<昭和のおもいで その5>
電算機のこと
松館老人クラブ 桜田守宏
一 電算機との関わり
私が電算機(電子計算機・コンピュータ)に関わりを持つようになった
のは、昭和四十八〜五十年頃、三十台半ばであった。東京調布にある日本
電信電話公社の研修施設での講習会に、勤務先から命ぜられて、何週間か
通った。
当時の電算機は、高級住宅と言おうか、高級外車と言おうか、かなり高
額なものであって、大企業でもあまり導入していなかった。一台の電算機
には、数十人もの技術者が群がって、処理業務の開発に当っていた。
電算機の主要業務は、大量のデータを処理する、つまり桁数の多い、複
雑な乗除加減の計算をすることであった。電算機は米国で発達したもので
あるが、米国には、「算盤(そろばん)」がなかった。そのため、桁数の
多い計算を処理するために、手動のタイガー計算機などが開発され、わが
国でも全国に普及していた。その後電動の機械式計算機(モンロー計算機)
なども米国からやってきていた。そのような「機械式計算機」でも、大量
の計算処理が追いつかなくなったので、一躍「電子式計算機」、つまり電
算機の開発が注目され、急速に発達しつつ普及してきた。
その時の電電公社での研修では、電算機の初歩的な基礎知識や手順書
(プログラム。またソフトとも)などについて勉強した。当時の大型電算
機は、コボルというプログラム言語で動くのが主流であった。コボルを熟
知していなければ、電算機技術者にはなれなかった。もちろん私はド素人
なので、あまり理解することは出来なかった。ご案内のように電算機は、
米国社会の理念(思想的宗教的概念)に基づいて開発され、またコボルも
然りである。それとともに、電算機には何人もの人間が携わるので、それ
らの共通認識としての「定義づけ」が必要であった。例えば「5という数
値は、甲番地に格納し、3という数値は乙番地に格納し、その和の値を丙
という番地に格納せよ」というようなプログラムを英語文に準じたコボル
言語で記述するのであるが、なかなか「番地」とか「格納」とかの意味を
理解するのに苦労した。
演習では、簡単な乗除加減の計算処理をプログラム化することであった。
それをプログラム用紙に手書きし、キーパンチャーがカード(大きさ的に
は商品券位)に一行ずつ打ち込んでくれる(穴をあける)のであった。一
行は半角の確か一二八文字以内であったと思う。ちょっとした演習例題で
も、カードの枚数は、手に抱えきれないほどであった。そのカードを持っ
て、厳重に防塵対策や温度管理された電算機室に入って、コンピュータ技
術者に試運転(テストラン)してもらう。うまく行かなければ、戻ってき
て、プログラムを書き直し、カードを作ってもらう……。
即ち、プログラム技術者はコンピュータの構造(設計思想)に、操作者
(使用者・ユーザー)はプログラムの指示(プログラム技術者の思いや願
い)に、それぞれ絶対的に従わなければならない……。
二 ベーシック言語
その後、電算機のこととは縁遠かったが、昭和五十六年(四十二歳)の
頃になったら、いわゆるパソコン(パーソナルコンピュータのこと)がぼ
つぼつ流行り出してきた。勤務先でまた、民間施設での短期間研修を受け
させていただき、本来業務の傍らで、パソコンに取り組むこととなった。
パーソナルとは個人用ということで、パソコンとは、個人で手軽に自由に
使うことの出来る電算機(以下「コンピュータ」という。)のことである。
当時のパソコンは白黒画面で、プログラム言語はベーシックであった。
ベーシックは、コボルのように格式ばったところがなく、平易な単語を用
いて記述する言語として大流行であった。「パソコンはベーシックに始ま
り、ベーシックに終る」との感があった。
パソコンが職場に導入された当時は、ベーシック言語の手引書(マニュ
アル)は、手書き原稿をコピーして製本したものであった。
殆どの休日には、2qほど離れた宿舎から自転車に乗って霞が関の勤務
先へ駆けつけ、がらんとした静かな庁舎で、アンパンをかじりながらパソ
コンと戦い続けた。これでもか、これでもかとプログラムを書き直し、テ
ストランを繰り返すのが、休日の唯一の楽しみ?であった。
この世での数の表記法は十進法であるが、コンピュータでは二進法が基
本である。例えば十進法で表される2、3、4、5は、二進法では10、
11、100、101と表記する。この場合の1とか、0とかは、電気的
には点灯(点灯している)は1、滅灯(点灯していない)は0のことであ
る。その頃の文字は全てが半角で、一文字は8個の点滅(電気信号)の配
列で構成され、その配列思想は、モールス信号の考え方に似ている。
さて、ベーシックのプログラムの簡単な例として、「一つずつ足し算を
して、合計値が5になったら終れ」をご紹介する。
@今、値は0(初期値)である。
A初期値に1を加え、合計値が5になったら終わりとし、5未満であった
ら、次は1を加えよ。
Bこの計算を繰り返して、合計値が5になるまで計算せよ……。
パソコンでのプログラムは、画面に映し出された書式に入力(書き込む)
することでよく、実行命令はRUN、印刷命令はPRINTとなる。
コンピュータでの加減乗除の計算は、+と−だけである(厳密には+だ
け)。例えば5+3は5の数値に1を3回加え、5×3は5を3回足せ……、
となる。
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