佐庄物語「旧盛岡藩華族南部氏兇悪大略」

△華族南部利恭氏以上三世継続消息各項目に掲げて利剛氏利恭氏に諭告し、 既往現行悪業悔悟改心の資料に呈す
夫凡人間世上に貴重なる者は、身家の安寧と名誉に二者にあり。 蓋し安寧外の名誉は、独り其永遠を保つ能はず。 而して名誉外の安寧は亦、其悠久を有する能はず。 是を以て二者相須て而して後其功用を相為しや。 尚し然りと雖も、是を得るに無道にして得るにあらず。無徳にして得るにあらず。 勧善懲悪の為せる所に非ずして何ぞや、富と貴きは、皆人の欲る所なり。 是を得るに何ぞや、南部信濃守利済の富貴は、何を以て得たるや。 南部美濃守利剛の富は、何を以て得たるや。 決て人事を以て得たる富に非ずして、人間社会甚だ忌み嫌ふ不潔の富なり。 人倫の大禁を破乱したる者なり。其実甚だ野卑隠謀、人倫の業にあらず。世に類する品無き者也。 汝今日に隠悪を存する如きは、土に算ふる。而巳、予、深く察する所なり。 皆是汝の行ふ所、人道の許す所無き者也。 又是、小瞻にして高の知れたる領民の財を強奪したる如き、其要する道を知らずして、 一己淫欲奢侈に止め、其一身に報ゆる所、進歩して大逆無道の人となり。 狡猾に不如意を表し、家来に家禄返上せしめ、自己一分妻妾子を愛するの外、 他を顧るを知らず。汝より出たるものは、汝に帰るの需めに、 頑冥不霊恰も当世の支那人根生の如し。 諸の悪性は皆汝等の附属性たり。能く其特性得られたりと云ふべし。
 
既に曩きに汝に相係る訴訟の際、東京控訴院の支那人根性の裁判係は、 花輪正摸なる者は不忠ものなり、悪人なりと罵倒したる趣は、耳にせし所なり。 彼れ我に対する罵倒は、予、甚だ名誉とする所なり。 則人間にして、皇土に命を禀て生存する者、逆賊朝敵に忠を尽す者は、 此の世の動物にも不如を信じ、賊徒追討の王師に地理を案内し、 逆賊旧領の整理方を大政官行政官へ建言の如きは、我、皇土人間の常務と確信する者也。 我、政府部内途に在て、如斯放言罵倒する者、我、大日本帝国の大不忠者にして、 叛逆の悪意を有するものと、予は甚だ憎む者也。 加るに汝等、予を視るに、南部家領分に出生の人間と視るは、甚不可なり。 我は皇土に出生の人間也。我は汝に対する恩顧は、毫も之無し。 汝は復仇の敵なり。汝、我に対する三世の恩を知れよ。 我の財を以て生育したる者なり。我の生長は勿論祖先等毫も保護受たるにあらず。 代々労力に汲々として領主の用金に充て、世の安寧を知らず。 惨忍の下に遺したる天賜の姓名なり。天権の生存也。 此天権の生存を汝の為めに枉屈せられ、闇黒の苦楚に沈み、霜辛雪苦寒涙濺がざるの日は、 殆んど無りしも、冤罪牢獄に斃れず。風雨雪寒を凌ぎて山に斃れず。 荒風大濤を凌で海に斃れず。人道尽して天命を竢つ。 天の冥護に由り生を幸に、王政維新文明日進の聖世に際会するを得、 以て汝の積悪を攻むるは、天の賜ものにして、又是、皇土霊威の余恩なりと確信し、 予は其慶福徳光に浴して、昭代雍熙(冫偏+熙)の聖恩に奉答し、 封建悪世の有様を描き、後世の人に忘れざらしめんと要し、 倶に明治文明清潔なる身家名誉保有するの基礎とする者也。 謹で汝、斎戒沐浴せよ。汝の不潔にる行跡掲ぐれば、左の如し。
 
一東京府華族南部利恭、不正之栄華
一南部利恭え相係る訴訟に対し、東京地方裁判所審理蒙晦
一東京控訴院小杉直吉は、本訴曲庇せり
一世上南部家を信ずるは、清和源氏血脈連綿を信じたり
一僧侶修礼、南部利用毒手謀殺、死跡横領陋声隠蔽の原因
一南部利剛、身命の大恩者陸尺長吉を惨刑す
一卑賤人種は上淫を好むと、盛岡士民の流言
一大隈重信氏、清和源氏の血統を望みたる之説
一利剛氏の父母四子出生の後、生涯別居不通の理由
一南部鉄五郎、実兄謀殺未遂私擅監禁十七年
一盛岡義士浅石市太郎、南部鉄五郎討て窮民を救はんとす
一封建藩閥制度の実を挙て、今日国民の冥護に感ず
一悪人に信義無く、悪人に孝子無し
一南部領分退去窮民の親分、田ノ畑村喜蔵の物語
一盛岡願教寺僧徒修礼と徳川天一坊との比較説
一南部家に於て、前田家に対する敬礼の来由
一南部利恭被告、事件証拠物として東京裁判所え提出言渡書を弁駁す
一南部利恭、血脈を詐欺して、朝廷の恩典を騙取す
一加害者南部家え対し、被告怨仇を報ずるに努力す
一大日本大名諸侯の中に於て、人民の財産強奪したる者、南部利剛壱人なり

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