1502a 和歌作りのこと(つづき)
郭公きなかぬよひのしるからば ぬるよもひとよあらましものを(袋草紙 三 能因)
朝まだき八重さく菊の九重に 見ゆるは霜のおけるなりけり
月影は山のはいづるよひよりも ふけ行そらぞてりまさりける
としを経てかけしあふひはかはらねど けふのかざしはめづらしき哉
(袋草紙 三 長房卿)
いけ水にこよひの月をやどしもて こゝろのまゝにわがものとみる
(袋草紙 三 白河院)
わだの原こぎ出てみれば久方の 雲ゐにまがふおきつ白波
よしの山みねのさくらやさきぬらん ふもとの里に匂春かぜ
(続世継 五三笠の松 藤原忠通)
世中は憂身に添へる影なれや 思ひすつれど離れざりけり(長明無名抄 藤原忠実)
きく度にめづらしければ時鳥 いつも初音の心地こそすれ(落書露顕 けりん院僧正)
山のはに雲のよこぎる宵の間は 出ても月ぞ猶またれける
あふまでは思ひもよらず夏引の いとをしとだにいふときかばや
(野守鏡 上 道因法師)
我やどのかきねなすぎぞ郭公 いづれの里もおなじうのはな(袋草紙 三 元慶)
われのみとおもひこしかどたかさごの をのへのまつもまたたてりけり
(悪路草紙 四 藤原義定)
有明のつれなくみえしわかれより あかつきばかりうきものはなし
(古今著聞集 五和歌)
あまの原思へばかはる色もなし 秋こそ月の光なりけれ
冬来てはひと夜ふた夜を玉篠の葉分の霜のところせきまで
あけば又あきのなかばも過ぬべし かたぶく月のおしきのみかは
(隣女晤言 二 定家卿)
いかにして行てみだれむ陸奥の 思ひ忍ぶのころもへにけり(前宮内卿家隆)
思ひしれ胸にたくものした衣 うへはつれなき烟なりとも(忠俊)
(光明峯寺摂政家歌合)
真こもかるみつのみまきのゆふすゞみ ねぬにめさますほとゝぎすかな
芳野川花の音してながるめり 霞の中の風もとゞろに(徹書記物語 下 慈鎮和尚)
ふくる夜の河音ながら山城の みつ野のさとにすめる月かげ(頓阿)
あやしくもかへさは月のくもりにし むかしかたりに夜や更ぬらむ(智蘊入道)
わすられぬ昔はとほく成はてゝ 今年も冬は時雨来にけり(典厩下野)
(徹書記物語 下)
一葉散る柳の糸のたえまより 影さへ細き秋の三日月(鳩巣小説 上 武藤小兵衛)
よしの山花待頃の朝なあさな 心にかゝる峯のしら雲(翁草 五 信濃守信斎)
渡らじな瀬見の小川の浅くとも 老の浪よる影もはづかし(石川嘉右衛門源重之)
七十の年ふるまゝに鈴鹿河 老の浪よる影ぞかなしき(前大僧正隆弁)
(茅窓漫録 上)
もくづかく仕わざも今宵あらはれて 月にかしこきみる目をぞ思ふ
(蜒(延冠+虫)アマの焼藻の記 下 森山孝盛)
つめばかつうきをなぐさむ草の名を 心づくしとなどかいひけん
(松屋叢話 一 千枝子)
馴て見し軒端の松よこゝにすむ のちのあるじのちよをともなへ
(閑田次筆 二 尾崎通斎)
△拙歌
かけてこそ思はざりしか此世にて しばしも君に別るべしとは(さらしな日記)
五月雨にしらぬ杣木の流れきて をのれと渡す谷の梯キダハシ(拙歌の例)
五月雨やふるの高橋水こえて 浪ばかりこそ立渡りけれ(手本歌)(悦目抄)
あめ地のわきてそれとはなけれども まづみせそむる春の色かな(耳底記 一)
やたがらすかしらにおきてしのゝかみ 句の末におき題の歌よめ(袋草紙 一)
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