GBソフトにおける通信交換と通信対戦の歴史

ポケモン以前を振り返り、ポケモンが画期的だった点を改めて見直す

概要

初代『ポケットモンスター』が確立した「通信交換」及び「通信対戦」だが、
RPGというジャンルに限ってみても、ゲームボーイソフトとしては決して新しいものではなく、
1990年代前半の時点で、数は少ないが実際にゲームボーイソフトにて実現されていた。

しかし、現在ではほとんど忘れ去られており、ポケモンが開拓したジャンルと見なされている。
メーカーもシリーズも決してマイナーではない作品が揃っているのに、なぜ省みられなかったのか?
従来のゲームにおける通信対戦及び交換の歴史を振り返りつつ、ポケモンが革新的だった点を改めて見直すことにしてみよう。

なお、文中で言及するゲームのほとんどは通信プレイしたことがないので的外れなことを書いている可能性はある

ゲームボーイの通信機能の問題

そもそもだが、ポケモン以前に関してはゲームボーイで通信プレイが行われること自体が少なかった。
その理由とは何か。以下、かなりの主観を交えるが分析してみたい。

ハードウェアを揃えるハードルが高い

ゲームボーイ2台に加え、同じソフトのカートリッジを2つ、さらに通信ケーブルが必要。
たまたま同じソフトを持つ者同士が揃っても、ケーブルが無ければ当然ながら通信はできない。
ケーブルはオプションパーツであり、本体とは別に買い揃える必要がある。
通信ケーブルは1人(1台)で遊ぶのであれば全く必要のない周辺機器であり、持っている人は少数派だった。
そもそも本体は置いてあっても、ケーブルは取り扱っていなかった店も少なくなかったと記憶している。

なお、通信デバイスの供給問題については徐々に解決されていくことになる。
例えば通信ケーブルの需要が極めて高いポケモンシリーズにおいては、GBAの『ルビー・サファイア』の同時予約特典として通信ケーブルが付属。
『ファイアレッド・リーフグリーン』においては初回版にはワイヤレスアダプタが同梱された。
これにより、必ずしも通信プレイを意識していないプレイヤーの手にもデバイスが普及しやすくなったと言える。
DSになってからようやく無線通信が本体の標準機能となり、この問題は根本的に解決された。

プレイヤーごとのソフト嗜好が分かれやすい

ファミコン(FC)やスーパーファミコン(SFC)といった据え置き機が大作志向なのに対し、
携帯機であるゲームボーイは低価格帯の小粒なソフトが多かった。
宣伝も小規模であり、誰もが買うような定番ソフトというものが少なかった。
そのため、どのソフトを買うかという判断はプレイヤー個人の嗜好によるところが強く、
ゲーム好きが複数集まっても同一の通信対応タイトルを持っているというケースは稀だった。
中にはマリオやゼルダシリーズのように大々的な宣伝を行っていた定番ソフトもあったが、それらはほとんど通信に対応していない。

対戦プレイなら据え置き機のほうがはるかに優れる

なんといってもこれが一番大きいかもしれない。苦労してハードを揃えるくらいならば、最初から据え置きゲームで遊べばいいのだ。
同じようなゲームであれば、大きな画面でカラーで遊べるほうがよっぽど良いのである。
ただでさえSFCには『スーパーマリオカート』『ストリートファイターII』『す〜ぱ〜ぷよぷよ』等、対戦プレイ向きのゲームが多い。
テレビが無くても遊べるという携帯機の強みはあるが、当時の液晶は現在のものとは雲泥の差。
暗いところでも、直射日光で明るすぎるところでも見づらく、結局は屋内でプレイされることが多かった。
そもそもケーブルで繋いだままプレイする必要があるというのは、手軽さが売りの携帯ゲームの特徴に反している。

以上のような状況にも関わらず、例外的に対戦モードで遊ばれていたのは『テトリス』くらいである。
当時の超定番ソフトだった上に、対戦モードは当時の家庭用ではGB版だけにしかなかった機能。
また、操作性自体も先行したFC版よりもはるかに優れていた(あちらはハードドロップしかできない、等)。
後に『テトリス2+ボンブリス』において、据え置き機のテトリスにも対戦モードが導入されたが、
FC版の発売は1991年12月(SFC版はさらに1年後)とやや遅く、テトリスブームに乗り遅れていた感があった。

携帯機ならではの通信対戦

ゲームボーイソフトには通信対戦が可能なタイトルは多い。
ただしあらかじめ設定された状況やキャラクターで戦うものがほとんどだったため、
前述した問題点を克服することができず、敢えて携帯機で対戦を行う意味は薄かった。

