22b 植物を詠める和歌[植物総載〜松〜櫻]
△をがたまの木
玉柏をがたまの木の鏡葉に 神のひもろぎそなへつるかな(茅窓漫録 中(日本紀))
家にあれば笥に盛る飯を草枕 旅にしあれば椎の葉にもる(同(萬葉集 二))
神並にひもろぎたてゝ斎へども 人の心は守りあへぬも(同(萬葉集 十一))
はふり等がいはふ三諸の十寸鏡マスカガミ かけてぞしのぶ見る人なしに
(同(萬葉集 十二))
柏木に葉守の神のましけるを しらでぞ折りし祟りなさるな(同(大和物語))
玉柏しげりにけりな五月雨に 葉守の神のしめはふるまで(同(新古今集))
みよしのゝ吉野の滝にうかびいづる あはをがたまのきゆとみつらん
(古今和歌集 十物名 とものり)
△樒シキミ
おくやまのしきみがはにのごとや しくしくきみにこひわたりまむ(萬葉集 二十)
しきみつむ竹のはなこのはかなさも まことのみちにいらざらめやは
(夫木和歌抄 二十九樒 衣笠内大臣)
△桂
山人も月をちぎりの秋よりや かつらの花のころもうつらん
(夫木和歌抄 二十九桂 後九条内大臣)
△月桂タモ
みよしのゝ吉野の滝にうかび出る あわをか玉のきゆとみゆらん(松屋叢考 一)
かけりてもなにをかたまのきてもみん からはほのほとなりにしものを(同)
△紫陽花アヂサイ
あちさゐのやへさくごとくやつよにを いませわがせこみつゝしのばむ
(萬葉集 二十 左大臣橘卿)
あぢさゐの花のよひらにもる月を 影もさながらおる身ともがな(散木葉歌集 二夏)
△櫻
櫻よりまさる花なき花なれば あだし草木は物ならなくに
(倭訓栞 前編十 佐 貫之)
櫻花今盛りなり難波の海 おしてる宮にきこしめすなへ
(茅窓漫録 中(萬葉集二十))
あもりつく 天のかぐ山 霞立ち 春に至れば 松風に 池浪立ちて 櫻花 木コのくれ
しげに 奥辺オキベには かもめよばひて 辺津方ヘツカタに 味村さわぎ ももしきの 大
宮人の たち出でて 遊ぶ船には 梶棹カヂサヲも 無くてさびしも こぐ人なしに
(萬葉集 三雑歌 鴨君足人)
をとめらが かざしのために 遊士タハレヲの かつらのためと しきませる 国のはたて
に さきにける 櫻の花の にほひはもいかに(萬葉集 八 春雑歌)
去年コゾの春あへりし君に恋ひにてし 櫻の花は迎へくらしも(同 反歌)
あさみどり野べの霞はつゝめども こぼれて匂ふ花櫻かな(円珠庵雑記(菅家萬葉))
花櫻つもれる庭に風ふけば 舟もかよはぬ浪ぞたちける(同(重之集))
うつせみのよにもにたるか花櫻 咲くとみしまにかつちりにけり(同(古今春下))
△山桜
足びきの山桜花日並べて かくしさけらばいたも恋ひめやも
(萬葉集 八 春雑歌 山部宿禰赤人)
△火桜ヒザクラ
あづさ弓春の山辺にけふりたち もゆとも見ゑぬ火櫻の花(あいのうゴミフクロ抄 六)
みよし野の草葉ももゆる春の日に 今さかりなるひざくらの花
(新撰六帖 六 家良)
春をやくひかりはおなじ梢にも 分て名にたつひざくらの花(同 為家)
△朱桜カニハザクラ・カバサクラ
かづけども浪のなかにはさぐられて 風吹ごとにうきしづむ玉
(古今和歌集 十 物名 つらゆき)
△八重桜
いにしへのならのみやこの八重桜 けふ九重ににほひぬる哉
(詞花和歌集 一春 伊勢大輔)
△桜鑑賞
世の中にたえて桜のなかりせば 春の心は長閑からまし(桜之弁(業平))
春ごとに思ひやられし三吉野の 花はけふこそ宿に咲けれ
(続古今和歌集 二春 太上天皇)
△桜名木
深草の野辺の桜し心あらば ことしばかりはすみぞめにさけ
(古今和歌集 十六哀傷 かむつけのみねを)
初春の初花桜めづらしき 都の梅のさかりにぞ見る(西遊記 二)
△桜名所
あらし山これもよし野やうつすらん 桜にかゝる滝のしら糸
(新千載和歌集 二春 後宇多院御製)
芳野山きえせぬ雪と見えつるは みねつゞきさく桜なりけり
(拾遺和歌集 一春 よみ人しらず)
豊国の嵐の山の麓川 岩こす波は桜なりけり(豊前志 三企救郡)
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