GLN町井正路訳「ファウスト」

「ファウスト」解題

(一〇)一六三七年に西班牙(スペイン)の詩人カルデロンは「不可思議なる魔術師」 と題せる脚本を作ったが、奇想天外より落つると云うので、大に世の喝采を博し、 傑作として喧伝せられたのであるが、これも亦所謂「ファウスト物語」からヒントを 得たものゝ一であった。それで我が詩聖ゲーテの手に成れる「ファウスト」は、 其の着想に於ても、骨子に於てもカルデロンの劇に類似の点が多いので、人或は ゲーテが西班牙語の該作を読んだのであろうと疑うのであるが、併し夫れは当らず、 両者何れも「ファウスト物語」に資料を採ったと云うの外には何等関係は無いのである、 それでゲーテ自身は「ファウスト」劇の前半をかき了る迄は、「不可思議なる魔術師」 という署名さえ聞いたことは無かったと云うことである。

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