佐庄物語「旧盛岡藩華族南部氏兇悪大略」

然るに汝等は、東京に於て裁判所え対し偽りて包蔵し、 之を審理する東京控訴院裁判官小杉直吉、今村信行、津村薫等が文書言語、 区別解釈する能力無き而巳ならず、国民の人命財産保護の任を有する裁判官の挙動を怪み、 果して被害の原告人え大に妨害を加へたり。 今日の法律を旧法律に比するに、今日の法律書明文綿密を加へられ、 強窃盗の刑の軽きを知る者也。 他は厳にして重きを加へたるの情状あり。 今日裁判官愛憎の意なく、正実を誓ふるを以て法律の原則とするは、法律の神聖なる所以也。 然るに小杉直吉は、法律の精神と法律の原則を知らずや。 愛憎の意を表現して、専一とす。予は審庭に就き、代言人等対審の傍聴を視察するに、 連席三人の中に於て、 小杉直吉独り悪意を現前面部に顕し、口頭に吐露して、威力を張り、 更に文書の字意を解せず。 単に被告代言人の作弁を容れて、原告代言人の陳述を拒み、従前と雖も、現時と雖も、 其称号の異ならざる。 家屋内に現在する家財の事を、小杉直吉が解釈するに云く、 家財と云ふは家のたからと書く、財産一切の総名なりと圧制指命を下し、曲庇の弁甚しき。 法律の精神惑乱の妄語なり。 東京控訴院の体面を汚涜するに拘はらず、被害人に害を加へ、 本件は則明治政府継続の裁判事件に付、第一に習慣と条理を以て裁判の目的を定めらる可き 裁判法例にて、裁判官たる者は、愛憎の意無く、精実に誓へて、公正の裁判を与るの外無き者也。
 
然るに小杉直吉は、南部家旧領分に施行したる律令の件、習慣条理の件、 南部家旧領分の通称通語をも異なる件、予て其取調をも為さず、裁判官の職、何れにあるや。 南部利剛は、家来に与へたる家来家禄を称して身帯と云う。 然るに小杉直吉は、身帯と称するは、財産の総名也と云は可笑、身帯と書くも、 身代と書くも同様のもの也と裁可指定の弁を下したる。 小杉直吉は、大日本国の通信節用集の一見もなきや。 闕所と云う文字あるを知らず。闕所と云ふ通称あるも知らず。 身帯と身代と別ある文字解釈、裁判官の必要を知らずして、 被告代言人岡山兼吉の教唆に勉め為したるや。若くは携帯弁当の食障に精神蒙晦したるや。 被告人等提出言渡文に対して、小杉直吉云ふ如き、身帯とは財産一切の総名に候はゞ、 家屋敷家財の二重文字を記載するの必要無きもの也。 又家財とは財産一切の総名に候はゞ、身帯家屋敷の二重文字記載するの必要無きもの也。 又小杉直吉は、高等官の俸給を得る任職とするも、 予は国税に属する巨額訴訟印紙を貼用して需めたる訴訟也。 然るに旧捕虜偽て現政府へ引渡したりと、詐欺の弁を喋々するも、 裁判官は其筋へ照会の職分を尽さず。 揮て加害者汝の不利益は不問に付し、原告を妨害したるは、重々予の憎む所也。 彼の控訴院に於ては、華士族平民の区別を以て、 裁判官は斟酌待遇するの法衙に非ざるを信ずるに、案外千万なる小杉直吉の妨害に因り、 名誉を害され、国益起業、公益目的の根本を汚枯し、人間天賜の生を空ふし、 邪正を糺して、飽迄之れが回復を望む。 旧捕虜、利剛氏新捕虜を見て悔悟改心すべし。

[次へ進む]  [バック]  [前画面へ戻る]