GLN町井正路訳「ファウスト」

「ファウスト」解題

(七)十六世紀の末葉に、独逸語で記(か)かれた一書フランクフュールトに 現われた、で其の書の表紙には左の如く記してあった。
 
「知名の妖術家ドクトル、ヨハン、ファウストの伝記 − 悪魔との契約 −  契約期間に於て博士が親しく見聞し遭遇せる不可思議の事実 − 魔術者としての 博士の最期 − フランクフュルト − ヨハネス、スパイス。」
 
(以下添え書)此の書は博士ファウストが書き残した記録に依ったもので、自分 (其の著者)が此書を著わした目的は、神の教に背反することが、如何に恐るべきかを 知らしめるにある、信仰を認めざる人、奇怪なる事を好む人は、此の書を読んで 「悪魔を退け神に服従せよ」という古人の金言を味う可しである。」
 
 此の書の内容は後に記す通りであるが、多大の売行に依て商人に巨利を与えたことは 著しい事実で、翌年すぐ第二版が出て、次で一五八九年第三版が発行された、 著者が監督の下に出版せられた古書は、ライプチッヒの書肆ハインリッヒ、ヒルゼル氏 之を所持して居ると云う。それで何版も発行されたものゝ内、一八七八年、教授 ツアルンケの出版になったものが最も明瞭で、それで其の書は三巻から成って、 全部を通じて六十八章あるが、其の第一巻はファウストの誕生、教育及び性質を記し、 第二巻は物質界に関する悪魔との談話、地獄の旅行及び諸天体と他の星辰とへの旅行の 状況を述べ、第三巻はファウストが各国の朝廷へ冒険旅行を試みる処から、遂に 悲惨な最期を遂げる迄を記してある、下に更に其の梗概を記そう。

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