◆ヤハウェ神との契約 − シャーロームの確保のため 契約締結の問題が、それほど重大な問題となったのは、実はそれが、 イスラエルの平和(シャーローム)にとって、必要不可欠の前提であったから、とみる説がある。 契約なしに、イスラエルの平和はあり得なかったという。 契約と平和とは、ここではほとんど同義語であったというのである。それはなぜか。 平和とは、通常、争いのない状態、あるいは心の平静な状態を意味しているが、 ヘブライ語の意味するシャーロームは、そうした状態とはまったく逆に、 力のみなぎりあふれた動的な状態をさしている。 しかも、それはけっして、精神の領域だけに限られない。 物質的にも経済的にも政治的にも、しばしば軍事的にさえも、そうである。 シャーロームは、すべてにわたるカのみちあふれた生活を意味していたのである。 イスラエルは、上のような意味の平和を渇仰していた。問題は、その確保にある。 シャーロームは、いかにして獲得されるだろうか。答えは、明瞭である。 イスラエル十二部族の強力な団結、それだけである。 団結こそが、砂漠に生きる民の生存の掟であった。 このことについては、すでに述べた砂漠の寄留者の、 あの無力な状況を想い起こすだけで十分である。 彼らがいかに、ベドウィンや都市居住者にたいして無力であったか。 アブラハムの悩み、イサクの苦労の根源は、すべてそこからきた。 もしも彼らがそうした弱さを克服し、より強い国民となろうとするなら、 彼らは、同朋の間に、部族の間に、破られることのない強力な団結、不動の盟約を確立しなけれはならない。 もちろん彼らがそのことを知らないはずがない。 問題は、そうした不動の結束が、いかにして可能かということにある。 部族間同志の相互的な盟約が、利害にたいして、いかにもろいか。 同朋同志の信義が、どれほど容易に破られ得るか。彼らはそれを知っていた。 ここで、ただひとりの神が問題となる。すべての同朋、すべての部族が、 同じひとりの神に仕えるという問題である。 こうした唯一的な神の選択以外に、不動の団結の確保はない。 「わたしは、あなた以外の神をおがまない」ことが、シャーロームの第一の条件となる。 〔構図の項参照〕 |
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