36a 短歌文法「副詞」
 
いま-さら(今更) 今改めて。今になって。例「いまさらに身は悔いねども雨降れば・・
 」「いまさらにひとり生きるを悔ゆるほど・・」「・・今さら知りて旅にい往くも」
 
いまさら-さら-に(今更更に) 副詞「いまさら」と「さらに」が連なった語。「いま
 さら」を強調する。口語で,今改めて益々,の意。例「(・・春)いまさらさせに都し
 思ほゆ」「・・今さらさらに君ししのばゆ」
 
いま-し(今し) 「し」は強めの助詞。たった今。今こそ。丁度今。例「沢蟹のかたき
 甲らを今しいま(手に・・)」「今しいま年の来キタるとひむがしの・・」「いましも陽ヒは
 空の真中にめぐりゐて・・」「・・青葉はいまし揺れそめにけり」
 
いまだ(未だ) 「今だに」の略。@多く打消を伴って,口語で,まだ。今でも,の意。
 例「・・丘の木立はいまだ青まず」「ほぐれゆく蕾のさまはいまだ見ず・・」
 A依然として。なお。例「つばくらめいまだ最上川にひるがへり・・」「わが庭にいま
 だのこれる木の葉あり・・」
 
いま-に(今に) 今でもやはり。今だに。今もって。現在に及んで。例「・・家を守りて
 今に嫁がず」「撫子はいまに果敢なき花なれど・・」
 
いや-ひ-け-に(弥日異に) いよいよ日増しに。日ごとに。毎日。例「裏山の樹にたつ
 霞いや日けに・・」「日月はもここだも経フれどいや日けに・・」
 
いや-まし-に(弥増しに) いよいよますます。いよいよ多く。例「去年コゾ妻をなくし
 し我をいやましに・・」
 
いよ-いよ(愈愈) 前よりもなお一層。益々。「いよよ」とも。「(・・詠みかけの)歌
 が気になりいよいよ眠れず」例「雨にぬれいよいよ青き稲草の・・」「・・槻の枝いよい
 よ繁くいよいよ細し」「黒潮の落速ラクソクいよよ荒ら渦の・・」「(三十路ミソヂ・・)短き
 をかこちにけるがいよよ短し」
 
うたた(転)@物事が一段と進むさま。口語で,いよいよ。ますます,の意。例「さび
 しさのうたた湧きけり」「さゞ波さゞれ波うたてもいとど」
 A心が一層動くさま。口語で,止めようもなく。いよいよ,の意。例「(・・さびしみ
の)うたた湧きけり日のかげあかく」「(・・さゞれ波)うたてもい
 とゞ花やかにして」「・・うたた寂しき旅もするかな」・・命をもちて転たさびしき」
 「うたて」とも。
 
うつ-うつ @半分眠っているさま。居眠りをしている様。口語で,うとうと,の意。例
 「なまけ居ればうつうつ眠しはかなごと・・」「松ばやしなかに庵しうつうつと・・」
 A心が晴れ晴れしない様子。鬱陶しい様。例「うつうつと空は曇れり風ひける・・」「
 わが体タイにうつうつと汗にじみゐて・・」
 
うべ(宜) 肯定の意を表す語。口語で,如何にも。なる程。尤もなことに,の意。推
 量を表す言葉で受けることが多い。「うべし」「むべ」とも。例「まだ寒き空の下び
 をうべ今日は(蝶飛ぶ)」「(・・人の世は)うべかなしみの絶えざりにけり」「・・我
 家の方にうべやおきし鶏」「外トに立てば衣うるほふうべしこそ(夜空)」
 
え(得)@「え」の下に動詞未然形,更に打消の助動詞を伴って,不可能の意を表す。
 口語で,・・できない。十分に・・しない,の意。例「(・・夜もなほ)えも安寝ヤスイせで思
 ひ煩ふ」「・・忘るべくありてえ忘れぬ」「・・君にえたへず破ヤれぬべく思ふ」
 A反語の言い方を伴って,口語で,どうして・・できようか,とても・・できない,の意。
 例「ややありてああえや忘るその夜を・・」
 
おし-なべ-て(押並べて) 全て一様に。どこもかしこも。あまねく。概して。「なべ
 て」とも。例「おしなべて境も見えず雪つもる・・」「おしなべて焼けし名古屋に立ち
 あがる・・」「畝ウネなみに作れる菊はおしなべて・・」
 
おそら-く(恐らく) 推量の意を表す。口語で,多分。大方,の意。例「かたむきてく
 ることおそらくなきものか・・」
 
おづ-おづ(怖づ怖づ) おそるおそる。こわごわ。びくびく。例「おづおづと訪ひくる
 彼もつらあてを・・」「資金局におづおづとゐし心疲れ・・」「螢飛び蟾蜍ヒキ(ひきがえ
 るのこと)も啼くなりおづおづと忍び逢ふ夜・・」
 
おの-が-じし(己がじし) めいめい。それぞれに。思い思いに。例「・・大空に樹はお
 のがじし立ちてかなしも」「おのがじし弱きけふ日の涙をば(小鳥)」
 
おの-づ-から(自づから)@自然に。ひとりでに。おのずと。例「(月の夜)おのづか
 らなる風のおとおこる」「おのづから梢になるゝ桐の葉の・・・・」「寝入りたる姿を見
 ればおのづから・・」
 A偶然。たまたま。例「大仏の肩のうしろにおのづから・・・・見ゆ」
 
おの-づ-と(自づと) ひとりでに。自然に。おのずから。例「・・おのづとうなじ垂れ
 つつ歩む」「眼見マミむかひおのづと心沁みてゆく・・」
 
おのも-おのも(各面各面) 「おのおの」に同じ。口語で,めいめい。それぞれ,の
 意。例「空いちめん撒マける星くづのおのもおのも・・」「田の中に残る礎イシズエおのも
 おのも・・」「(牡丹の花)しづもりたもてりおのもおのもに」
 
おの-れ(己れ) 自然に。自ずから。独りでに。例「おのれ短き運を悟りて散る花の・・
 」「・・卵はおのれ輝きにけり」「ほのぼのとおのれ光りてながれたる(螢・・)」
 
おもむろ-に(徐に) そろそろ。緩やかに。ゆっくり物静かに。例「・・海亀のおもむろ
 にひらく黒きつぶら眼」「韮の葉の霜枯るるさまもおもむろにて・・」「おもむろに磯
 に落ちたる浪の音・・」
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