27a 哲学のすすめ[科学の基礎にも哲学がある]
 
〈社会学・法律学の場合〉
 
△社会の実態調査
 以上のことは、他の諸学問にも云えます。
 社会学における有力な立場は、社会の実態調査を重んずる実証主義的な考え方です。
世論調査などの多くの調査を行って、実際に社会の人々がどのような考えを持っている
か、或いはどのような行為をするか、などを研究しようとする考え方です。
 
△何を調査するか
 社会学が学問的意義を持つためには、その調査が社会の本質的現象についての調査で
あることが必要です。即ち、現代の社会の根本的特徴を示す必要があります。それでは
現代社会の本質とは何でしょうか。結局、これも社会学者自身の関心が異なるに応じて、
調査対象の項目も異なると思います。
 
△調査の結果の解釈
 更にまた調査の結果をどのように解釈するかと云う問題も、社会学者の世界観・哲学
と深く結び付いています。
 社会の実態調査は、それだけでも意義を持ちます。調査結果としての統計が、どのよ
うなことを示していると云う、統計の解釈が必要になります。統計の見方にはいろいろ
あります。
 社会学者が統計に表れた社会現象について、何らかの価値判断をし、社会的発言をす
るとき、単に事実的研究に留まっているだけではなく、その人の哲学を基礎にして発言
しているのです。
 
△条文の解釈
 例えば、憲法九条の解釈について、ある人はこの条文は自衛のための戦争までをも禁
ずるものではないとし、別の人は自衛のための戦争まで禁じているなどと、異なった解
釈がなされています。
 条文は勝手に解釈されるべきものではありませんが、このように異なって解釈される
と云うことは、それは世界観・哲学の相違に起因していると思います。
 
〈ソクラテスの態度〉
 
△人間か学問か
 私は、実証科学者たちは哲学に関心を持つべきであり、正しい哲学を持ってこそ、初
めて正しい人文科学や社会科学が成立すると思います。
 人間が生きている限り、価値判断が最も重要な問題であり、この重要な問題を学問の
領域から取り去りますと、その学問は魂のない形骸化されたものになります。
 
△ソフィストとソクラテス
 ソフィストとは、人間的な事柄についての知識は、自然についての知識ほど客観性を
持ち得ないとの考えを持つ人を云います。ソフィストは人間的な事柄、例えば何が良く、
何が悪いか、の判断は相対的なもので、それについては学問は成立しないと考えました。
ソフィストたちが詭弁を弄して、白を黒と言い丸める弁論の術をも用いました。
 ソクラテスもこのような人間的事柄は、どのようにすれば学問的認識が成立するか知
りませんでした。ソクラテスの「無知の知」とは、正に彼がこのことについて自分の無
知を知っていたのです。
 ソクラテスは自分の無知を自覚しながら、人間にとって最も重要な哲学の問題を、何
とかして学問的に解く道を求めました。このことによって、彼は人類の永遠の師と云わ
れているのです。

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