携帯機ならではの強みを発揮するには、上で述べた「ハードとソフトが人数分必要」という部分をゲームに活用する必要がある。
一つは「プレイヤーごとに異なる画面を見る」つまり「対戦相手に一部の情報を隠すことができる」という要素。
例えば『SDガンダム戦国伝 国盗り物語』においてはマップ上の敵の位置を直接表示できなくする等、同じ画面でプレイする据置機では不可能なゲーム性を取り入れた。

もう一つは「プレイヤーが事前に用意したセーブデータ」を対戦に使うという要素。
ただしこちらは決して多くない。初期はバッテリーバックアップ自体を搭載していないソフトも少なくなかったので仕方ない部分はあるが。
以下に挙げる3タイトルしか確認できなかったので、他にもご存知という方はご一報を。

スーパーロボット対戦

1991年4月20日発売。いわゆるSRPGと呼ばれるジャンルで、広義ではRPGに含まれる。
本編と同じルールで、お互いのチームをシミュレーションマップ上で対戦させることができる。
GBA以降では、同様のシステムが任天堂の『ファイアーエムブレム』シリーズ等にも採用されるようにもなった。

本作は「説得」コマンドによって大半の敵キャラクターを仲間にいれることができ、
さらにステージ攻略は一度きりなので、経験値や強化アイテムが有限のリソースになる。
このため、強力なメンバーを揃えるという部分にはかなりの戦略性があり、対戦ゲームとしてはなかなか面白そうだ。
しかし裏を返せばハードルの高さにも繋がる。編成を一新したければ最初からプレイしなおす必要もある。
さらに公式の裏技として「精神コマンド無限使用」というのがあり、これを使えばパラメータが上げ放題になる。
そうなるとせっかくの戦略性が台無しになるので、公平なルールで遊ぶこと自体も難しい。

一方、プレイデータではなくあらかじめ用意されたメンバーを使っての対戦も可能。
くわしくはこちらのブログ(外部リンク)で紹介されている。
開発元こそ違えど、母体となるバンダイでは対戦型SLGを何作も開発している(『ガチャポン戦士』など)ので、
そのあたりのノウハウはここでも活かされているものと思われる。

女神転生外伝ラストバイブル

1992年12月23日発売。後にカラー対応リメイク版も発売されている。
やはりモンスターを「仲魔」にして自由に編成できるという点はポケモンに通じる部分がある。

詳しいシステムはこちらのブログを参照(外部リンク。説明書のスキャン)。
カラー版の情報のようだが、本文中にもあるように互換性は確保している、つまりオリジナルも同様のシステムということだろう。
注目すべきは1対1の戦闘という点で、これはポケモンの戦闘システムにも通じる。
勝敗に関わらず戦闘が終わるごとに選手交代ということなので、1体だけ強くても勝てないというシンプルながら練られたシステムだ。
(余談だが、ポケモンの「勝ち抜き」に対する「入れ替え」ルールは、本作の対戦システムを下敷きにした用語にも思える。
最初期の攻略本では「通信対戦でもルール切り替えが出来る」という誤記があるというのが余計にそう思わせる)

しかしながら「仲魔」には成長やカスタマイズ要素がないので、本格的なシステムというよりはおまけ機能に留まっているのだろう。
ゲームバランスが手直しされたというカラーリメイク版と互換性を維持しているのもそのシンプルさ故だろう。

ウィザードリィ外伝3

このシリーズは1作目から後述するようなキャラクターの通信転送システムがあるが、対戦は本作から。
キャラのやりとりができるなら対戦も…というシンプルな発想は、後にポケモンの開発中においてもなぞられることになる。

ウィザードリィシリーズにおいて、LvとHPはほぼ際限なく、少なくとも3桁でも4桁でも上がり続ける。
それに対して魔法攻撃の威力は据え置き。物理攻撃はヒット数が増えるものの攻撃力は変わらずLv50程度で頭打ちになるので、
対戦ではほとんど即死や石化狙いしか意味を成さなくなるような気がする。
シリーズ経験者の想像では、どうやっても極めて大味な展開しか想像できないのだが実際のところはどうだったのだろうか。
後の携帯機作品でも通信対戦は取り入れられなかったというあたりから察せられる。

ウィザードリィ外伝シリーズにおける通信機能を巡ったファンや開発者の反応については当時の雑誌記事が参考になる。
ゴクテバさんによるまとめを参照のこと(外部リンク)。

その他・参考情報

シグマ商事の『ポケットバトル』が通信対戦に対応したSRPGらしいのだが、基本的に面クリア型のゲーム。
レベルなどはパスワードで引き継がれるようだが、対戦はあくまでもフリーモードであって育成が反映されるわけではない模様。

