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13 からめ節金山踊り

五、その他の民謡との類似点の指摘
 
 前述のように、「石刀節」が全国的に歌われていたので、各地の「石刀
節」の歌詞に、共通的なものや似通ったものがあることがわかる。
 このことは他の民謡にも共通することである。からめ節にも、各種民謡
と共通する歌詞(言葉ないしは文言)が用いられるようになっていたと考
えられる。
 旧からめ節の歌詞と共通する東北地方の他の民謡についてみてみよう。
 
 その歌詞とは、当時の人々が象徴的に、あるいは共通的に認識できる言
葉、ないしは文言についてである。例えば、日本一高い山「富士山」とか、
神仏で人口に膾炙されている「大黒様」や「恵比寿様」とか、「目出度い」
とか、また「田舎」「西東」などである。
 それぞれの民謡が、これら共通的に認識される歌詞を用いることによっ
て、より親しみやすい(歌いやすい、覚えやすい)唄となり、また広範囲
に伝播されていったものと考えられる。
 
ア、旧からめ節一番「押せや押せ押せ」
 『日本民謡大観』に収録されている「大漁唄ひ込み(その二おっこいし
ょ)」(岩手県旧陸中国上閉伊郡大槌町安渡)は、三陸沿岸一帯で、大漁
のお祝いや祝儀のときなどに歌われる唄である。
  押せや押せ々々(ハ、オッコイショ)、
  ア 船頭さんも舵子も(ハ、ヨイヨイヨイナ、ハ、オッコイショ)、
  押せば南部も(ハ、オッコイショ)、
  ア、サアサ 近くなる ネー(ハ、ヨイヨイヨイナ、ハ、オッコイシ
  ョ)
 
 同じく「遠島トシマ甚句(艪拍子)」(宮城県旧桃生郡鷹来町)は、牡鹿半
島沖の金華山近辺の海上(または陸上)にて歌われる甚句である。
  ハアー 押せや押せ々々二丁艪で押せや、
  押せば港が アレサ 近くなる
 同じく「塩釜甚句(その四)」(宮城県旧陸前国宮城郡高砂村)は、
「ハットセ節」とか「アイヤ」とも呼ばれ、松島湾の港「塩釜」で歌われ
る甚句である。
  押せや押せおせ塩釜までも(ア、ハットショ、ハットショ)、
  押せば塩釜 ホンニ 眼の前に(ア、ハットショ、ハットショ)
 同じく「餅搗唄(その一)」(山形県旧羽前国北村山郡東根町)は、餅
搗きのときに歌われる唄であるが、「押せや押せ押せ」とは、本来は船歌
の歌詞なのである。
  押せや押せ押せ下の関までも、
  押せば南部のヱ、アラ 果てまでも、ア、チョイチョイチョイ
 
イ、旧からめ節六番「お山繁昌」「烏」
 『日本民謡大観』に収録されている「山唄(その二かくま刈唄)」(山形
県旧羽前国山形市外)には、次のような歌詞がある。同地方では、笹や柴
の雑木のことを「かくま」という。
  ハアー 山は深いしかくまは延びた、
  お山繁昌と ハアー 烏啼く、烏啼く
 同じく「木挽唄」(福島県旧岩代国河沼郡柳津村)は、山仕事での木伐
りのときに歌う唄である。
  ハア 烏啼け々々 ハア 山小屋の屋根で ヨー、
  お山繁昌と オヤサー 啼け烏 ヨー
 
ウ、旧からめ節七番「田舎なれども」「西も東も」
 岩波書店発行『日本民謡集(昭和三十五年版)』(以下『日本民謡集』
という)に収録されている「南部牛追唄(沢内牛追唄)」(岩手県和賀郡
地方)には、次のような歌詞がある。
  田舎なれども サアーハエー 南部の国は ヨー(ハーラヨー)、
  西も東も サアーハエー、
  金の山 コーラサンサエー(ハーラヨー パッパッパッパッパー)
 この「沢内牛追唄」は、鹿角街道(花輪〜盛岡)及び仙北街道(角館か
ら盛岡、沢内〜黒沢尻)などで歌われていた唄である。
 『日本民謡大観』に収録されている「牛方節」(岩手県旧陸中国岩手和
賀郡地方)には、次のような歌詞がある。
  田舎なれども サーハアエ 南部の国は サア、ハイ、パパア、
  西も東も サーハアエ、金の山 コラサンサエー
 なお「南部牛追唄」に関して、厳密には「牛方節」は道中唄、「牛追唄」
は放牧唄であるが、両者は混用することが多いという。
 
 同じく「小野田甚句」(宮城県旧陸前加美郡小野田村)は、宿駅「小野
田」の酒飲み唄として歌われていた。
  田舎なれども一度は御座れ(ア、チョイチョイチョイナ)、
  小野田馬の市や ササ 盛り場に(ア、チョイチョイチョイナ)
 同じく「あいや節(その三花輪アイヤ)」(秋田県旧陸中国鹿角郡花輪
町)は、もともとは海辺の唄であるが、だんだん陸地深く入り込んで祭礼
の唄として歌われるようになったとされる。
  アイヤ せまいやうでも鹿角の花輪、
  西も東も ヤーレ 金の山
 
 同じく「平地方盆踊唄」(福島県旧磐城国平市)は、旋法および旋律型
から分類すると、角音終止のものとされ、地形の土搗唄に多く見受けられ
る旋律型といわれる。
  アー 田舎なれども ヤーロ、アー 赤嶽薬師、
  アー 七里七浜 ヤーロー 目の下だ ヨー
 『日本民謡大観』に収録されている「白銀ころばし」(青森県旧陸奥国
八戸市)には、次のような歌詞がある。白銀とは八戸市湊町にある漁村の
名前で、この唄は、白銀の女性たちの行商の唄である。
  ハアーキタサカサッサ 田舎なれども鮫浦みれば、
  アイヨ 沖に蕪島背に恵比須
 同じく「花笠踊」(山形県村山地方)は、酒の座敷などで盛んに歌われ
たり踊られたりする唄である。
  花の山形お米の出どこ 西も(チョイ チョイ)、
  東も米だらけ(ハア ヤッショーマカショ シャンシャンシャン)
 毛馬内の盆踊(国指定重要無形民俗文化財)の中の甚句踊の唄に、次の
ような歌詞がある。毛馬内の盆踊は、八月二十一日から三日間、大太鼓を
たたき、また歌いながら踊られる。
  サーハー、狭いようでも鹿角の里は、トコヤッセ、
  西も東も黄金カネの山

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