佐庄物語「旧盛岡藩華族南部氏兇悪大略」

△大日本大名諸侯の中に於て人民の財産強奪したる者南部利剛壱人也
予は汝等、不法強奪財産の返還を需め、東京下谷治安裁判所え勧解を上願し、 勧解吏の動作、始め公正にて、後ち変じて公正ならず。 半途に不調し、之に依て、東京地方裁判所に本訴の要求に及ぶ。 始め専任判事補黒川正治の公正なる対審を、予は感服したるに、 反対して半途に変じ、対審を中止し、曖昧不当の裁判を受け、 予は不服に付、東京控訴院に控訴提起したり。 始めは今村信行の審理上、予、代言人の云ふ所を聞くに、 温順公平なる由を聞く。然るに係官の更代の沙汰無く、 小杉直吉、事件を左右し、対審甚だ穏当ならず。 且被害原告を憎むの甚しき圧制威力、言外に現らはし、直吉云く、 封建時代、大名は生殺与奪権を有し、財産押取の如き、何国の大名にも多くある事なり。 此の如き訴訟に原告を勝たしむるに於ては、此類多数訴訟起る事は云ふ迄も無きものに付、 注意警戒する旨相示候由。 秀俊より承知し、予、惟ふに、凡、民事裁判官たる者、国民訴訟、警戒防止に勤むる職掌に非ず。 既に我大日本政府は、国民に訴訟を許す。 訴訟用紙印紙迄も発行せられ、原被両造に起る権利条理に由る事件取上、 公明裁判を与ふるの法例也。 且管理長官ありて区分せり。小杉直吉一人、国内担任するに非ざる、成規国民の知る所也。 然るに小杉直吉は、愛憎の情を含み、口頭に圧制不穏の壮語を発し、何等の権を以て、 国民の訴訟防止するや。又法席に於て被告を勝たし、原告を負けさしと云ふ放言の不正言語なり。 又小杉直吉云ふ如きなれば、封建の世、則丁卯以前、封土に住する大名なる者は、 野蛮相極め、人を殺害し、人の財物強奪する山賊強盗の如し。 小杉直吉は、何国に出生し、何業に従事為したるや知るに由なしと雖も、 決して然る所以の者無し。 如何んと云ふに、封建の世と雖も、我皇帝は、一政府を置かれ、国制を定め、 改権御委任、国民を保護せらる。 古来と雖も、我大日本は、無政府たる一例無し。然るに南部美濃守、封土奥国に在て、 何事も隠匿する上は、政府も知らざる者の如く侮り、 百般大名以外の無作法なる。 淫慾に、奢侈に、恣に政府掟に定める制限を犯し、国民の財物を強取したるは、 大日本国中の大名諸侯の例に無之に付、予は之を見るに、 山賊強盗の所為と認むる者也。 加ふるに封建の世、大名諸侯、生殺与奪権を有せしとは、事実無根の放言也。 既に前政府に於て国事犯罪人、天下制禁物件の外、闕所為さず。 大に闕所物件の重き、容易の物にあらず。 依之、闕所物奉行を置き、管理保護し、常に経費支弁に為さゞる法例也。 右の御規定に依り、町奉行公事方、御勘定奉行、及遠国奉行より闕所物奉行へ引渡し、 闕所物所分の干渉為ざるものなり。
 
前政府に於ても、人の生の重き、容易にあらず。 故に罪囚死刑執行掌る者、弐本国に於て、江戸車善七一名に限る者也。 諸侯領分に於て、罪囚死刑は、江戸より車善七を迎へて執行すべき所、経費節減の為め、 牢番又は穢多非人を以て善七の代人と定め、死刑執行毎に、善七往復費として礼金送附し、 之を善七家督収入となせり。 故に死罪の者に生を与へ、無罪の者の生を奪ふを得ざるは、汝一家児巳ならず、 諸侯百般の法例也。 凡、我大日本国に於て、予と同視すべき者あるやむしや確むる為め、 予は国内経歴して、探知し、加州金沢に至り、前田家に於て銭屋五兵衛財産闕所の実を聞くに、 五兵衛は露国人と海上交易を行ひ、天下法度の罪を犯したる実を発見し、前田家に於て 政府御尋に対し、申開難立、之に因て犯罪人銭屋五兵衛主従、死刑財産闕所処断せり。 然と雖も財物の内、御制禁舶来品を没収し、其他の財産一切、遺族へ還附、家名を被立たり。 函館に至り、松前家に於て高田屋五兵衛、財産闕所の実を聞くに、五兵衛は、 天下の法度を犯し、海上貿易を行へ、密かに露国へ渡海し、 大に日本の障害を来し、既に松前家は、羽州山形に国替被仰付、 蝦夷地一円、政府の直轄に相成り、後、松前旧領に復活して、高田屋五兵衛、財産闕所せられ、 公義御法度舶来品を没収し、本人高田屋五兵衛は出奔して、函館に在らずと雖も、 其他の財産、函館築島地に至る迄、悉皆手代の者え還附せられたり。 八戸に至り、南部左衛門尉は、八戸町豪商楢崎屋半兵衛を牢舎申付、財産闕所申付たる実を聞くに、 江戸表に於て南部左衛門尉嫡子、正式登城之用意に付、楢崎屋半兵衛え要金申付たるを、 藩兵衛は固く辞し、為めに用意整はず、時機誤りたるを、父左衛門尉、憤りに因り、 半兵衛を右の刑に処したりと雖も、 政治法例に非ず。故に半兵衛を放免して、財産還附す。家名立られたりと聞く所也。 泉州岸和田岡部筑前守は、鉄砲師某の財物を押取の実を聞くに、 岡部家に於て鉄砲師某え鉄砲買入れを命じ、然るに古物を買集して、寸を切詰、 危険の品相納、不当の利益を貪りたるに由り、兵士の憤りに、潜伏の鉄砲師某引捕へ、 打殺して松林に死屍を焼捨、家宅に至り暴行、財物押取したるを、遺族は政府に訴訟し、 御取調の上、財物償還、且家老へ謹慎仰付られたり。 右の外、大日本国中大名諸侯に於て、国民の財産闕所の成跡一切無之候。 此の如く、日本国大名諸侯に照準し、汝の所為を視れば、汝は大日本帝国に於て、 無類の兇賊也。 予は、日本全国に於て、無類の被害人なる事実証明する者也。

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