12 神社有職故実
 
〈殿舎・社頭の装飾とその用具〉
 
△殿舎・社頭の装飾
▲殿舎の装飾
 殿舎の装飾は最も大切なことで、神社の尊厳を保持すると否とは、その適否如何に係
ります。延いては神威の発揮と崇敬心の向上とに重大な影響を及ぼしますから、常に留
意しなければなりません。乃ち日常心懸くべき事項を「殿舎装飾五個条」として次に示
します。
一 有職故実を詳ツマビラかにして神社伝統の仕来りを十分尊重すること。
二 清潔清楚を旨とすること。
三 各殿舎の性質に鑑み、それぞれ適合した装飾を施すこと。
四 色彩・形体・模様等の調和を計り、色彩は単調を避けて変化を見せ、本殿に濃く、
 拝殿以下に至るに従い漸次淡くすること。
五 総て本殿を中心としてこれを最も重く取扱い、以下を漸次に逓減してゆくこと。
▲社頭の装飾
 社頭の装飾は殿舎装飾の主旨に基づくべきは勿論、参道より神域に入り神前に近付く
に従い変化を見せつつも、調和と統一ある装飾を施し、以て神域全体の尊厳と整備とに
留意し、一歩神域に入れば参拝者をして自ら襟を正さしめるところがなければなりませ
ん。
 
