5510ガマ仙人
参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角の伝説」
昔、草木の奧の天原アメハラの沢に、ガマ仙人が居ました。
ガマ仙人は、赤子アカゴ位のもある大きな蝦蟇ガマを飼い、何時イツも可愛がって、養育し
ているのでした。
ところが、その蝦蟇の頭には、どんなに暗い夜中にもビカビカと光る宝石が付いてい
ました。それでガマ仙人は、その蝦蟇を大事に育てていたのでした。
ガマ仙人は夜になれば、この蝦蟇の頭に付いている宝石の光を使って、草木川にいる
鰍カジカをみんな集めて、鰍を沢山捕ってしまうのでした。捕っても食べきれないので、
村の人達にも分けて食べさせてやって喜んでいました。
このガマ仙人は、歩くにはとっても早く、盛岡まで他の人が五日もかかるところを、
一日で往復して用を足して帰ると云う、早業ハヤワザでした。
またこのガマ仙人は、木登りが好きで、どんな木でもスルスルと登っては、
「あっ、盛岡火事だ」
とか、
「何処ドコ何処のお方(妻)が昼寝している」
と言って、遠くに離れている家の事を大きな声で叫んで、みんなに教えていました。
また、自分の姿を隠す術を覚えていて、道端で村の童等ワラシドモと遊んでいて、急に姿
を隠して、
「見えない、見えない、居なくなった」
と大騒ぎさせて置いて、自分は木の葉の蔭に隠れて、笑っているのでした。
ある時、ガマ仙人が居ないと思って、下草木のオド(男)が天原の沢に行って、大き
な蝦蟇を捕って、蝦蟇を殺して頭から宝石を捕ってしまって、
「俺オレ、宝物を持っている」
と言って喜んでいました。
そうしたら、其処ソコの家の人達は、蝦蟇を殺したオドから順に、お方や子供達までみ
んな死んで、死に絶えてしまいました。
「蝦蟇の宝物はおっかない、祟られる」
と言って、村の人達は大公路ダイコウジの屋敷の小さなお堂を「神様」の下に埋めてしまい
ました。
ガマ仙人とは、冬に狩りした左多六さまが、夏にはガマ仙人に姿を変えて、蝦蟇を養
っていたのでした。
下草木の大公路の屋敷のお堂には、荒神コウジンさまが祀られていて、昔は下草木の人達
は、みんな集まって拝むのでした。
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