佐庄物語「旧盛岡藩華族南部氏兇悪大略」

△東京府華族南部利恭不正之栄華
利恭氏、汝の実祖父なる者は、何者の人種と知るや。 其祖父は、南部氏の血脈を盗み、偽て南部家横領したる盛岡浄土真宗願教寺僧侶修礼也。 其修礼の実父は、茶道坊主にて、実母は油売の妻也。 則茶坊主と油売の妻■に出生したる修礼なれば、普く盛岡に於て隠し掩う能はざる者也。 悪姦人種修礼に良心無く、無良心の子利剛氏も又、無良心也。 其無良心なる利剛氏の子利恭氏の無廉恥なる、云ふ迄もなし。 南部家血脈断絶後の三世、天下に一大恥辱を顕揚して、其恥辱たるを知らず。 今日文明の世途に際会するも、国家の恩命を知らず。 治世を顧るの道理を弁ずる能はず。 如何に悪姦無道人種とは云へ乍ら、汝、三世悪業世界稀有の人間なりと、予が思想する是なり。 既往と雖も今日の如く血脈連綿は、一家の名誉也。 土人も又然り。上下人間所有財産は、名誉保全するの必要欠べからざる制限あり。 領主の授与財と、民間の私有財との区別明白にて、領主の授与物を身帯秩禄と云也。 良しや強売にも表面授与の名分を付し、主、与奪の権利を有し、常に売買禁制也。 身帯と無主人、独立普通売買身代財産と大に異なる物なり。 領主、家来へ与へたる身帯には、従前財産の名称無し。家来奈良伝右衛門、身帯家屋敷を取上げ、 家来席名義塗抹したる件に対しては、良しや巨額金を以て買へ得たるにせよ、 予は之を要求するに非ず。則曩きに変換要求為したるものは、主人家来以外の独立国民貢税を納め、 天下の軍役国務に要する国民の私財也。 則私財主佐藤屋庄六は、所有通財産の返還を、主賊汝に相係り訴求為したる者也。 則其当時、世上に身代と云う人民所有に限る者也。
 
然るに小杉直吉云く、帯も代も同一の文字也、と云は、恰も馬も鹿も同一の者と云うに異ならず。 良し、小杉直吉は、学問無能力にて知らず。虚を以て実と知るも、無心経に此字に別ある事は、 疑はざるや。 盛岡の者は、如何なる無学の者と雖も、士分知行身帯と、人民財産身代との区別を知らざる者 無之候。故に一般の人は、汝、奪ふの権ある物、汝に権なき物とを知り、 汝に奪ふの権なき人民の身代財産を強奪して、金品を持去り候に付、 人民は汝を見る、山賊強盗と認め、侮て庄六の貸付ある財産は、借主村民等に横領せられ、 村民等は汝盗賊暴行混雑に乗じ、物品隠匿し、庄六手代等は、汝の暴行を前知して、 必要帳簿焼捨たるを幸に、多人数の領主借主は、横領し得らるゝ限り隠匿して、 盗賊之臓物を盗み、相以て包蔵し、然りと雖も汝手下の徒賊等、之を知る能はず。 又之を制する能はず。 一般土人の侮りを蒙り、汝等陋醜手段は、皆人に前知せられ、従賊手下は、 利剛の挙動常ならざるに乗じて、賊役人各自、窃取隠匿して、汝に偽り、 予の親類等は、汝に得せしめんよりは、自己に得んと自盗して、八年の後、 予に答ふるに、偽て本賊汝に譲り、其当時利剛は予を繋留して、予は家に不在なるを幸として、 家に出入したる者として、盗賊に非る無く。汝盗賊、一層大金を得んと、大便所の大なるに着目し、 日々数十人用する大便を汲出し、大便所の底迄探し、大便代金を得たりと。 大便は家財に属するや。家屋敷に属するや。醜聞も又甚し。 本賊去って後ち、柳屋善六なる者は、予が土蔵へ埋め置たる純金を堀採し、 彼れ隠匿して豪商と成り、然りと雖も本賊利剛、之れを責むる能はず。 庄六之財産百万両を得んと、主賊の先見大に誤り、実際汝の手に強取入額百分の幾分也と聞く。 実に予は驚きたり。汝主賊夥多盗賊を利益せしめたるは、恰も強盗の灯提持為したる如し。 然りと雖も、盗賊にして盗賊を責るの道無くして、止みたるは汝国主の権利、 何れにあるや。盗賊に公権無き証、則之也。 今日世上、盗賊賍品賍金を得る者多しと雖も、重罪軽罪盗賊の子孫、富貴なる者あるを知らず。 汝等も則ち此一類に在り。然らば汝等、予を恕して、汝等の悔悟を示諭し、 予、得心の示談を為すべき人倫の道なり。然るに飽迄も二十万石の国主を気取り、 旧国主へ対し不敬の照会と自称し、日本人民以外の返答、及、池田弥市、小杉直吉等 弄落して、後日彼等賄約を要求し得ざるを知て、縁族の軋轢を利用したるは、 甚だ今日社会の憎む所也。

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