鹿友会誌(抄)
「第二十七冊」
 
△關達三君を憶ふ
 夫故、君が郷里に帰って静養して居られたことをも知らなかった様な始末、今更面目ないとも残念とも いひ様がない訳である、
 併し夫は兎も角もとして、大正十三年二月二十八日といふ凶日に、君の愛児東一君より、驚くべき訃音を 達せられた、即ち君の死である。予は黒枠の中に君の名を見た時は、アッと一声を発するを禁じ得なかった、 之を聞いた妻も驚いて、予の側に走り寄り、何の事ですか、あの人がとうとう困った事をした、惜しい事を した、と連発の果は、只沈黙の悲哀に陥った、そして君の一家の愁傷と又内外の混雑とに思ひを走らした、 嗚呼君、真に死せるか、嗚呼君仮りに眠れるか、前途を有し、将来を望める君にして、其の今日あるは、 誠に夢幻の心地ぞする、思へば天なり命なり悲しい哉、悼しい哉、君の清節は昨と表はれ、 君の温容は今と現じ、万感交々、胸間を往来して已む時なし、
 噫、君の死や、關家一部の損失にあるまじく、郷土花輪、将来の損失は勿論、社会の為、予は切にこれを 惜む、君の郷里の先輩として石田男爵あり、最近の成功者として川村竹治兄等あるも、いづれも相当なる 学歴の順序に依れる、力少なからずして、而も郷土との縁故頗る疎遠の感なき能はず、君は之に反し、 自学自修に依り、自奮自励に由り、郷土と親しみつゝ、併せて将来あらんとせしなり、真に惜みても余り ある事とや申すべし、
 自ら男しからぬ愚痴をくりかへす様思へど、予は真に能く君を識る一人にして、予を真に解し呉れしも、 君なるを思へば、拙を恥じ劣を顧みる遑もなくて、君を憶ふの一節となしぬ、予が年方さに耳順に近し、 希くは君が清節に倣ひて、正義の一路を辿らんのみ。

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