16 和歌のこころ
参考:吉川弘文館発行「古事類苑」
△贈答
つゝめども袖にたまらぬ白玉は 人をみぬめの涙なりけり(あべのきよゆき)
かへし
おろかなる涙ぞ袖に玉はなす 我はせきあへず滝つせなれば(小町)
つれづれのながめにまさる涙川 袖のみぬれてあふよしもなし(俊ゆき)
返し
あさみこそ袖はひづらめ涙河 身さへながるときかばたのまむ(業平女)
まつ人は心ゆくとも住吉の 里にとのみは思はざらなむ(後冷泉院)
御返し
住吉の松ともさらにおもほえで 君が千とせのかげぞ恋しき(大貳三位)
そのかみやいのりをきけん春日野に おなじ道にも尋行哉(後一条院)
御返し
くもりなき世の光にや春日野の おなじ道にも尋行らむ(上東門院)
あだなりと名にこそたてれ桜花 年にまれなる人も待けり
返し
けふこずばあすは雪とぞ降なまし 消ずはありとも花と見ましや(業平)
(以上、悦目抄)
恋しさはおなじ心にあらずとも こよひの月を君みざらめや
返し
さやかにもみるべき月をわれはたゞ なみだにくもるをりぞおほかる
人しれぬなみだに袖はくちはてぬ あふよもあらばなにゝつゝまん
返し
君はたゞ袖ばかりをやくたすらん あふには身をもかふとこそきけ
君やこしわれや行けんおぼつかな 夢かうつゝかねてかさめてか
返し
かきくらす心のやみにまよひにき ゆめうつゝとはこよひさだめよ(以上、俊頼口伝)
あかたまは をさへひかれど しらたまの きみがよのひし たふとくありけり
(弟玉依毘売)
答
をきつとり かもどくしまに わがゐねし いもはわすりじ よのことごとに
(比古遅)
(古事記 上)
しなてる かたをかやまに いひにゑて こやせる そのたびとあはれ おやなしに
なれなりけめや さすたけの きみはやなき いひにゑて こやせる そのたびと あ
はれ(日本書紀 二十二推古)
いかるがの とみのをがはの たえばこそ わがおほきみの みなわすらにめ
(法王帝説)
(以上、上宮聖徳太子伝補闕記)
遊士ミヤビヲと吾れは聞けるを屋戸かさず 吾れかへりませおその風流士ミヤビヲ
(石川女郎)
報贈
遊士に吾れはありけり屋戸かさず かへせる吾れぞ風流士にはある(大伴宿禰田主)
(萬葉集 二相聞)
つみもなき人をうけへば忘草 をのが上にぞおふといふなる(伊勢物語 上)
ゆくさきにたつしらなみの声よりも おくれてなかんわれやまさらむ
ゆく人もとまるもそでのなみだ川 みぎはのみこそぬれまさりけれ(土佐日記)
あし引の山ゐの水はこほれるを いかなるひものとくるなるらん
うすこほりあわにむすべるひもなれば かざす日かげにゆるぶばかりぞ(枕草子 五)
散ぬべきはなをのみこそ尋つれ 思ひもよらずあをやぎのいと
(古今著聞集 五和歌 雅通)
いにしへのそのすがたにはあらねども 声はかはらぬものにぞ有ける(橘大君栄職)
いにしへのそのすがたにはあらねども 声はかはらぬものとしらずや(橘大周)
(袋草紙 三)
たまだれのみすのうちよりいでしかば そらだきものと誰もしりにき
(袋草紙 三 藤原清輔)
雲のうへはありし昔にかはらねど 見し玉だれの内やゆかしき(十訓抄 二 成範卿)
うれしさも匂も袖に余りけり 我為をれる梅の初花(吾妻鏡 二十 朝盛)
昨日見しすがたの池に袖ぬれて しぼりかねぬといかでしらせん(源運)
返事
あまたみしすがたの池のかげなれば たれゆゑしぼるたもとなるらん(少将)
(古今著聞集 五和歌)
色もかもなれし人をや忍ぶ覧 みせばや梅の花の盛を(弁内侍)
返事
ながめばやなれこし梅の花のかも 今九重に色はそふ覧(権大納言)
また
匂ひなき色を重ねて梅の花 つらくも人に咎められぬる(弁内侍)(弁内侍日記 上)
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