0701へそこだま物語
 
                    参考:鹿角市発行「陸中の国鹿角の伝説」
 
 ずっと昔の話なのですが、夏井の奧の小割沢コワリザワと云う処に、長者さまが住んで居
りました。小割沢と云う処は、夏井の村にある低い山の陰で、何にも見えないので誰も
住んで居ない処だと思っていました。この山のことを「かくれカグレ里の森コ」と呼んで
いました。
 この長者さまは何処ドコから来て、どうして此処に住み着いたのか、誰も覚えている人
は、誰も居ませんでした。他人ヒトの目にあまり付かない処で、手長テナガ、足長アシナガと呼
ぶ下男ゲナン、下女などを何人も使って、田や畑などを作らせておりました。
 この長者さまに、童衆ワラシ(子供)が何人か居てましたが、全部女童子オナゴワラシばかり
でした。そのために長者は、あっちこっちに嫁に出してやりました。そこで、長者さま
の事を子分け沢の長者さまと言う人も居ました。
 
 長者さまは一番目の姉娘を岩崎のお不動さま(今の岩上イワガミ神社)へ嫁にくれてやっ
たそうです。二人はとっても仲良く、幸せに暮らしていました。しかし、二人の間には
どうしたことか、何としても童子ワラシが授かりませんでした。そのうちに、お不動さまは
妾メカケを作ってしまいました。
 このことに気付いたお不動様のお方オカタ(妻で姉娘のこと)は、妾に焼餅を妬ヤいて、
妾を殺す気になりました。そこで、妾の住んでいた家の脇を流れている小さな川に、毒
を流して殺そうとして、川上に隠れて待っていました。
 暫くしたら、妾は家から出て来て川の方へ歩いて行ったので、「殺すのは今だ」と考
えて、先程なべこ石で煎じた毒汁を流してやりました。その事を知らない妾は、何時イツ
もと同じ川の水を飲んでしまいました。アッと云う間に毒が体に廻って、川の中にどっ
と倒れてしまいました。
 
 それを見たお不動さまはびっくりして、高い岩の崖の上から下りて来て、気絶して流
されて行く妾を水から抱き上げて、数十米もある高い崖の側まで行くと、お不動さまは
妾を負オんぶしたり、足に結ユい付けたりしてやっと岩の崖の上に辿り付きました。
 この昔から言い伝えられている岩の崖の上に、今でも大きな赤松の木が生えていて、
数十米も下を流れる川を見おろしているのです。また、川の側に生えていた古い藤の蔓
が岩の崖を攀ヨじ登り、赤松の天辺テッペンまで絡み付いて伝って行き、花を咲かせると云
うことです。でも、実の付かないこの藤をみて、
「お不動さまの嫁になった長者様の一番姉娘のように、幸せの花を開いても、童子ワラシを
産めない女オナゴの悲しい生涯を語っているのではないでしょうか」
と、言った人も居たと云うことです。
 
付言
一、長者に妾が出来、本妻が家を出て仙北(仙北郡)に向かう途中、岩上イワガミ神社辺り
で妾に毒で殺されかかったり、下男や下女達に別れを惜しまれ、悲しみのうちに、子供
達を連れて、仙北方面に去ったと云う話も伝わっています。
二、「へそこだま」と云う言葉は、お不動様の妻が、機ハタ(布地)を織るために使う麻
糸を裂いて繋ぎ、縒ヨりをかけて玉ダマコにして、それを沢山積んだところから、呼ばれる
ようになったと云うことです。
三、モトメ(本妻)石やオナメ(妾)石、それに毒を煎じたなべこ石が今も川の近くに
残されていると云うことです。
 
[関連リンク(岩上神社)]

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