5514犬の爪皮ツマカワ
 
                    参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角の伝説」
 
 葛原のある家の娘が、扇田オウギダ(北秋田郡比内町)に嫁に行きました。
 大変稼ぐ良い嫁であったために、姑婆シュウトバアさんが気を遣ツカって、犬の毛の爪皮の付
いた、立派な下駄を買ってやりました。
 ところが、その下駄を買って貰った日から、嫁は腹病んだり,頭が痛くなったりして
稼げなくなりました。
 嫁が買って貰った下駄を履ハいて、遊びに行きたいために腹だの、頭だの痛がるものだ
と思った姑婆さんは、カンカンに怒ってしまいました。
「お前みたいな者は、追い出す(離縁)ので、早くこの下駄履いて実家に行け」
と言って、犬の爪皮の付いた下駄をぶん投げてやりました。
 
 嫁は仕方無く下駄を履いて、葛原へ帰ろうとして、下駄を見たら、立派な犬の爪皮の
付いた下駄でした。
 嫁はその下駄を履こうとしたら、大変な腹痛ハライタになって、上がり端(家への上がり
口)に倒れてしまいました。
 姑婆さんは、益々怒ってしまって、
「お前みたいな病気持ちの怠け者の嫁は、早く家へ行け」
と言って怒鳴ドナりました。嫁は、ようやく声を出しながら、
「婆さま、婆さま、何とかして今一回だけ、俺の言うことを聞いてけれ。あの下駄の爪
皮を見たら、急に腹が痛くなったために、何とかしてあの爪皮を取ってたもれ(給え)
」
と言って、泣いて婆さまに頼みました。
「折角良い下駄を、俺が買って来てくれたのに、この嫁はケチ付けて可愛くない」
と愚痴グチを言いながら、婆さまは犬の爪皮を取って投げてしまいました。そうしたら何
と、嫁が今まで病んでいた腹は、ケロッと良くなって、また元のように稼ぐ、いい嫁に
になりました。それで、離縁もされませんでした。

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