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「鹿角」 |
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△十 鹿角町村巡り <七瀧村> 七瀧村は、毛馬内町の北、小坂鉱山の南に隣り、十和田湖の勝を包含して居る。 曾つては人類社会の重大問題として、国家的不祥事件をも醸成してあった足尾銅山煙毒 被害区域の惨状窮り無い如く、小坂鉱山の隆昌に向ふに伴って、次第に虐げられて行った 接続町村たる本村中山根、上向方面に於ける住民の生活ほど、今日哀れむべきものは 無からうと思ふ、上向方面に赴けば、屋根は傾き、軒は崩れ、人の住むべき宅地の多くは、 鉱山に買ひ取られ、畑は萱を以って埋もり、秋風常に蕭条、住民は顔色憔悴して生気乏しく、 歳々居を畳んで祖先の墓を顧るの遑まなく、殊に鉱業界不振の今日、働かんとして日々の 仕事を見出すに難く、徒食の者多く、さらでだに窮迫して行く者の我同胞中にあると したならば、悲しむべきことではあるまいか。 彼等は怯情であり、酒を好むと云ふて咎むべきではない。 彼等は将来に於ける聊かの希望すらも享受、否な与へられて居ない、哀れむべき人々の 群である。 如何にしてか彼等を救済し、彼等に慰安を与へ、善導して自棄の淵より拾ひ出し得るで あらう、重大なる社会問題である、鉱煙毒の被害に依って、農作物の生育叶はず、荒廃した 畑地山野に、自然に生育した萱が近年、多量青刈りとして陸軍の馬糧に移出せられ、冬囲ひ 用としては萱簾れが製作されて、七瀧の名物となった。 葦名澤、高清水方面は、青草豊かなるを以って、古来有名な馬産地にして、葦名澤には 郡外に迄、馬神として知られて居る観世音が祭られて居る。 |