さてこうして編成され、いざ出陣となったときは、どんないくさの準備をして行
ったろうか。この阿部恭助日記の7月25日のところに、「此度下新田御境口猿田ノ
沢、壱本栗ノ木御境口臨時出張人数覚」として、「壱番手、田郡七組、元山拾組、
弐番手、赤沢拾組、志々沢笹小屋九組、、それぞれ配置など書いているが、こんが
らかるので抜きにして、その後に「覚」として次のように書いている。少し長くな
るが、どんなものを準備して行ったか、戦さのかけひきをどうしたか、などわかる
ので、須子は長くなるが書いてみる。例によって漢字ばかり多く、片カナとひらが
ながまじっていたり、濁点がなかったり、ひらがなで書けばわかりやすいのが、漢
字をあてていたり、字をひっくり返して読んだりと、昔の人は、それが常識であっ
たろうが、今の私達にとっては、肩がこったり、訳がわからなかったり、というこ
とで暇なときゆっくり読んで下さい。何分にも昔語とつき合うのは、芯がつかれ
る。 覚 今般非常之形勢ニ付、御大事之儀出来候ハヽ下新田詰より迅速注進可有之、何れ も永住日頃之御恩儀を省ミ銘々之安危ニも相抱候事故、事ニ臨候ハヽ身命を抛ち報 恩之働可有之事 として「一、何々」と書いているが、私は縦書きを横書きにしているので、「一、 何々」とすると何んとなく煩雑なような気もするので、先のように、「○何々」と 書くことにする。 ○下新田詰役より下沢本番江注進有之候ハヽ直ニ大本番田郡獅子沢赤沢迄通達可有 之事 但下沢本番ニて小太鼓用意、注進之者続キ早打沢登リ御台所赤沢迄同断之事(同 断とは、右に同じという意味のようです) ○用意之品は 縫〆 股引 袖なし 鉢巻 手拭 腰帶 女(草冠+女)子入 火打之類 笠 けら 草鞋 甲かけ 足袋 (縫〆とは針とか糸とかハサミといった裁縫道具ではないだろうか、私達が兵隊に 行ったときも一揃い持たせられていた。女(草冠+女)は国字でタバコ) ○得物は銘々得手なる物持参之事 柄長鶴 棒 鐇 (さてここで困った。得物は各人え手なものを持ってこいといわれても、柄長鶴は 当っているかはわからないが柄の長いツルハシとして、棒は棒。わからないのが 「鐇」(チョウナとも)……) ○三四入瓶子銘々用意持参之事 (瓶子(へいし)。辞典を見ると、酒を入れて注ぐのに用いる細長く口の狭い瓶。 とくり。神社に行くとよく御神酒を入れている、あゝいうのだろう。戦さに行けば 水のないところもあるだろうから、水を入れて行くのに使ったろう。今でいえば水 筒だ。とっくりといえば、1升徳利を思い出す、酒や醤油を入れていた。) ○梅干用意之事 ○夜中は勿論昼共丸飯用意之事 (丸飯とはニギリメシのことだろう。今はノリでくるんだ三角が主流みたいになっ たが、私達が子供の頃は丸いニギリメシだった。遠足に行くときなどは、塩かミソ をつければいい方で、梅漬か塩ビキを入れたヤキメシだった。ノリは昔からあった と思うが、下タ沢などにはいつ頃入ってきたろうか。今のようにふんだんにあると いったものではなく、我々貧乏人には口に入るしろものではなかったような気がす る。ともあれその丸飯はなにに包んで行ったろうか。) |