鹿友会誌(抄)
「第四十一冊」
 
△五十周年の回顧録
○既往を追懐して郷土青年に檄す   石川漣平
 本稿は、高橋毛馬内小学校長の依頼に応じ起草したるものなるも、時恰も鹿友会の要求 もあり、毛馬内青年のみならず、鹿角青年にも呼びかけたいと考へ、寄稿したるものなり。
 
 吾人の青年時代には、先輩諸賢より屡々聞かされたる言葉があり、今尚耳の奥に残って 居る。それは、「皇国の将来を負担するものは、君達青年である」。「青年の志気の振否は、 日本将来盛衰の岐路である」等々にして、盛に鼓舞激励を受けたものである。
 
 然るに当時青二才の吾人はまだ修学最中にして、社会の経験も無く、日本を脊負って立つなど 出来さうにもない。夫れにしても明治維新時代の志士が、似通った年輩でありながら国事に 奔走したのは、実に敬服に堪へなかった。兎に角先輩の鞭撻に励まされて一心不乱に勉強もし、 僚友相輔け相戒めて修養に努めたものである。献身報国の熱意と質実剛健の気風とは、実に 当時に於て培はれたものと、転た懐旧の情に堪へないと共に、感謝の念が燃え上る次第である。
 
 次て自分等が壮年となり、老年となるに従ひ、先輩激励の真意が漸く判明し、現時の日本を 荷ふて、今日迄歩いて来たのは我々であった事が明瞭となり、先輩の言葉が成程と合点せらるゝ様 になった。

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