24a 植物を詠める和歌[草/稲〜茅〜慈姑ヲモダカ]
△麦ムギ・こぞ草
くべごしにむぎはむこうまのはつはつに あひ見し児らしあやにかなしも
或本歌曰
うませごしむぎはむこまのはつはつに にひはだふれしころしかなしも
(以上、萬葉集 十四東歌)
紅葉ばのちるやちらぬに種まきて 卯月さ月にかるはこぞくさ(倭訓栞 中編八古)
藤川や畠の麦に風ふけば たちて音なきむらさきの波(東海道名所記 四)
角さはふ 石見のくにの 白浪の 浜田のさとの 君がよを 長浜の村に ゆだねまき
おほせし麦の 五月きて ほに出る見れば その麦の くき一もとに さきくさの 三
穂ならび出 たまくしげ 二穂にわかれ いやさかえ 立さかえけり 千早ぶる 神の
みよゝり 天のした あを人ぐさの 二なき いのちつぐなる たなつもの 五くさの
中の をさとしも たふとむ麦の かく計 八重穂さかえて その名さへ 長浜の村に
なり出しは いまよりをちの 八百万 よろづよかけて 八十つゞき 君がしらさん
ことをしも 国つみ神の かしこくも しめしたまへる さがにやあるらむ
反歌
ながはまや八重さかえたる麦のほに としゆたかなるほども見えけり
(うけらが花 二篇七長歌)
△粟
みつみつし くめのこらが あはふには かみらひともと そねがもと そねめつなぎ
て うちてしやまむ(古事記 中)
千はやぶる神の社しなかりせば 春日の野辺ヌベに粟まかましを
春日野カスガヌに粟まけりせば待つ鹿に 継ぎて行かましを社しとむるを
(以上、萬葉集 三譬喩歌)
あしがらの はこねのやまに あはまきて 実とはなれるを あはなくもあやし(中略
)(萬葉集 十四東歌)
さなづらのをかにあはまきかなしきが こまはたぐともわはそともはじ(同)
△稗ヒエ
穂に出る夏田にまじるひえ草の ひえ捨られて世をや過さん
(倭訓栞 前編二十五比(新六帖))
水を多み上げに種蒔きひえを多み えらえし業ワザぞ吾れ独りする
(萬葉集 十二古今相聞往来歌)
△葭・浜荻ハマヲギ
二見がたいせの浜荻しきたへの 衣手かれて夢もむすばず
(倭訓栞 中篇二十波(萬葉集))
吾が聞きし耳によく似ば葦かびの あしなへ吾が勢セ勤めたぶべし
(萬葉集 二相聞 石川女郎)
水門ミナトなる 葦の末葉ウラバを 誰か手折りし 吾が背子が 振る手を見むと 我れぞ手
折りし(萬葉集 七雑歌)
海原ウナバラのゆたけき見つゝあしがちる なにはにとしはへぬべくおもほゆ
(萬葉集 二十)
難波がたしげりあへるは君が代に あしかるわざをせねばなるべし
(拾遺和歌集 九雑 たゞみ)
きみなくてあしかりけりと思にも いとゞなにはの浦ぞすみうき
あしからじとてこそ人のわかれけめ なにか難波の浦は住うき(以上、大和物語 下)
霜枯のこやのやへぶきふきかへて 蘆の若葉に春風ぞ吹
(新千載和歌集 一春 後京極摂政太政大臣)
△荻ヲギ
葦辺なる荻の葉さやぎ秋風の 吹き来るなべに雁鳴き渡る(萬葉集 十秋雑歌)
いもなろがつかふかはつのささらをぎ あしとひとごとかたりよらしも
(萬葉集 十四東歌)
山ざとの物さびしきは荻のはの なびくごとにぞ思ひやらるゝ(後撰和歌集 五秋)
秋をいかに思ひいづらむ冬深み 嵐にまどふ荻の枯はは(更級日記)
△萱
かはかみのねじろたかがやあやにあやに さねさねてこそことにでにしか
(萬葉集 十四東歌)
かち人のゆきゝの岡のかるかやは 折ふすかたや道となるらん(倭訓栞 前編六可)
まめなれどなにぞはよけくかるかやの 乱てあれどあしけくもなし
(古今和歌集 十九誹諧歌 よみ人しらず)
しら露のかゝるかやがてきえざらば 草葉ぞ玉のくしげならまし
(拾遺和歌集 七物名 忠岑)
我駒はしばしとかるかやましろの こはだの里に有とこたへよ(散木葉歌集 十隠題)
△茅チガヤ
わけがため 吾が手もすまに春野ハルノヌに ぬける茅花ツバナぞめして肥えませ
吾が君にわけは恋ふらし給ひたる 茅花をくへどいや痩せにやす
(以上、萬葉集 八春相聞 大伴宿禰家持)
天アメなるやさゝらの小野ヲヌに茅草チカヤ苅り 草カヤ苅りばかに鶉ウヅラを立つも
(萬葉集 十六有由縁並雑歌)
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