報道によって広げられた誤解に対して説明するために。

(2003.10.04作成/10.05一部修正)


報道された記事についての解説

※ここに述べているのは、自閉症(一次的な障害)に対する、一般的な解釈です。
※二次的に生じた行動については、当該少年の個人的事情によるものと考えられます。
※事件報道によって、適切な対応を求めるための告知ができなくなってしまうことを危惧しています。
※また、適切な対応を行っている家族に対して必要以上に非難されることも恐れています。
※自閉症と表記していますが、広汎性発達障害・アスペルガー症候群も同様です。

自閉症児の行動を解釈する際の、一般的な注意事項。

  1. まずは、感情的にならずに、認知や感覚の特異性のレベルで考えてください。これは、一次的な障害部分の解釈に不可欠なことです。
  2. 次に、「本人が、“他者”の存在をどれくらい意識しているか」を推測してください。“他者”への意識は、通常ならば、生まれつき自然に持っているものですが、自閉症児には、「“他者”の存在が自然には意識されにくい」という障害特性があります。
  1. しかしこれは、自己中心的であるとか、人を人とも思わないということとは全く違うものです。この特徴のために、人を無視していると思われてしまうことが多いかと思います。そして、さまざまな対人的なトラブルの原因にもなってしまうものです。(注:被害を受けることの方が多い。) 
  2. とはいえ、その現われ方は、千差万別です。“他者”の存在に全く気づいていないかのように見えることもありますが、“他者”に対してパターン化された行動をとったり、パターン化した行動を要求したりすることもよくあります。また、“他者”の存在を意識できるようになる時期は通常の子どもより遅くなりますが、ひとたび意識できるようになると過剰に気にしすぎる傾向が現われることがよくあります。あるいは、非常に観念的に“他者”をとらえていて、具体的な個々人にではなく「一般的な人」として意識していることもあります。
  1. 対人トラブルや心的外傷となるエピソードがなかったかどうか、振り返ってみる必要があります。


『長崎家裁の決定理由の要旨』より


外的刺激を処理する能力が限定され、低刺激で対処不能、無規制状態になり、衝動的で周囲の予想できない反応を示す傾向
 パニックや癇癪を起こしやすい場合には、その際に他害行為をしてしまうことがあります。周囲の人々の方が恐くなってしまうかもしれませんが、本人自身も混乱しているので、本人にとって負担になる刺激をなるべく少なくするように環境を調整することで、問題となる行動を減らしていくことができます。

対人的共感性が乏しい
 他者の感情に気づきにくかったり、他者の感情表現に対して適切な対応ができなかったりすることに対して、「共感性が乏しい」と簡単に言い切られてしまっていることが多いようです。

興味のあることについて一方的に話すのみで、他人との間に相互的情緒的交流をもつことができず、対人的コミュニケーション能力に問題がある
 かかわり方の特異性に起因するものなので、冷淡な性格であるとかコミュニケーション不足が原因でそうなったのだと解釈しないでください。

接触がなくても、孤立感や孤独感を感じている様子はないなど対人的つながりを求める志向が希薄である
 かかわり方と感情表出の特異性によるものなので、対人的な繋がりを求めていないと一概に決めつけることはできません。

コミュニケーションに相互性はなく、適切な仲間関係の樹立ができず、情緒的表出も不適切である
 これらの症状は障害特性に基づくもので、本人自身が社会的不利を被らないように調整していく必要のあるものです。
 相互的な(やりとりのある)コミュニケーションができ、仲間関係が持てることのみを目的とするのではなく、本人の利益のために必要なスキルを身につけることを目指して、学習を進めていく必要があります。

こだわりに伴う奇異な行動パターンが見られ、常同的で限定された異常な興味のパターンにとらわれる傾向がある
 こだわり行動にもいろいろあり、本人の精神的な安定のために必要な行動であるものもあります。
 しかし、社会的に不適切なものに関しては、社会的に妥当な行動(他人に迷惑をかけない・他人を巻き込まない・TPOをわきまえた行動)に置き換えていく必要があります。

