 72 48 66.7% 63,65チャンピオン
12 フィッティパルディ 144 96 66.7% 72,74チャンピオン
15 J・ビルヌーブ 81 54 66.7% 97チャンピオン(現役)
17 フィジケラ 74 49 66.2% 00選手権6位(現役)
18 アーバイン 113 73 64.6% 98選手権2位(現役)
19 スチュワート 99 63 63.6% 69,71,73チャンピオン
20 クルサード 107 68 63.6% 95,98,00選手権3位(現役)
24 ハッキネン 144 90 62.5% 98,99チャンピオン(現役)
25 ピケ 204 124 60.8% 81,83,87チャンピオン
28 G・ビルヌーブ 67 40 59.7% 79選手権2位
33 ベルガー 210 122 58.1% 88選手権3位
35 ペテルソン 123 71 57.7% 78選手権2位
36 R・シューマッハ 66 38 57.6% 00選手権5位(現役)
40 トゥルーリ 62 35 56.5% 00選手権10位(現役)
42 ブラバム 126 71 56.4% 59,60,66チャンピオン
44 アレジ 184 103 56.0% 96選手権4位(現役)
47 ハーバート 161 88 54.7% 95選手権4位
49 モス 66 36 54.6% 55,56,57,58選手権2位
55 マンセル 187 98 52.4% 92チャンピオン
58 ロズベルグ 114 59 51.8% 82チャンピオン
59 G・ヒル 176 91 51.7% 61,68チャンピオン
62 バリチェロ 130 66 50.8% 00選手権4位(現役)
64 ハント 92 46 50.0% 76チャンピオン
69 パトレーゼ 256 126 49.2% 92選手権2位、史上最多出走
70 アンドレッティ 128 62 48.4% 78チャンピオン
75 サーティース 111 53 47.8% 64チャンピオン
76 中嶋悟 74 35 47.3% 87選手権11位
77 ラウダ 171 80 46.8% 75,77,84チャンピオン
84 リント 60 25 41.7% 70チャンピオン
89 片山右京 84 33 39.3% 94選手権17位
91 鈴木亜久里 65 25 38.5% 90選手権10位
94 チェザリス 208 71 34.1% 83選手権8位、史上最多リタイヤ