GLN町井正路訳「ファウスト」

第二十二場 ワルプルギス夜の夢

楽隊長
 美人の膚につどいきて、
 喙や嘴もてなやますな、
 さても五月蝿き蝿と蚊よ。
 いざ奏楽にとりかゝらん、
 乞う準備せよ我が楽師、
 葉の間の蛙と藪蟋蟀。
 
風信機  (一方に向いて)
 見渡す限り花嫁よ、
 見渡す限り花婿よ。
 満足の色漲りて、
 希望の流れ洋々たり。
 
風信機  (他方に向いて)
 こちらを見れば皆悪魔、
 大地裂けなば皆失せよ、
 然らざれば吾行かん、
 地獄へ行くがましなるぞ。
 
ゼニエン
 父なるサタンを崇めんと、
 小さな鉗(かなき、くびかせ)を手に持ちて、
 昆虫(むしけら)の如くいでたちて、
 吾等一同控えたり。
 
ヘンニングス
 見よ彼方なる一群を、
 さも楽しげに戯れて、
 互に慕い慕われつ、
 末変らじと誓うまで。
 
ムザケット
 妖魔の群に入るを得ば、
 日頃の願はかないたり、
 げにミューズを御(ぎょ)すよりも、
 妖魔を御すこそ容易けれ。
 
前代の奇才
 才ある者は其の価値を、
 いつしか認め得らるべし。
 いざ登らん共々に、
 ブロック山の頂上は、
 パルナサスにも譬うべし。
 
探奇旅行家
 誰人なるか彼の人は、
 傲然として歩みつゝ、
 僧侶を尋ねおわするよ、
 獲物を嗅ぎ出す犬のごと。
 

 威ある紳士と悪魔とが、
 交わり結ぶ様を見て、
 清水汚水の差別なく、
 漁りなすを怪しむな。
 
未信者
 真の信仰あるものは、
 見る物毎に信念を、
 深くせざるは無かりけり。
 げに此の神山に建てられし、
 寺院の多くは未信者か。
 
舞踏者
 はるかに聞ゆる太鼓の響き、
 新たに来れる唱歌隊?(ママ)。
 周章狼狽する勿れ、
 蘆の中なる単調な、
 五位鷺どもに相違なし。
 
師匠
 舞踏の隊は進み行く、
 曲りし脚は跳ね進み、
 肥えたる脚は飛び進む、
 外観などは懸念せで。
 
胡弓師
 妖魔は互に相憎み、
 屠るを以て快事とす。
 袋笛を好みて集い来る、
 獣を集めしオルフェスの琴のごと。
 
独断家
 懐疑の叫びも批評の声も、
 吾が信念を妨げず。
 此処に悪魔を見るからは、
 無用のものとは云い難し。
 
理想家
 今宵はなぜか吾が心、
 幻想沸きて止め度なし、
 万有の精は吾が心、
 今見る物は万有か、
 果して然らば吾狂せん。
 
実体論家
 吾を苦むる者は実在か、
 もはや見るに堪え難し。
 今宵始めて悟りたり、
 かよわき立脚地(たちば)に吾は立つ。

超自然家
 此の光景を見るにつけ、
 心の晴れて心地よき、
 神に関する結論は、
 悪魔の性より知り得べし。
 
懐疑家
 鬼火を追うて行く時は、
 宝に達し得らるゝか。
 疑惑は悪魔の間者なり、
 迷わされぬは吾一人。

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