△殿舎・社頭の装飾用具
▲簾ミス(翠簾ミスとも)
 簾は竹を編んだ帳チョウの名、内外を屏障する用具で、古く上代から用いられました。神
社では本殿・幣殿・祝詞舎・舞殿・拝殿・直会殿以下社務所に至るまで、各殿舎の装飾
に用います。本殿の簾は鉤カギも鉤丸コマルも外側に附けますが、その他のものはこれを内
側に附けます。かかげ方は、内巻に巻き上げます。
▲幌トバリ(帳トバリとも)
 幌は戸張りの義で、窓に垂下して内外を蔽遮する用に供します。神社では本殿の内陣
・外陣ゲジンの正面、その他御羽車、鳳輦、神輿、錦蓋、菅蓋等各種装飾の具に供しま
す。本殿の正面には奥に幌を、直ぐ前に簾をかかげます。
▲壁代カベシロ(帳壁代チョウノカベシロ・帷壁代トバリノカベシロとも)
 壁代とは壁に代うる帳の謂で、神社では本殿内の周囲(正面には幌をかける)にこれ
を懸けます。また幣殿その他にも用います。
▲幔マン
 縦縫タテヌイのを幔、横縫のを幕と称します。神社では幄舎アクシャの周囲、その他中門、神
饌所、直会殿、宿衛舎等で便宜障蔽の用に供します。種類には、(1)白幔ハクマン、(2)斑幔
ハンマン(黒白や紅白、五色など)、(3)地質により錦幔キンマン、緞子幔ドンスマン、絹幔ケンマン、布
幔ヌノマン等があります。
▲幕マク
 幕は神社では幄舎の周囲、社務所などに用いますが、本殿、幣殿、拝殿等の主要殿舎
には不調和につき使用せぬがよい。
▲軟障ゼジョウ・ゼンジョウ
 軟障は神社では、舞殿・直会殿等の室内装飾用として後ろの壁に掛けます。
▲真榊マサカキ
 真榊は明治八年神社祭式に社頭の装飾として制定、即ち殿舎の左右又は祭場の左右に
樹てます。榊(常盤木)の枝を桧の八角棒杭に纏い附けて左右対称に樹て、向かって右
榊に玉、鏡、五色絹を取懸け、向かって左榊に剣と五色絹を取懸けます。
▲榊サカキ(賢木とも)
 榊は常緑樹で栄える木であるからこれを以て清浄の表示とします。神籬、真榊、大麻、
玉串、注連縄シメナワのほか、また神門、鳥居、御垣ミカキ等の左右にも差し立てます。
▲斎竹イミダケ(忌竹とも)
 斎竹は忌清イミキヨまわり、不浄を入れない表示で、神門、楼門、玉垣、鳥居等の左右に、
或いは祭場の四隅に樹てます。葉付の青竹を左右相対に、或いは四方に樹ててこれに注
連縄を張り渡します。
▲注連縄シメナワ(七五三縄シメナワ・標縄シメナワとも)
 注連縄は縄久米縄シリクメナワの約言で、斎竹と同様、不浄を界隔し、聖域たるを示し、ま
た清浄を標示する意です。社殿、祭場、神門、楼門、玉垣、鳥居、注連石等に引き渡し、
或いは神籬、神輿その他神事用具にも引き廻らします。注連縄は新藁を左綯ヒダリナイに綯
い、綯いながらその端を数筋ずつ一定の間をおいて数カ所出し、その間間に紙垂を挿み
ます。大根じめ、牛蒡ゴボウじめ、板じめ等があり、何れも紙垂を附けます。張り方は本
モトを向かって右に、末を向かって左(地方によっては逆の処もある)にし、四方に張る
には、祭場南面の東北隅(又は右奥の隅)から始めます。
▲紙垂シデ(四手シデとも)
 紙垂は「しだれ」の約言で、紙片を幣串、榊枝などに取垂トリシでて神前に奉り、また清
浄の標識とします。神社では神籬、幣串、大麻、小麻、玉串、注連縄等に取垂でます。
紙垂は奉書、美濃紙、半紙等で作り、普通に幣串、玉串、大麻、注連縄等には四垂ヨタレを
用います。垂れ方により白川流と吉田流との二様があります。
▲桙ホコ(矛とも)
 桙は秀木ホコの義と云い、神社では儀矛ギボウとして神宝、殿内・社頭の装飾、神幸の鹵
簿等に用います。
▲楯タテ(盾とも)
 楯は隔ヘダテの義、また植タてて箭ヤを防ぐ意とも云います。神社では桙と同様、儀楯と
して神宝、殿内・社頭の装飾、神幸鹵簿等に用います。持楯モチタテと据楯スエタテとの二種が
あります。
▲旗ハタ(旌ハタ・幡ハタとも)
 旗は長き義とも云い、神社では祭場、社頭の装飾、又は神幸鹵簿の儀飾等に用います。
▲獅子シシ・狛犬コマイヌ(高麗犬コマイヌ・駒犬コマイヌ・胡摩犬コマイヌとも)
 獅子・狛犬は元来エジプト・ペルシャ・インド等で行われたものが支那、朝鮮を経て
わが国に渡来したものです。「正を守り、邪を防ぎ、神社守護の標示である」とされま
す。神社では本殿の内外、又は拝殿前に据え、又は社頭の装飾にもします。向かって右
方に獅子(口を開く)、向かって左方に狛犬を向かい合い(或いは各外方向にも)に据
えます。
▲随神ズイシン(随身とも)
 随神は、向かって右方が年長者で、向かって左方が壮年者、何れも剣を佩き、弓を執
ります。本殿外或いは随神門等の左右に置きます。
▲門帳モンチョウ
 門帳は神門に懸ける帳で、幌トバリと同形、かかげ方なども幌と同じです。
▲鈴スズ
 鈴は音の涼しきより名付くと云います。鈴を鳴らすのは、これによって神慮をお慰め
申すのですが、またその音の清濁によって心願成就を判ずるとも云います。神社では拝
殿前、或いは神輿の鈴縄スズワなどに取懸けます。或いは巫舞ミコマイの持物にも用います。
鈴に附ける紅白又は五色の紐は、これを通じて心願が叶う意からこの紐を「叶緒カネノオ」
と云います。
▲立砂タテズナ(盛砂モリズナとも)
 立砂は一種の威儀物とされ、更にお清めの意義を持つようになりました。神社では本
殿、拝殿、著到殿チャクトウデン等の前面左右に砂を円錐形にうず高く盛り上げます。これは
お清めのためで、世俗では門口に盛塩をしますが、これと同じ意味です。
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