1502 和歌作りのこと(つづき)
△歌枕(名所の歌)
例題歌無し
△詞書コトバガキ
我やどのなげきは春もしらなくに なにゝかはなをくらべてもみん
(後撰和歌集 三春 こわかぎみ)
△歌品
上品上
ほのぼのとあかしの浦のあさ霧に しまがくれ行船をしぞ思ふ
春たつといふばかりにやみよしのゝ 山も霞てけさはみゆらん
上品中
み山にはあられ降らし外山なる まさきのかづら色づきにけり
あふさかの関のし水にかげみえて 今やひくらむ望月の駒
上品下
世の中にたえて桜のなかりせば 春の心はのどけからまし
望月のこま引わたす音すなり せたのながみち橋もとゞろに
中品上
たちとまり見てを渡らん紅葉ばは 雨とふるとも水はまさらじ
かのをかに草かるおのこなはをなみ ねるやねりそのくだけてぞ思
中品中
春きぬと人はいへどもうぐひすの なかぬかぎりはあらじとぞ思
いにしとしねこじてうへしわが宿の 若木の桜はな咲きにけり
中品下
きのふこそさなへとりしかいつのまに いなばそよぎて秋風ぞ吹
我をおもふ人を思はぬむくひにや わがおもふ人の我を思はぬ
下品上
吹からに野べの草木のしほれるば むべ山風をあらしといふ覧ラン
あらしほのみつのしほあひにやくしほの からくも我は老にけるかな
下品中
今よりはうへてだにみじ花すゝき ほに出る秋はわびしかり鳧ケリ
わがこまははやくゆきこせ松浦山 まつらんいもを行てはやみむ
下品下
よの中のうきたびごとに身をなげば ひとひにちたび我やしにせん
あづさ弓ひきみひかずみこずばこず こばこそはなをこずばこばいかに
こずはこずこばこそこずばそをいかに ひきみひかずみよそにこそみめ
(以上、九品和歌)
△自讃歌
津の国のなにはの春は夢なれや あしの枯葉に風わたるなり
よられつる野もせの草のかげろひて 涼しくくもる夕立の空
山里の秋のくれにぞ思ひしる かなしかりける木枯の風(自讃歌)(愚秘抄 西上人)
夕されば野べの秋風身にしみて 鶉啼也ふかくさの里
面かげに花の姿を先だてゝ 幾へこえきぬ峯の白雲
三吉野の山かきくもり雪ふれば 麓の里は打時雨つゝ(自讃歌)
(長明無名抄 藤原俊成)
雲と見ば今宵の月にうからまし よしやよしのゝ桜なりとも(長頭丸随筆 松永貞徳)
△秀歌
思ひかねいもがりゆけばふゆの夜の 川かぜさむみちどりなくなり(貫之歌)
わがやどの花見がてらにくる人は ちりなんのちぞこひしかるべき(躬恒歌)
かぞふればわが身につもるとし月を おくりむかふとなにいそぐらん(兼盛歌)
風ふけばおきつしらなみたつた山 夜半にや君がひとりこゆらん(貫之)
つのくにのながらのはしもつくるなり 今はわが身をなにゝたとへん(中務君)
こひせじとみたらし河にせしみそぎ かみはうけずもなりにけるかな(元輔)
(以上、奥義抄 上ノ上)
夕さればかどたの稲葉をとづれて あしの丸やに秋風ぞ吹
君が代はつきじとぞ思ふ神風や みもすそ河のすまむ限は
興つ風吹にけらしなすみよしの 松のしづえをあらふしら波(大納言経信)
山桜咲初しより久方の 雲ゐにみゆる滝のしら糸
おちたぎつ八十氏川の早瀬に 岩こす波は千世のかずかも
鶉鳴真のゝ入江の浜風に 尾花波よる秋の夕暮
ふる里は散もみぢばにうづもれて 軒の忍ぶに秋風ぞ吹
明日もこむのぢの玉河萩こえて 色なる波に月宿りけり
思ひ草葉末に結ぶ白露の たまたまきては手にもたまらず
うかりける人を初瀬の山おろし 烈しかれとは祈らぬものを
とへかしな玉櫛の葉にみ隠れて もずの草ぐきめぢならずとも(俊頼朝臣)
葛木や高間の山の桜花 雲ゐのよそにみてや過なむ
秋風にたな引雲の絶間より もれ出る月の影のさやけさ
高砂の尾上の松を吹風の 音にのみやは聞わたるべき(顕輔卿)
冬枯の杜の朽葉の霜の上に 落たる月の影のさやけさ
君来ずば独やねなむさゝのはの み山もよそにさやぐ霜よを
難波人すくもたく火の下こがれ うへはつれなき我身なり鳧ケリ
ながらへは又このごろや忍ばれん うしと見しよぞ今は恋しき(清輔朝臣)
あたらよを伊勢の浜萩折敷て いもこひしらにみつる月哉
契置しさせもが露を命にして 哀ことしの秋もいぬめり(基俊)
又やみんかたのゝみのゝ桜がり 花の雪散はるの明ぼの
世の中よみちこそなけれ思ひ入 山のおくにも鹿ぞ鳴なる(藤原俊成)(下略)
(以上、近代秀歌)
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