通信交換

通信対戦機能が3シリーズ確認できたのに対して、通信交換に関しては『ウィザードリィ外伝』シリーズが確認できた唯一の例である。
(シリーズはGBには3作存在するので、作品単位で見れば通信対戦同様に3作なのだが)
ポケモンにおける通信交換実装の動機が、田尻氏の「レアアイテムを2つ持ってるなら1つくらい分けて欲しい」というもので、
同じようなことを思ったことのあるゲーマーは決して少なくないはずだ。

ポケモンに倣って「交換」としたが、厳密な意味で「キャラクターの交換」を実装していたゲームは未確認である。
前述した『ウィザードリィ外伝』シリーズは、キャラクターの「転送」である。
もっとも相互に行えば交換と同じには違いないので、ここでは「交換」として扱うことにする。

「ゲーム」という枠からはやや外れるのだが、コナミの電子手帳ソフト「ナノノート(1992年8月7日 )」は、アドレス帳の情報を通信ケーブルで送受信可能。
対戦以外の目的で通信ケーブルを使っていた例として紹介する。

ここでは、実装された通信交換機能を紹介しつつ、「なぜ従来のRPGに通信交換機能はなかったのか」という点を改めて分析したい。

キャラクター交換の問題

ほとんどのRPGにおいて、登場するキャラクターは世界で唯一の存在である。
別のデータとの通信を認めてしまうと、同一人物が同じ世界に複数存在することになってしまう。

一方『ウィザードリィ』シリーズにおいて、キャラクターは無数にいる冒険者という設定である。
プレイヤーはまずキャラクターメイクを行い、種族や職業を設定して冒険に出るキャラを作らなければならない。
ここでのプレイヤーはいわば神の視点であり、「主人公」に相当するキャラは存在しない。
(厳密には、サンプルデータとして初期登録されているキャラがいる場合もあるが、「せんし1」などのごく簡素な扱いである)

通信交換できない固定キャラ枠と、交換可能な不特定キャラ枠を分けるというアイディアもあるだろう。
しかしその場合、イベントや専用装備品などは固定キャラのほうに集中してしまいやすいので、
出し殻のような不特定キャラを交換できても決して面白いものにはならないだろう。

アイテム交換の問題

キャラクターの交換には問題があった。では田尻氏のアイディアの源泉でもあるアイテムはどうだろうか。
移動することでシナリオに不都合があるイベントアイテムは、そもそも「捨てられない」などの特殊処理がかかっている。
通常のアイテムだけでも通信で移動できるようにすれば問題はないのではないか?

…しかし、当時のRPGを見る限りではそういうわけにもいかない。
まず、アイテムの大部分は店で購入することができる。特にレアリティは無い。
田尻氏が例に挙げた「不思議な帽子」のように、モンスタードロップ専門のアイテムが無いわけではないが、
所詮は収集自体がやりこみの領域にあるようなおまけアイテムである。
これらのためだけにわざわざ専用のシステムを組むのは割に合わないのではないだろうか。

一方で、『ウィザードリィ』シリーズにおいては、店で買えるアイテムはごく初歩のものに過ぎない。
中位以上のアイテムは原則としてモンスターからのランダムドロップのみで手に入る。
今で言う(俗語としての)「ハック&スラッシュ」ものに近い。
さらに、売ったアイテムは即座に店の在庫に並ぶという、現代においても珍しいシステムを見せる。
より上位の品を手に入れて必要が無くなったアイテムも、売却すれば店の在庫を彩るのである。
よって、プレイヤーの多くはゲーム自体をクリアした後でも珍しいアイテムの収集に没頭した。
『ウィザードリィ外伝』シリーズはそこに目をつけ、アイテムコンプリート自体を一つの目的として提示した。
このあたりは「ポケモン図鑑」の原型といって良いと思う(詳しくは僕のブログ記事にて)。

ポケモンが革新的だった点

以上を踏まえて、ポケモンが通信を前面に押し出すためにとった工夫とはなんだろうか。
今では当たり前となった要素の一つ一つを改めて分析してみたい。

関連記事:ポケットモンスター通信対戦黎明期の記憶

主人公≠戦闘員

今でこそポケモンライクゲームにおいて当たり前に見られるが、これは物凄い発明である。
冒険をしてストーリーを進める存在と、戦闘要員を完全に分離することに成功した。
これにより、戦闘メンバーを(「主人公」を含めて)何者も固定されることがなくなり、自由な編成を可能にした。
システム面以外でも、戦う者ではなく命令(コマンド)する者として、主人公とプレイヤーの距離感を縮めることにも成功している。

