佐庄物語「旧盛岡藩華族南部氏兇悪大略」

△東京控訴院小杉直吉は本訴を曲庇せり
曩者に局外者干渉の裁判不服に付、代言人川村秀俊を以て東京控訴院に控訴に及び、 専任官は今村信行の担当なりとの通知を得たり。 本件は、多額訴訟印紙を貼用の大事件なるに由り、 大に諸人耳目を洒く所の事件に付、種々の説を聴し、然るに小杉直吉は、予を評して、 大悪人と称し、恩を蒙りし主人を相手取り、出訴なせしは憎むべきものなれば、 決して裁判に勝を取らしめず、負けさしてやると、誰れ人となく語りし説を聴く。 予、甚だ不審の念を起す。 数月間、原被告の対審を等閑に附したる而巳ならず、 小杉直吉が説の不審なるを確かめんと欲し、代言人川村秀俊を以て、 専任官今村信行へ原被の対審を促す。代人と同道審庭の模様を視るに、 出席判事三人の内、弐人は一言の言を発せず、一人の動作に、予が代人に対して云ふ事、 芝居に視る大悪判事の良民を曲庇する悪姦に似たり。 汝等の代人岡山賢吉に対しては、反して主従の如し。 其愛憎の甚しき醜体を現じ、東京控訴院本件専任官今村信行の無作法を視察し、 此模様にては、予は利なきを認め、代人の袖を引きて退庭し、 予の聴く所、直吉に非ず、悪人は今村なりと語るや、代人は否な然らず。 今村、無言にて彼の小杉に圧せられ、無言にあり。独り言ふ者は小杉直吉なりと云ふにあり。 予は之に驚き聴く所、小杉直吉は、岡山兼吉とは常特別の交際もあり、小杉より金策等も 岡山へ依頼し、小杉は元は旧幕同心の類にて、悪弊世上名高き人物に付、 急に忌避ありたしと、代人に依頼したるも、直吉は早くも察したるや、 忌避願を防止し、゜曲て翌日不意に本件裁判言渡を為すたり。
 
加害強賊取材本犯、汝の勝利軋轢電光、果して衆説、以前に聞く所に異ならず。 小杉直吉は、国民妨害人たる実を知る。 之に因て大審院に上告を見合せたり。直ちに神宮に奉告して、神之非礼を受けざるを信じ、 予、斃るゝを待て、一念悪漢之天誅を祈念し、而して報ずるに、予は、神州固有之精神を以て、 労力を両神宮神苑開設の努力に換へ、以て大審院へ上告の経費準備金は、 此の努力冗費自弁に宛てたり。 起業に際し、予、按ずるに、伊勢神宮へ奉納古判五拾枚金刀平奉納古判五拾枚、 汝は、盗取りたり。則其小判の包紙に奉納金と封の表に記載あり。 右弐包、予、住宅神に納め置きたるを、汝賊徒等、之見出して盗取りたる者也。 右伊勢神宮奉納と記載ある小判五拾枚、金比羅山奉納と記載ある小判五拾枚盗取りして、 此の家屋内は何所にても金のある家なりと、仏壇の底迄も破毀し、水屋の溝の泥の汲出し、 大便所の大便を汲出し、金を得んとしたるは、政事の書道には非ずして、 其実穢多の挙動也。 佐藤屋庄六家宅内に、現在の物件は庄六一己の所有に止まず。 社寺及諸人の預り物件あり。返還の義務は、予の免れ難き義務を今日に有する者也。

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