5505山人ヤマヒトと左多六さま
 
                    参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角の伝説」
 
 左多六さまは暫く行っていなかったと思って、皮投岳カワナゲダケへ狩りに行きました。
夜になって、たった人で寂サビしくなったので、
「山人と云う者は居ると云うが、山人に逢いたいものだ」
と独り言を言っていたら、その夜遅くなってから左多六さまの小屋に、
「けやく(友達)に逢いに来た」と言って山人が来ました。山人は非常に大きな人なた
め、小屋に寄り掛かったら、小屋が潰れるようになりました。
「左多六さまの免状を見たいものだ。何とかして拝ませてくれ」
と言って山人は何回も頼みました。
「ほら、拝ませる」
と言って、左多六さまが出して見せたら、
「むにゃ、むにゃ、むにゃ」
と何だか呪文を唱えて見ていました。そして、
「俺を何とかして弟にしてくれ。何でも言う事を聞くために、何んとか頼む」
と何度も何度も頼みました。左多六さまは、
「徒タダ(無料)だと駄目だ」
と言ったら、
「熊の子を五匹連れて来るから、弟にしてくれ」
と言って、何処かへ出掛けて行きました。暫く待っていたが、なかなか帰って来ないた
めに左多六さまは、怒って待っていました。そうしているところへ、
「ほら、これ、けやく料(仲間入りの証)だ」
と言って、熊の子五匹連れて来ました。それから、次の日の朝早く、大きな羚羊カモシカ五
匹殺して、皮を剥ハいで持って来て、
「これ、お土産だ」
と言って、ゴソッと置いて行きました。左多六さまは家に帰る時、あんまり羚羊の皮が
重くなって、皮を投げた処が「皮投岳」で、羚羊五匹の身を投げた処を「五の宮嶽」と
云うようになりました。

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