「桑の實」
 
〔出陣ののち〕
千早振神のみことをかがふりて
  いざいで征かむ烈しとふ場へ

吾がうからやからをあげて一筋に
  仕へざらめや吾が大君に

大君の醜のみたてと召されては
  なほ忘るべし家をも身をも

人知れず雪降る夜に吐く息は
  生命の燃えのかなしさのゆえ

人の子と生れしわれは至らざる
  足らざる多し許させたまへ

罪けがれ日毎につみぬせめて吾が
  死にゆく日だに美しくあれ

あかあかと燃ゆる火群(ほむら)よ秋の山の
  そのあかあかと燃ゆる吾がむね

山峡に咲ける花かもその乙女
  静かなる乙女歌詠む乙女

芒穂に月かたぶきぬうつそみの
  深きなげきも今は言ふまじ

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