鹿友会誌(抄)
「第一冊」
 
△祝詞   正員 内田平三郎
 我皇国の形勢一変して以来、年尚ほ久しからすと雖も、国運日に月に文明に進み、 駸々乎として駿馬の馳るか如く、特に教育上の発達は著しく、 人をして一驚を喫せしむるに足るものあり、 形勢既に此の如し、故に各地方より帝京に蝟聚したる学生の聚合団体亦多し、 吾同郷年輩諸氏亦先きに一団体を組織したりしに、今又茲に会誌を発行して、 以て吾等会員の鴻益を図らんとするの企てあり、是れ実に吾等の感謝に堪へさる所なり
 
 夫れ人は徒に飲食を仰き、以て生活を遂くへきのみにあらす、必す他日宿望を達し、 名声を天下に得、以て各為めにする所あらんと欲するものなることは、 吾不肖の言を待たすして明なり、果して然らは、何に依りて其宿望を遂けんか、 必す善く其才を磨き、智を開き、而して其団体に於ては、各自智識の交換を図かり、 以て長短相補ふの方便に因らさるへからす、吾同郷年輩の諸氏、茲に着目し、相謀りて、 鹿友会なるものを組織し、其秩序の整然たること、他郡の遠く及はさる所なり、 然りと雖とも、吾常に思ふ、如何に能弁なりと雖とも、如何に学識ありと雖とも、 文章拙劣なる事は、如何なる名論卓説も、人をして其意を充分了解せしむること能はさるものあるへし、 而して吾等文章の鍛錬場は、会誌の如きものありて然るへしと、然るに吾常に之れなきを憾みしに、 今や鹿友会誌の発行を見るに至りしは、吾か欣喜に堪へさる所なり、 因て文の拙なるを顧みす、聊か蕪辞を陳へて、祝辞となす

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