「出来ること」「出来ないこと」の明確化

まずポケモンにはそれぞれ「タイプ」という属性が設定され、可視化されている。
これにより相手からの属性攻撃による耐性は初めから決められており、変更することができない。
一般的なRPGのような「装備品」の概念も無いので、耐性を補うこともできない。

能力値に関しても、同種族内の個体差こそあれど種族的な限界が明確に設定されている。
通常、ドーピングアイテムというものはその制限を壊すためにあるが、
ポケモンに関してはあくまでも自然な成長を補助するものでしかない。

これだけなら『SaGa』や『女神転生』シリーズにおける仲間モンスターにも通じる部分は多いが、
ポケモンに関しては成長や技の選択といった部分がプレイヤーに委ねられている。
制限がある中でもカスタマイズの幅は十分に確保しているのだ。

キャラクター保管ストレージの容量

ご存知のように、ボックスには最大240匹ものポケモンを預けることができる。
現実には出し入れの利便性を考えるとボックスを満たすのは得策ではないので、実際に管理するなら200匹程度が限度だがそれでも十分だ。
ゲームボーイどころか、スーパーファミコンや次世代機を見ても、当時これだけのキャラクターを保持できるゲームは聞いたことがない。

仲間に出来る数は多ければ多いほど良い。仲間が増えるたびに手放すことを強制されるようなゲームでは落ち着いて育てられない。
「交換したくなる」動機のためには、交換によって手に入れたポケモンを大事に保存できるのは必須条件である。
対戦に関しても、ルールや相手別に様々なメンバーを揃えておけるのとそうでないのとでは遊びの幅が全く変わってしまう。

もっとも、開発中は容量不足に悩み、ある時点では「ニックネーム無しの100匹か、ニックネームありの30匹か」の決断を迫られたのは有名な話。
開発の遅れが怪我の功名となり、バックアップメモリの増設によって結果的には「ニックネームありの240匹」が可能となった。

交換をすると得をする!

「人からもらったポケモンは経験値1.5倍」という特典がある。
RPG一般において「成長が早くなる」というのは極めて有利かつ、わかりやすい効果である。
シナリオ攻略中はバッジによって「言うことを聞くレベル」が制限されるが、かなり甘めに設定されている上に最終的には撤廃される制限となる。

では、どうやって人からもらったポケモンを区別しているのか?それはポケモンごとに記録される「おや」のデータである。
「誰からもらったポケモンか」という情報がフレーバーとして残り続ける上に、システム上も「別のプレイヤー」を区別する意味があるのだ。

世界観におけるポケモンバトルの位置づけ

世の中にあるRPGの大半は「悪を倒して、世界に平和をもたらす」ことが最終目標である。
「世界」の範囲や「悪」の定義こそ様々だが、多かれ少なかれこの構図に属しているものが大部分を占めていると言って良い。
(ポケモン以前において、あくまで家庭用における有名どころのゲームに限っての話だが、
例外は『不思議のダンジョン』くらいであり、それすらも『月影村』以降はヒロイック冒険譚の風味を帯びる)
このような世界では主人公サイドの存在が、たとえ模擬戦であろうとも互いに戦いをするような状況は考えにくい。
まして明確な「殺し合い」として戦闘を描写しているのであればなおさらである。

一方でポケモンの場合、戦闘はあくまで競技として描写されている。
初代のシナリオでは悪の組織は中盤で撤退し、それ以降のトレーナー戦は純然たる競技となる。
「競技としての戦闘」というのは、ゲーム外におけるプレイヤー同士の通信対戦にもそのまま通じる。
ゲームを普通にプレイするだけで、通信対戦に向けての心構えが自然にできるという仕組みである。

交換による周回プレイ

ポケモンの交換対象は、何も他のプレイヤーに限らない。複数のカートリッジを用意してのセルフ交換も可能。
これにより、複数回のプレイを1カートリッジに蓄積・集約することが可能になった。
そこまで難しいことを考えなくても「育てたポケモンを残したまま最初からやり直したい」なんてことも可能となる。
やや手間はかかるものの、専用のシステムを用意することなく「強くてニューゲーム」を実現した。

まとめ

以上のように、システム面でもストーリー設定面でも、「通信」を気持ちよく行えるようにするために多数の工夫が見られる。
これらの積み重ねにより、今までのゲームでは代替不可能の、全く新しい遊びの世界が完成したのである。
当初は注目されにくかったものの、一旦火がつくと爆発的な人気を見せ、多数のフォロワーを生んだのも頷ける。


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