幼少のころから手先の不器用さや運動機能の発達の遅れが見られた
 発達性協調運動障害があったということでしょう。アスペルガー症候群に多く見られますが、必ずあるとは限りません。

幼稚園時代からさまざまな特異行動が見られたにもかかわらず、家庭と学校が問題意識を共有せず、発達障害に応じた指導に当たれなかった
 発達障害への無知から、「ちょっと変わった子を、安心して学校(幼稚園)や社会に送り出せない家族」と「情緒や行動の問題は、家庭環境としつけに原因があると考える社会の認識」の悪循環を断ち切らない限り、問題は解決できないと考えます。

間違った養育態度が同年代の子どもと交友する機会を減少させ、相互的コミュニケーションの拙さ、共感性の乏しさに拍車をかけた
 やみくもに同年代の子どもと交友させることにも、問題があります。いじめられたり、本人が自信をなくしてしまう恐れがあるからです。また、元々の障害特性から、集団行動に向いておらず個別対応を主にした方が良いケースもあります。同年代の子どもたちから隔離して家庭内に閉じ込めたことがいけないのではなく、「人とかかわるために必要なトレーニング(ソーシャルスキルトレーニング)をせずに学校での集団生活を送っていたことに加えて、適切な対人関係を持つための機会もなかった。」と、考えるべきです。
 集団活動をする際には、仲介のできる人(大人・子ども)をつけて保護しながら、時間をかけ、様々な場面での人とのかかわり方を教えていく必要があります。
 また、あまり一般的でないものに強い興味関心を持つことも多いので、気の合う(共通の話題がある)友人を、意識して探す必要があります。同年代の子どもたちと接点のある趣味などがある場合は、できるだけ奪わないように心がけることも大切です。

小学校時代は教師や同級生が少年の特異性を認識して優しく接するなど特別な配慮をしていたが、中学入学で特別な配慮を受けることがなくなるなど環境が大きく変化した
 発達障害を持っていても、その状態は対応や環境によって大きく左右されます。見かけ上の問題がなくなると放置されがちになりますが、本当は継続した支援が必要です。(後になって、他の様々な病気となって現われたり、適応障害を起こすことがあります。)
 教育的な対応をするだけでなく、医学的診断が必要なところです。

些細なことで混乱し、その場から逃走するという方法で対処する傾向がある
 パニック状態に陥った時は、本人自身もどうしていいかわからないものです。まずは落ち着くのを待って、その場の状況を説明し、どのような対応をとれば良かったか教えます(その際には、「こうしなさい」と命令するのではなく、選択肢を示して本人が選ぶようにした方が効果があります)。しかし、頭では分かっていても、その場で即座に対応できないことが多いので、事前にロールプレイをし、かつ、現場できめ細かに指導して、行動コントロールができるようにトレーニングを積む必要があります。



新聞各紙の特集記事より。

授業中、サイレンや工事現場の騒音が聞こえるとパニックになった。音に異様に敏感だった。
 自閉症に伴って非常によく見られる、聴覚過敏の症状です。このように、特定の感覚(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚・前庭覚)が過敏だったり、鈍感だったりすることが、よくあります。神経学的なものなので、我慢させると強いストレスになります。また、パニックを起こしたことを叱ることには、何の意味もありません。成長と共に穏やかになっていくこともあるし、状況(いつ・どのような時に起こるか)が分かれば過剰な反応をしなくなることもあるので、感覚的な特徴を把握しておく必要があります。(注:個人差が大きいので、一人一人個別に把握しておく必要があります。)

廊下を走っているのを担任以外の教師から注意されると泣き叫んだ
 注意されることに抵抗しているとは限りません。上記のような聴覚過敏がある場合では特に、叱責する声(怒鳴り声や、甲高い声)に対する過敏があることも多いので、そのための反応だったのかもしれません。聴覚過敏による反応だったのに「言う事を聞かない」と重ねて叱られたのでは、注意された内容(廊下を走っていること)も伝わらなくなります。
 自分とかかわりのある人や信頼関係のある人の指示ならば聞けることでも、他の人から突然注意されると、聞かないことがあります。このような状況の読み取りに問題がある場合は、「担任以外の大人も先生であり、担任と同様に指示することがある。」と教えておく必要があります。

