36d 短歌文法「副詞」
とき-に(時に)@今。そのとき。例「(葉蘭根付く)時に頓狂に呼びたつる妻」
Aこの頃。折々。時々。
とつ-おいつ 「取り置きつ(取ったり置いたり)」の転。あれこれと迷って決心のつか
ないさま。例「とつおいつ心いためてかへりくる・・」
とみ-に(頓に) 急に。俄ニワカに。例「(家の内)とみにさびしくひそまりにけり」「
(吾が母)とみにめしひし人と思はれず」
と-も-あれ 何はさておき。とにかく。どうであろうと。例「よしあしはともあれ一応
まとめてよ・・」
な @動詞の連用形(カ変・サ変は未然形)の上に付いて,その動詞の示す動作を禁止
する意味を表す。例「な乱れひとへ山吹葉がちなる・・」
Aまた,その下に助詞「そ」を伴い「な・・そ」の形で「どうかして・・してくれるな」
の意を表す。例「(鬼薊)吾がをさなきが足な刺しそね」「つかねたる手のぬくとみ
にもなさはりそ・・」
な-ぞ(何ぞ) 「なにぞ」の略。口語で,何であるか。何故,の意。例「このつらき思
ひも何ぞと力みしが・・」「(生死)今直面し狼狽す何ぞ」
など 何故に。どうして。何故。「などて」とも。例「・・わが恋のすべてなりせばなど
死なざらむ」「・・夏の水などさは急ぐ永きこの日を」「・・只タダ己オノレをもなどて責め
ざる」
など-か @何故か。例「・・おもひ出のなどか今日さへ溌溂ハツラツとせる」
A下に打消を伴って,反語を導く。口語で,どうして・・のことがあろうか,の意を表
す。文末の活用語は連体形で結ばれる。例「・・正マサしくばなどか逢はざらん瞋イカりな
き吾に」
なに-か(何か)@疑問,理由を問う語。口語で,何故・・か。どうして・・か,の意。例「
とりとめてなにかかなしき知らねども・・」
A反語を導く。口語で,どうして・・のことがあろうか。なんで,の意。例「なにか泣
くみづからもわれを欺きし(恋)」
Bなんだか。例「わが心何かしきりに哀しくて・・」「(蜻蛉)なにか恐るるあかき夕
暮」
Cあれこれ。例「夜となれば何かと胸にしのび来て・・」
なべ-て(並べて)@一帯に。例「(乗鞍岳)なべてが空に只一つのみ」
A概して。全て一様に。一般に。例「(秋分のおはぎ)吾が佛なべて満州の土」「(
黄蝶)なべて崩え易くおもう夕べに」「さかしらにあげつらふことのなべてみな・・」
「ものなべて身に染シむゆふべわが船の(笛の響き)」
なべ-に 副詞「なへ」(「なべ」とも言う)に,格助詞「に」が連なったもの。口語
で,・・とともに。・・につれて。・・と同時に,の意。「なべ」とも。例「ここにして松
のひびきの澄むなべに・・」「きのふけふ南風ミンナミ曇り吹くなべに・・」「昏れ来つつ時
雨のあめの降るなべに・・」「見まほしき書フミのあたまを思ふなべ・・」
なほ(猶・尚)@やはり。元のように。依然として。未だ。例「はたらけど猶生活クラシ楽
にならざり」「(細い枝)なほし揺れをり風なき空に」
A益々。更に。例「(桂の黄葉)奧処オクガに恋ひて尚し行くかも」
Bそれでもやはり。なんと云っても。例「・・消ゆるばかりになりぬれど猶」
C下に「如し」を伴って,口語で,恰アタカも。丁度,の意。例「(偽り)人の道としい
ふべしやなほ」
なんすれ-ぞ(何すれぞ) 「なにすれぞ」の音便。どうして。何故。例「何すれぞこの
国さみしと歌うたふ・・」
はた(将)@上の意を受けて,係助詞「も」と同じ働きをする。口語で,・・もまた。そ
