03 哲学・思想序曲[哲学の基礎概念]
 
                  参考:自由国民社発行「現代用語の基礎知識」
 
 哲学者には必ずその人のキーワード(鍵言葉・重要語)があります。そのキーワード
を手がかりにして、哲学に入って行くことが出来ます。そのキーワードは「概念」とい
う形を執ります。主な概念を理解しておきましょう。
 
△ギリシャ哲学 Greek Philosophy
 哲学は人類の歴史とともにあると云えますが、伝統的な西洋の哲学はギリシャから始
まったとされています。ギリシャでは早くから自然の世界のあり方を考える自然哲学が
成立していました。ところが、「あなた自身を知りなさい」という"ソクラテス"によっ
て初めて「人間」が哲学の対象となった、と云われています。弟子の"プラトン"が書い
た『対話』などによってソクラテスの思想を知ることが出来ます。プラトンは、理性に
よってのみ認識出来る"イデア"の世界と、それを模倣する現実の世界、更にそれを模倣
した"模像"の世界を区別し、段階付けました。観念の世界を重視したプラトンに対し、
アリストテレスは、経験に基づく知識を重んじましたが、二人の哲学は中世ではキリス
ト教の神学と結び付いて展開されます。
 
△スコラ哲学 scholasticism
 中世のキリスト教思想はギリシャ思想、特にアリストテレス、プラトンの哲学と結び
付いて、キリスト教の教義を理論化しようとしました。それは「神はなぜ存在するのか
」と云った問題を複雑な考え方で繰り返して論じました。スコラ哲学は、中世の教会・
修道院で展開されていましたが、細かい問題を採り上げて詳しく論じたので、「煩瑣ハンサ
哲学」と批判されることもあります。しかしスコラ哲学は、伝統的な西洋哲学を支える
ものの一つです。
 
△ユダヤ思想 judaism
 ユダヤ思想は、ただ一つの神ヤーウェを信仰するユダヤ教を基礎とするユダヤ人の思
想です。旧約聖書を聖典とし、その注釈・解釈を中心に形成されて行ったユダヤ思想は、
単にユダヤ人の世界だけではなく、欧米の思想に大きな影響を与えて来ました。スピノ
ザ、マルクス、ベルクソン、フロイトなど、ユダヤ系の思想は今日まで大きな影響力を
持っています。またカフカを始めとするユダヤ系の作家・芸術家の作品の理解のために
も、ユダヤ思想を知る必要があり、そのためにはユダヤ人の歴史についての知識も不可
欠です。
 
△観念論 idealism/唯物論 materialism
 観念論と唯物論は我々人間が、対象である世界を見るときの、対立する二つの考え方
です。観念論は、主体の心の中にある観念を優先させ、それによって対象である世界が
認識されるとする。これに反対の立場が唯物論で、観念ideaよりも対象である物質
matterを重視し、物質的なものが世界を動かしいるとする。唯物論は古代ギリシャから
存在しましたが、それが哲学史において重要になったのは近代のことであり、自然科学
の発達と関係があります。唯物論は観念論に対立する考え方であると同時に、中世以来
のキリスト教の考え方を批判するものでした。
 マルクス、エンゲルスは歴史の展開は、経済を中心とする物質的なものの変化を基礎
にするものであるとして、弁証法的唯物論を主張しました。
 
△一元論 monism/二元論 dualism/多元論 pluralism
 現実の世界の現象は極めて多様ですので、それを説明したり理解するためには、何ら
かの原理が必要である。たた一つの原理で総てを説明するのが一元論です。
 近代の哲学は、精神と物質をはっきりと区別したデカルトの二元論を出発点として来
ました。最近になって、デカルトの二元論が、人間と世界、精神と物質を分離し過ぎて
いると云う批判が高まり、物に意識を認めようとする考え方も復活しつつあります。し
かし他方では、一つの問題や出来事を、様々な側面から考える傾向が強くなっていて、
現代を多元論の時代と規定することも出来ます。
 
△認識論 epistemology
 認識論は"エピステーメー(知)"についての理論であり、人間の認識がどのように成
立するかを考察します。従って認識論は、対象・世界と人間との関係についての理論で
す。近代の認識論はカントによって確立されたと云われ、対象・世界の認識における主
体の役割が確認されました。
 現在では、対象・世界そのものが認識の対象となるのではなく、それを表現している
とされる言語・記号と対象・世界の関係が問われます。認識論の仕事は記号論(後述)
の仕事と重なっています。
 
△帰納 induction/演繹 deduction
 多くの具体的な事実のデータから、一般的な原理を導き出して来ることが帰納で、そ
の反対に、一般的な原理を予め前提しておいて、そこから個別的な場合を推論するのが
演繹です。従って、帰納は経験主義の方法であり、演繹は合理主義の方法です。実際の
生活の中での推論はこの二つの方法を両方とも用いてなされますが、論理学・数学では
両者を厳密に区別します。数学的帰納法は、哲学・論理学の帰納の方法を数学に応用し
たものです。
 
△ロゴス logos/パトス pathos
 ロゴスとパトスとは、論理的なものと感性的なもののことです。ロゴスは理性的・科
学的・論理的なものを、パトスは情念的・感覚的・身体的なものを示します。
 人間の認識や行動の仕方は、程度の差はあっても、ロゴス的かパトス的かの何れかに
分類されます。ロゴスは論理を原理とし、パトスは情念を原理とします。しかしロゴス
とパトスを単に対立させるのではなく、両者を相互に補い合うものと考えるべきです。

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