23 植物を詠める和歌[梅〜榊〜竹]
参考:吉川弘文館発行「古事類苑」
△梅
日数まつ春ををそしと白雪の 下より匂ふ梅のはつ花(新撰六帖 六 家良)
我せこにまづ告やらん梅の花 あかぬ匂ひをきてもみるがに(同 為家)
うくひすのすつくるえだを折りつれば こをばいかでかうまむとすらん
(拾遺和歌集 七物名 よみ人しらず)
勅なればいともかしこしうぐひすの 宿はととはゞいかゞこたへん(同 九雑)
こちふかばにほひをこせよ梅のはな あるじなしとて春なわすれそ
ふるさとの花の物いふ世なりせば いかにむかしのことをとはまし
(以上、古今著聞集 十九草木 菅家)
うつしううる花は千とせの物なれば ちる木のもとをいそげとぞ思ふ(同 隆祐朝臣)
△桃
向峯ムカツヲに立てる桃の樹成りぬやと 人ぞさゝめきし汝ナガ情ココロゆめ
(萬葉集 七譬喩歌)
心ざしふかき時にはそこのもゝ かつきいでぬるものにぞありける
(拾遺和歌集 七物名 すけみ)
きぬがさをはるかとばかりみちとせの 桃の林やさしてゆくらん(一話一言 十六)
△李
いまいくか春しなければうぐひすもものはながめて思ふべら也
(古今和歌集 十物名 貫之)
吾が園の李の花か庭にちる はたれのいまだ遺りたるかも(萬葉集 十九)
きえがての雪と見るまで山がつの かきほのすもゝ花咲きにけり
(夫木和歌抄 二十九李 民部卿為家)
△杏カラモモ・アンズ
あふからもゝのはなほこそかなしけれ わかれむことをかねて思へば
(古今和歌集 十物名 ふかやぶ)
もろこしのよしのゝ山に咲もせで をのが名しらぬから桃のはな
(新撰六帖 六 為家)
いかにしてにほひそめけんひのもとの わがくにならぬからもゝの花
(夫木和歌抄 二十九杏 衣笠内大臣)
△梨ナシ・アリノミ
年ふれどかはらずながらつれなしの あらぬ物にも身こそ成ぬれ
(新撰六帖 六 家良)
いたづらにおふのうらなし年をへて 身は数ならず成まさりつゝ(同 為家)
をきかへし露ばかりなるなしなれど 千代ありのみと人はいふ也(相模集)
花の折かしはにつゝむしなのなしは ひとつなれどもありのみとみゆ(山家集 下)
甲斐がねに咲にけらしなあし引の 山なしをかの山なしの花
(甲斐国志 百二十三産物及製造(夫木集 能因法師))
△鹿梨ヤマナシ・アリノミ
山なしの花しら雪ふるさとの 庭こそさらに冬ごもりけれ
(夫木和歌抄 二十九梨 民部卿為家)
足曳の山なしの花咲しより たなびく雲のおもかげぞたつ(新撰六帖 六 家良)
きゝわたる面影みえて春雨の 枝にかゝれる山なしの花(同 為家)
△棣棠・山吹
山振ヤマブキの 立ちよそひたる 山の清水をば くみに行くぞと 道のしらなく
(萬葉集 二相聞 高市皇子)
花咲きて実は成らねども長きけに 念ほゆるかも山振の花(萬葉集 十春雑歌)
山吹の花取りもちてつれもなく かれにし妹をしぬびつるかも(萬葉集 十九)
うつせみは 恋ひを繁みと 春まけて 念ひ繁れば 引き攀ヨぢて 折りも折らずも 見
るごとに 情ココロなぎむと 繁山シゲヤマの 谷べに生ふる 山振を 屋戸ヤドに引き植えて
朝露に にほへる花を 見るごとに 念ひは止まず 恋ひし繁しも(同)
山吹を屋戸に植えては見るごとに 念ひは止まず恋ひこそまされ(同 反歌)
なゝへ八重花さけども山ぶきの みのひとつだになきぞかなしき
(後拾遺和歌集 十九雑 中務卿兼明親王)
△合歓木ネブノキ・ネムノキ・カウカ
昼は咲き夜は恋ひする合歓木花ネブノハナ 君のみ見むやわけさへに見よ
吾妹子ワギモコが形見の合歓木ネブは花のみに 咲きてけだしも実にならじかも
(萬葉集 八春相聞 大伴宿禰家持)
わぎもこがかたみのかうかはなのみに さきてけたしも身にならぬかも
(夫木和歌抄 二十九歓合木 中納言家持)
あきといへば長き夜あかすねぶの木も ねられぬ程にすめる月哉
(夫木和歌抄 二十九ねぶの木 民部卿為家)
△橘
千早ぶる神のみまへのたちばなも もろ木も共においにける哉(倭訓栞 前編十四多)
橘花タチバナは実さへ花さへ其の葉さへ 枝に霜ふれどいや常葉トコハの樹
(萬葉集 六雑歌 左大臣葛城王)
霍公鳥ホトトギス 来なく五月に さきにほふ 花橘の 香カをよしみ おやの御言ミコト 朝
暮アサヨヒに 聞かぬ日まねく(下略)(萬葉集 十九)
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