鉄棒にぶら下がれない。1段の跳び箱を跳ぶどころか、またがることもできない。担任は「教科の勉強とそれ以外のアンバランスが極端」とも感じていた。
「がんばれ」。同級生の声援に促され、ぎこちなく縄を跳んだ。
 本人の努力だけでは、どうしようもないものです。課題のレベルを下げるとともに、発達段階に合わせた指導をする必要があります。

少年には視線に対する不安と恐怖がある。普段から目を見て相手と話すことができない。
 他人と目を合わさないのは、自閉症によく見られる特徴の一つです。とはいえ、他者の存在を意識できるようになると(この時期が、思春期と重なることが多い)、他人の視線を過剰に気にするようになることがあります。しかしそれは、失敗して恥をかくことや人からの非難を恐れるあまりに他人の視線が恐くなる(社会恐怖/対人恐怖による「視線恐怖」)のではありません。
 相手の目を見て話さないのは、自分に話しかけたり何かを要求してかかわってくる他人の意図が分からず、どう答え・どう振る舞って良いか分からないという困難に起因するものです。特に、本人に対処し切れない過剰な要求を多くされ続けると、どうしていいかわからない不安や、できないことを要求される恐怖が強くなり、意識して視線をそらすようになります。
 「人の目を見て話しなさい」と指導すると、逆に相手をにらみつけるようになってしまうこともあります。失礼のないように相手の方を見ることを、ソーシャルスキルとして教える必要があります。

少年の異様な視線
 自閉症児には、自閉症特有の目つきがあったり、何かをじっと見つめるといった自閉的視行動をすることが、よくあります。それが、“異様”に感じられてしまったのではないでしょうか。

感情が読めない表情や態度に戸惑う
 他者の感情に気づきにくいことと、自分の感情を通常の方法で(言葉にしたり、顔の表情に表したりして)表出しないことは、自閉症の特徴の一つといえますが、だからといって感情がないわけではありません。にもかかわらず、“冷淡な別の顔”と解釈されてしまったことは、非常に残念です。

注意されたり、失敗したりすると情緒不安定になる/キレたら怖い
 「自分の思った通りに進行しなかった」「自分の思ったような結果にならなかった」という予定外のことに対応できないのは、よくみられることです。その時には、本人自身もどうしていいか分からず不安なのですから、本人が落ち着いたら、なるべく間をおかずに、本人の不安を解消するための説明を、簡潔に行います。(時間が長く経ってしまった後では、何のことを言われているのか分かりません。また、くどくどと説明すると効果が半減します。)
 社会的な学習の一環として「いつもいつも予定通りに事が運ぶとは限らない」と事前に教えたり、「我慢できたこと」を誉めると同時に、混乱した際に行動をコントロールできるように粘り強く指導する必要もあります。
 自分のやった行動に対して謝罪することも、必要なソーシャルスキルの一つです。しかし、単に「ごめんなさい」を言わせることを目的にするのではなく、上記のような対応やトレーニングを行う必要があります。

養育態度が共感性の乏しさに拍車をかけた
 「家庭が精神的な落ち着ける場所になっておらず、子どもたちが心の基地を失っている」こと、「各家庭が社会から孤立しがちになっている」こと等は、現在の子どもの置かれている環境の問題として、よく論じられているものです。この問題と発達障害の問題とが複合している場合には、両者を混同しないように注意すべきでしょう。環境的な要因と発達障害とがどのように絡み合っているか、細かく検証する必要があります。

親子関係が緊密すぎた、過保護
 他者とどのようにかかわったら良いか分からず、不安を感じることの多い自閉症児は、自分を守ってくれる人に依存してしまう傾向も持っています。どのように振る舞って良いか分からないという不安を受け留める一方で、自発性を育てる必要があります。
 発達の遅れがあって庇護的にならざるを得ないという特殊事情があるために、発達障害児にかかわったことのない人たちから、過保護・過干渉と見られてしまうこともあります。


<ペンギンくらぶ作成(文責:落合)>



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