19b 歌合・歌会に関わる和歌
 
△歌合例
郭公
夏ふかき山里なれど郭公 声はしげくもきこえざりけり
あれにける宿のこずゑは高けれど 山ほとゝぎすまれになくなり(在民部卿家歌合)
 
春歌
花のかを風のたよりにたぐへてぞ 鴬さそふしるべにはやる(紀友則)
谷風にとくる氷のひまごとに うちいづる波や春のはつ春(源当純)
 
散と見てあるべきものを梅の花 うたて匂ひの袖にとまれる(素性)
声たへずなけや鴬一とせに 二たびとだにくべき春かな(藤原興風)
                          (以上、寛平御時后宮歌合)
 
恋
あふ事の夢ばかりにもなぐさまば うつゝにものはおもはざらまし
思ひつゝこひつゝはねじあふと見る 夢をさめてはくやしかりけり
 
さはべのもみぎはのかたもあやめ草 おなじ心にひくとしらずや
返事
おりたちてひくとしりせばあやめ草 ねたくみぎはになにまさるらん
                            (古今著聞集 五和歌)
 
みかくれてすだくかはづのもろ声に さわぎぞわたるゐでのうき草
                           (続世継 四をのゝ御幸)
 
たちばなの沢辺になるゝ春駒は おのがかげをや友と見るらん(源兼長)
                            (後拾遺和歌集 一春)
こひしなん命はことのかずならで つれなき人のはてぞゆかしき(永成法師)
                           (後拾遺和歌集 十一恋)
 
嵐吹みむろの山のもみぢばは 立田の川のにしきなりけり(能因法師)
                            (後拾遺和歌集 五秋)
かすが山岩ねの松は君がため ちとせのみかは万よぞへん(同)
                            (後拾遺和歌集 七賀)
 
都にはまだ青葉にてみはかども 紅葉散しく白川の関(頼政卿)(長明無名抄)
 
むかし思ふたかのゝ山の深き夜に あかつきとほくすめる月かげ(作者名かくし)
                            (古今著聞集 五和歌)
 
我のみや影もかはらむあすか川 おなじ淵せに月はすむとも(後嵯峨院御製)
                              (増鏡 八飛鳥川)
 
かねのおともかたぶく月にかこたれて をしと思ふ夜はこよひなりけり
                    (後嵯峨院御製)(増鏡 十三秋の深山)
 
雲雀
水草の清き原野にたつ雲雀 すめばこゝもとおもひ捨らん(勝間田盛稔左方)
                               (寄居歌談 一)
 
△撰歌合
あかしがた浦路はれ行あさなぎに きりにこぎ入あまの釣舟(後鳥羽院御製)
契おきし山の木のはの下もみぢ そめし衣に秋風ぞふく(同)(増鏡 一おどろの下)
 
さとの海士のしほやき衣たち別れ 馴れしもしらぬ春の雁がね
                           (権中納言藤原朝臣定家)
春もいまだ色にはいでずむさし野や わかむらさきの雪の下草(従二位藤原朝臣家隆)
                            (定家家隆両卿撰歌合)
 
桜ちる木の下風は寒からで 空にしられぬ雪ぞふりける(紀貫之)
我宿の花みがてらに来る人は ちりなん後ぞこひしかるべき(凡河内躬恒)
 
ほのぼのとあかしの浦の朝霧に 島がくれ行舟をしぞ思ふ(人丸)
和歌の浦に潮みちくればかたをなみ 蘆べをさしてたづ鳴渡る(山辺赤人)
                               (前十五番歌合)
 
朝日さすみねのしら雪むらぎえて はるのかすみはたなびきにけり(兼盛)
                                (袋草紙 三)
 
たつた河黄葉ばながるかみなびの みむろの山に時雨ふるらし(柿本人麿 拾遺冬)
夕さればかどたのいなばおとづれて あしのまろやに秋風ぞ吹(大納言経信 金葉秋)
                               (時代不同歌合)
 
左
橘の花散さとの時鳥 かたらひしつゝなかぬ日もなし(大納言旅人)
こゝにありてつくしやいづこ白雲の 棚びく山の西にあるらし(同)
いざやこらかしゐの方に白妙の 袖さへぬれてあさなつみてん(同)
右
あふち咲外面の木かげ露おちて 五月雨はるゝ風わたるなり(大納言忠良)
夕づくひさすや庵の柴の戸に さびしくもあるかひぐらしのこゑ(同)
たのめ置しあさぢの露に秋かけて このはふりしく庭の通路(同)
                            (新時代不同歌合 上)
 
△有心無心歌合
年ごとにこりずや有らん織女の あひて恋しき別れのみする
思ひやる心の空にしらるれば たなばたつめのわかれかなしき(亮子院有心無心歌合)
 
△男女歌合
しら雲はたちかくせどもくれなゐの うすはなざくら心にぞしむ
御かへし
白雲はさもたゝばたてくれなゐの 今一しほを君しそむれば(続世継 四薄花桜)
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