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聖書の起源

◆土地取得伝承
 それは、聖書(旧約聖書創世記四章)の記録する人類最初の兄弟殺害の物語、 兄が弟を野に誘って打ち殺す物語である。
 話は、禁断の園″の木の実を食べて、エデンの楽園を追放されたアダムとイブの後日譚からはじまる。 神の罰により食物のために顔に汗して、一生苦しみどおし働き続けねばならなくなった人間アダムとイブ。 この一組の男女に息子がふたり生まれる。カインとアベルである。 子供たちは成長し、兄のカインは土を耕す者=農耕者、弟のアベルは羊を飼う者=牧羊者となる。
 ある日のこと、ふたりの兄弟は、主なる神の前に、彼らが働いて得たそれぞれの産物を、 捧げるために競い合う。カインは大地を耕して収穫した畑の初物を、 アベルは羊の初子とよく肥えた羊とを神にささげた。 事件は、ここからはじまる。神がアベルの供えた捧げ物だけを、心にとめられたからである。 カインはいたく失望する。このとき、カインの心に殺意がきざす。 カインはアベルを野に連れだして殺害した。
 
 アベルの不在に不審をいだいた神が、カインにむかって弟アベルの所在をたずねたとき、 カインは何食わぬ顔でこう答えたという。
「知りません。わたしは弟の番人でしょうか」
 神は、はげしいのろいをもって、カインを断罪した。
「あなたは何をしたのです。あなたの弟の血の声が、土の中からわたしに叫んでいます。 今あなたはのろわれて、この地を離れなければなりません。この土地が口をあけて、 あなたの手から弟の血を受けたからです。 あなたが土地を耕しても、土地は、もはやあなたのために実を結びません。 あなたは地上の放浪者となるでしょう」
 
 これが不幸のはじまりであった。カインは永遠に放浪者とならねばならない。 それが、犯した罪にたいする罰である。 しかも神は、放浪者カインをだれも打ち殺すことのないように、 彼にひとつの「しるし」をつけられた。 カインは、神の「しるし(安全と庇護)」を身に帯びて神のもとを去り、エデンの東に移住する。 こうしてカインの末裔の不幸の歴史(=土地の取得)ははじまった。
 
 文中、”神がアベルの供えた捧げ物だけを、心にとめられた”とは、 ”「神」は気まぐれ?”の項で述べたように、神とは、天候(=太陽)のことである。 したがって、川筋に居住する人々は”太陽”を主神と崇めるが、 創世記カインら(=聖書の民、つまりイスラエル民族)は、太陽とは別な、太陽を超越した、 嵐を呼び起こすような強力なる”神”を指向するようになった、とされる。
 
 創世記の作者は、人間が神に背くと破滅的な結末を迎えるだろうと示唆した。 もしも神による人間救済の業(わざ)が開始されねばならないなら、 それは、この破滅的結末から出発するしかないからである、と。
 
 即ち、神(神意)に背くことが罪であり、その罰が科せられる、と云うことであろう。
 罪の償いには、それは先の見えない苛酷な放浪の旅であった。 しかし、神を信じ、神の救済を待ち続けながら……。

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