27b 植物を詠める和歌[草/煙草〜瓜〜福草][菌・藻]
 
[菌・藻]
 
△平茸
たいらかに平のきやうにすむ人は ひらたけをこそくふべかりけれ
                      (古今著聞集 十八飲食 観知僧都)
かへし
平茸はよきむしやにこそにたりけれ おそろしながらさすがみまほし(同)
 
△松茸
あし曳の山した水にぬれにけり その火まつたけ衣あぶらん
いとへどもつらきかたみを見る時は まつたけからぬねこそなかるれ
                        (拾遺和歌集 七物名 すけみ)
 
ほどもなく取いだせとや思ふべき 松と竹とは久しき物を(散木葉謌集 九雑)
 
松だけのおゆるをかくすよし田殿 わたくし物と人やいふらん
                           (昨日は今日の物語 上)
 
△茸狩タケガリ
紅葉は袖にこき入れてもていでなん 秋はかぎりと見ん人のため
                       (古今和歌集 五秋 そせい法し)
 
△忍草
忘草おふる野辺とは見るらめど こはしのぶなりのちもたのまん
                       (円珠庵雑記 (伊勢物語 下))
わすれ草生ふるのべとは見るらめど こはしのぶなりのちもたのまん
                           (同 (大和物語 下))
 
△蕨ワラビ
石イハばしる垂見タルミの上のさわらびの もえ出づる春になりにけるかも
                             (萬葉集 八春雑歌)
 
みよし野の山の霞をけさみれば わらびのもゆる煙なりけり(古今和歌六帖 六)
 
山守のひましなければかきわらび ぬす人にこそいまはまかすれ
                      (古今著聞集 十二倫盗 縁浄法師)
 
思ひやる二木の松の下わらび おりてきつらんみねぞしらるゝ
                           (古今著聞集 十八飲食)
 
さわらびのもゆる山辺を来てみれば きえしけぶりの跡ぞかなしき(兼好法師集)
 
△木賊トクサ
とくさかるきそのあさ衣袖ぬれて みがかぬ露も玉と置けり
                      (新勅撰和歌集 十九雑 寂蓮法師)
 
しなののや木賊にをけるしら露は みがける玉とみゆるなりけり
               (新続古今和歌集 十九誹諧歌 三条院女蔵人左近)
 
△土筆ツクシ・ツクツクシ
片山のしづがこもりに生にけり 杉菜交りのつくつくしかも(倭訓栞 後編十二都)
さほ姫の筆かとぞ見るつくつくし 雪かき分る春の景色を(同 為家卿)
 
さほひめのふでかとぞみるつくづくし 雪かきわくる春のけしきは
                    (夫木和歌抄 二十八土筆 民部卿為家)
 
△藻サウ・モ
しかの海人アマは軍布メ苅り塩焼き暇イトマなみ くしげの少櫛ヲグシとりもみなくに
                         (萬葉集 三雑歌 石川少郎)
 
△和布ニギメ・ワカメ
ひたがたのいそのわかめのたちみたえ わをかまつなもきそもこよひも
                             (萬葉集 十四東歌)
 
角島ツヌシマのせとの稚海藻ワカメは人の共ムタ 荒かりしかど我が共は和海藻ニギメ
                         (萬葉集 十六有由縁并雑歌)
 
花みればこのめも春になりにけり 耳のまもなし鴬のこゑ(和泉式部集続集 下)
 
△莫鳴菜ナノリソ(神馬草ジンバサウ)
とこしへにきみもあへやもいさなとり うみのはまものよるときときを
                       (日本書紀 十三允恭 衣通郎姫)
 
みさごゐるいそわにおふる名乗藻ナノリソの 名は告ノらしてよ親は知るとも
                              (萬葉集 三雑歌)
 
梓弓 ひきつのべなる なのりその花 採ツむまでに 相はざらめやも なのりその花
                             (萬葉集 七旋頭歌)
海ワタの底 奥つ玉藻の 名乗りその花 妹と吾と ここにしありと なのりその花
                                    (同)
 
いせのうみの いせのうみの きよきなぎさの しほがひに なのりそやつまん かひ
やひろはん 玉やひろはん(催馬楽)
 
△鹿尾菜ヒスキモ・ヒジキ・モ
思ひあらばむぐらの宿にねもしなん ひしき物には袖をしつゝも(伊勢物語 上)
 
△海松ミル
神風の 伊勢の海ウミの 朝なぎに きよる深海松フカミル 暮ユフなぎに きよる俟海松マタミル
深海松の 深めし吾を 俟海松の 復マタゆきかへり つまと言はじとかも 思ほせる君
(萬葉集 十三相聞)
 
わたつ海のかざしにさすといはふもゝ 君が為にはおしまざりけり(伊勢物語 下)
 
△石花菜コルモハ・ココロブ・トコロテン
うらぼんのなかばの秋のよもすがら 月にすますや我心てい(七十一番歌合)
 
△雑藻
紀伊の国の 室の江の辺に 千年に さはる事無く 万世ヨロヅヨに しかもあらむと 大
舟の 思ひたのみて 出で立ちし 清きなぎさに 朝なぎに きよる深海松フカミル 夕な
ぎに きよる縄ナハのり 深海松の 深めし子らを 縄のりの 引けば 絶ゆとや(下略
)(萬葉集 十三相聞)
 
わたつみのおきつなはのりくるときと いもがまつらむ月はへにつつ(萬葉集 十五)
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