5510a木の葉隠れの子孫
参考:鹿角市発行「十和田の民俗」
ガマ仙人の一族で、二本柳の村に、木の葉隠れの術を体得している若者がありました。
何時も子供達を相手に遊んでは、木の葉に隠れて、みんなをからかって遊んで居まし
た。
やがて、木の葉隠れの子孫も、一人前の若者になったので、
「俺は、こんな山奥の村ッコに居るような人間ではない、江戸へ行く」
と言って、二本柳を去り、上方の方へ行くことになりました。
二本柳からは、友達など何人も見送りに花輪まで送って行きました。そうしたら、木
の葉隠れが、
「お前達に見送って貰って、難儀をかけましたな」
と言って、一寸の間見えなくなりました。
そうしたら、大きな薦被りの酒樽を背負って来て、
「さあみんな、この酒ッコを飲んで、家へ帰って呉れ、これはみんなとの別れの盃ッコ
なのだ」
と言って、みんなに浴びる程酒ッコを飲ませました。
見送りに行った友達は、大喜びで酒ッコを沢山ご馳走になって、二本柳へ帰りました。
そうしたら、花輪の酒屋で、
「店に飾っておいた薦被りの酒ッコが無くなった」
「誰が……盗んだろう」
と言って、大騒ぎをしていました。
ところが、そうして騒いでいたところへ、大きな音を発てて、空っぽになった酒樽が、
ゴロゴロと転がって来ました。
「誰だ、こんなことをする奴は」
「誰だ、盗人は」
「それ、みんなで捕まえろ」
と言って、酒屋の若者達はみんなで探したけれども、どこにも、誰も姿が見えませんで
した。
その頃、木の葉隠れの子孫は、盛岡の方へ向かって、どんどん走っていました。
「二本柳の人は、『左多六様は二本柳で生まれた人で、佐藤左多六、又は佐藤六である』
と言っている」
と。
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