の上また,の意。例「山の乗鞍ノリクラ人にはたありや」「(旅)野過ぎ町過ぎはた寺を
過ぐ」「いまははた老いかがまりて誰よりも・・」
A上の意を受けて,これを翻ヒルガエす働きをする。口語で,しかしながら,の意。例「
(萱の穂)動きと見えぬはた静まりぬ」「・・かたはらに笑む桜草はたかたはらに泣く
桜草」
B対等にある文節を繋いで,二つ以上の仮想から一つを選ぶ。口語で,それとも。或
いは,の意。例「たはむれかはた一時の出来心・・」
はつ-はつ 些イササか。僅かに。微カスかに。例「はつはつ触れしものから汝がいのち・・」
「はつはつに芽吹くもありてしろがねに光る・・」「はつはつにうす紫に咲きいづる(
紫苑シオンの花)」「白梅のはつはつ冴ゆる山の空・・」
はや(早)@早く。さっさと。例「早ハヤはやも癒ナホりて来よと祈ノむわれに・・」
A早くも既に。もう。最早。例「(夏蜜柑)今年の花がはやうひうひし」「(零余子
ムカゴの蔓)病み経し秋も早ゆかんとす」「・・野菊の花ははや咲きにけり」「(距てら
れた子)はやも測れぬ背丈を思ふ」
はら-はら @木の葉,雨,涙などが,次々と乱れ落ちる様子。例「はらはらと黄の冬ば
ら(薔薇)の崩れ去る・・」「(時雨)はらはらに来て夜のしづけさ」
A髪などが疎らに垂れる様子。例「心なく引きし糸よりはらはらと・・」
B物の擦れ合う音の様子。例「はらはらと一山若葉風吹けば・・」
ひがな-いちにち(日がな一日) 朝から晩まで。一日中。終日。「日がな」とも。例「
潮風に日がな一日吹かれてる・・」「・・日がなかなしくものなど縫はむ」
ひ-すがら(終日) 朝から晩まで。一日中。「ひもすがら」「ひねもす」とも。例「・・
日すがら見えざる営為エイイのひとつ」「日もすがら鳩啼くみちのくの山のべを・・」「(
浪のとどろき)この寒き日をひねもす聞ゆ」
ひそ-ひそ 他人に知られないようにする様。人目を避けるさま。口語で,密かに。こっ
そり,の意。例「(・・屋根の小草の白き実の)ひそひそ飛びて昼の静けさ」「ひそひ
そと土手ひびかせて行く馬の・・」「燭光のただ明るきにひそひそと・・」
ひた-すら @一つ事に集中するさま。口語で,専ら。ただもう。ひたむき。いちず,の
意。例「こほろぎはひたすら物に怖れども・・」
A程度の完全なさま。口語で,全く。すっかり,の意。例「朗コゴし嶺はひたすら陰を
移しつつ・・」「汗たるる梨食ひ終へぬひたすらに寂しき・・」「(水中から水面へ)い
まだに遠しひたすら暗し」
ひた-ひた @急いで。速やかに。滞りなく。例「ひたひたと我が後より車して(来る)
」「ひたひたと夕あしせまる厨辺に・・」
A水が,物を浸すようにして打ち当たる音。例「ひたひたと夜のうしほの満ち潮シホの
・・」「・・波ひたひたと寄する夕暮」
ひに-けに(日に日に) 日毎に。日に日に。日を追って。例「日にけに野分つのりて空
明し・・」「(氷見の海の鰤・・)日に日に空は暗く暴アれつつ」
ふ-と @容易く。簡単に。直ぐに。例「生きて見じと云ひし怨みもふと忘れ・・」
Aさっと。ひょいと。素早く。例「闇の夜をふとしも吾児アコの身うごきの・・」
B思いがけず。図らずも。何の気なしに。ふっと。例「・・かなしみはふと背にやはら
かし」「ふと見ればとある林の停車場の時計・・」
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